第3話 頭の中で突っ込みを入れるのは誰ですか?
さっきから、頭の中で突っ込みを入れるのは誰ですか? うるさくて仕方ないんですけど……。一人突っ込みって笑えないですよー。なんか、二つの人格が私の中に存在しているみたいです。
突っ込みさんの言う通り、たしかに犯罪かもしれない。しかし、二人の距離が急接近したのは私のいじめのせいじゃないの?
それでも私は安心していた。爵位としては私の家の方が上、ましてアメリーナ王国建国の立役者6星剣の家柄。人権なんてない時代でしたからね。でも私の場合は、そのしっぺがえしが想像を超えて悲惨だったの。
王国のパーティの席、公衆の面前で婚約破棄をケルンに言い渡され、抗議したお父様のガルシア公爵家も、今までのずさんな領地経営や、人身売買、密輸など重ねた悪事が、ケルンに暴かれお家断絶。公爵家の私でさえそんなことになっているとは思わなかったし、お父様もずいぶん無実の罪だっておっしゃっていたんですが……。そういえばケルンの周りには、宰相の息子や、騎士団長の息子、王立魔法研究所の所長の息子など、優秀な人間で回りを固めていて、お父様の悪事を裏で色々調べていたみたい。
最初から侯爵家は目を付けられていたんです。私はお父様を油断させるために、ケルンたちの行動の目くらましに使われていたみたいです。
そうなんです。私は両親の犠牲になったんです。天下6剣と呼ばれた6星剣の一角を担う公爵家だったはずなのに……。
そういう訳で、私は貴族をはく奪された挙句、ケルンとマリアの婚約式典を見せつけられた後、ガルシア家の罪およびマリアを殺そうとした罪を断罪され、断頭台に送られてしまいました。
そう、私の記憶はみすぼらしい恰好で広場に引き立てられ、兵隊に断頭台に首を無理やり入れられ……。断頭台の刃が迫ってくるところで記憶が無くなっています。
ああっ、私ってガチで、悪役令嬢だったんだー!!
そして、私のもう一つの手掛かりとは、杏奈が気に入っていたマンガの「アメリ―ナ王国の花嫁」と全く同じストーリーと同じということなんです。
これって、私の前世ってマンガの世界が実在していたとしか考えられないんですけど……? それとも、杏奈がマンガにのめり込んだ挙句、自分の境遇を現実と空想の境があいまいになってしまったアレなの。……中二病的な……。ほら、ストレスで現実逃避。その結果、自分はアンナの生まれ変わりだって信じ込んじゃって、アンナという二重人格を生み出しているとか?
いや、でも自分に置き換えるなら、断然、主人公のマリアじゃない?
ああっ、もう、全然わかんない。
それに、「アメリーナ王国の花嫁」は、私が死んでからも話が続いていて、やがて王妃になったマリアは、実は敵国ローマニア帝国のスパイ。国家機密を握られ、巧妙な情報戦を仕掛けられたあげく、王国内の6星剣同士が内紛を起こし、国政が混乱したところで、ローマニア帝国が攻め込んできて、あっけなくアメリーナ王国は滅んでしまった。
まったく、どうしようもないバットエンドじゃない。
ガルシア公爵家の暴かれた悪事の数々も、実はマリアから流された偽(にせ)の情報。
まんまと、ハニトラに引っかかるバカ王子が一番悪いのだけれど、物語の前半に色々張られたマリアに関する伏線、それを偶然、阻止しようとした記憶が前世の私にあるって言うことは、私結構いい仕事をしようとしていたの?
別に、マリアがスパイだと気が付いていたわけじゃないけど……。心底、マリアのこと嫌いだったんだけど……。
もっとも、この「アメリ―ナ王国の花嫁」の冒頭で6星剣聖の活躍でアメリーナ王国を建国したエピソードを上げていたのに、その後、6星剣聖の話は出てこずじまい? 作者は何らかの伏線のつもりで書いたんでしょうけど、きっと回収するのを忘れたに違いない。だれが6星剣聖の役割をするのか楽しみにしていたのに!
でも今はそんなことよりも、私が人の見分けがつかないことよ。アンナの時だって、人の顔の見分けはついていたでしょ。
あれ、私取り巻きたちの令嬢たちの顔が全然思い出せない。たまたま、髪の毛の色がピンクとかパープルとか瞳の色がブルーとかグリーンとか、それで見分けを付けていたみたい。
この学校は、髪の色は真っ黒で、髪型は男子は丸坊主、女子はおかっぱで、みんな似たり寄ったり、制服だって紺のブレザーに膝丈スカート。顔で判別しなければ見分けがつくはずがない!
そうか、私はアンナの時から、人を人とも思わなかった。まるで、その辺の石ころのように扱ってきたんだわ。
必要がないから、その力を取り上げられたの? 人を見分ける能力を……。
私は、がっくり肩を落とした。
(そう、あなたは相貌失認(そうぼうしつにん)。別名、失顔症。顔を見てもその表情の識別ができず、誰の顔か解からず、個人の識別ができなくなる症状です。症状の差はあっても、50人に1人の割合でこれに該当する症状を抱えています。
クラスに一人ぐらいの割合で、コミュニケーションに悩んでいる友達がいれば、実はこの病気を患っているのかもしれません。そういう友達の前では、胸に赤い羽根とかを付けて上げると、その子はとても助かるでしょう。
あれ、話が飛びましたが、杏奈、あなたは前世の行いの報いを受け、この相貌失認の重症患者なのです)
ナレーションのように、頭の中に、天から言葉が降ってくる。
これって、私をこの世界に転生させた神様の声? そんなはずはないよね。私、神様なんて信じていないし、これはご都合主義的な説明係がいないために起こった、例外的、空前
的、シナリオ外的な、突発的幻聴ですよね。
さあ、えらいことになった。私が途方に暮れたところで、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます