第4話 先生が出ていくと
先生が出ていくと、早速、私の周りには女の子が群がり始めました。私から色々な情報を引き出そうとして、質問攻めにしてきます。
特に私の前に陣取った三人。
今この状態で、私に話し掛けないで。だってあなたたちの顔、みんなへのへのもへじなんだもん。
右側の子、へのへのもへじがゴシック体、きっと目鼻立ちがはっきりしているのね。それに真ん中の子は明朝体。これは純和風の顔立ちなんだわ。そして左側の子……、草書体、崩し書きって……。
「ねえねえっ、私は三国加奈。美晴さんって、どこから引っ越してきたん?」
これって方言かしら? それに三谷さん。あなたは私の中では、ゴシックさんですから。でもその質問、私が自己紹介で自慢したかったことなんです。
「ええっ、東京からなんです」
余所行きの声色を使って、言葉の裏にあなた達とは、生まれも育ちが違うのよと言う格の違いを見せつける。
真ん中の明朝さんが、誘導尋問するように話に入ってきたんです。
「えっ、東京のどこ? 私、春休みにディ〇ニーランドに行ってきたんよ」
「そうなの? 私、ディ〇ニーランドの近くに住んでいたの」
今度は草書さんが鋭い一撃を放ってきた。
「えーっ、ディ〇ニーランドって千葉にあるんでしょ?」
むかっ! この草書さん、中々の事情通ね。関東では既知の事実と認識されていますが、こんな田舎まで、東京ディ〇ニーランドの看板に偽り有りが認知されていたとはね。
明朝さんの誘導尋問に乗せられて、千葉県民にされるところだった。
「ええっ、私の住んでいたところは、江戸川区なの。だから、ディ〇ニーランドにも近いし、有名な観光地では、葛西臨海公園が一番近いかしら」
ちょっと、イラついた声で言ってしまった。それに表情にも出ていたかしら?
「「「葛西臨海公園?!」」」
周りから驚きと戸惑いの声が聞こえた。
えっ、皆さん知らないの? 結構、ドラマとかのロケ地としても有名なのに?
「中学聖日記の最終回で、有村架純さんが乗っていた観覧車が在るのよ。それに水族園もよくテレビで放映されるでしょ」
「ふーん?」
明朝さんが私の話に、あいまいな相槌を打ってきます。
もしかして、ド田舎だから放映されていない? でも、放送局はTBSで全国放送だったはず……。これがテレビ東京だったら危なかったけど。だったら夜十時からの放送だからね。この辺だと夜十時は、もう中学生は寝ている時間。確か生徒手帳にも書いてあった記憶がある。
「あーっ、そういえばあったあった。あの観覧車って、日本一乗っている時間が長い観覧車なんよ。会うことを禁止された二人が、ゴンドラと地上から、最後の話をするんよね」
「高橋さん!」
明朝が、自分の後ろで声を上げた女の子を、のの字の目を細めて、鋭く制した。
「ごめん。江坂さん」
すぐに、高橋と呼ばれた女の子は明朝のの字に謝っている。
えっ、テレビドラマの話なんって普通のガールズトークじゃないの。それに目くじらたてるなんて……。
「まあ、東京都いっても所詮下町、山の手の内側じゃあ無いってことよね」
草書さんが、そう私に言った時、チャイムが鳴って、私の周りに群がっていた女の子たちが、私から離れて自分の席に帰って行った。
二時限目の国語が始まったが、私はそれどころじゃなかった。
なにあの態度。向こうは私のプロフィールを先生に聞いて知っていたんだ。それに東京について、ちゃんと下調べをしていたのね。
下町って、最近じゃお台場に、スカイツリーに、一番ホットなトレンディスポットじゃない。敢えて下町と言っていることに、悪意を感じるわ。
どうやら、私に話しかけてきたゴシックの三国、明朝の江坂、草書はまだ名前を聞いていないけど、この三人がこのクラスのヒエラルキーのトップと感じよね。高橋って子が明朝に攻められてすぐに謝っていたし。
それなら、私だって「生き馬の目を抜く」と言われる貴族の社交界という戦場で、貴族という立場を武器に、実弾飛び交う中、一時はトップに君臨したアンナ・ガルシヤよ。まだ、社会経験のないガキどもなんて、私の美貌と話術で、すぐさま私の前にひざまずかせてやるわ。縦ロールは伊達じゃないんだから。
私はシャーペンを持つ手に力が入っていた。
あら、国語の板書を書き写すのに、何度も芯を折ってしまったわ。ほほほって。
しかし、二時限目が終わった休み時間でも、気合を入れた私を取り囲んだ女の子たちに軽くいなされ、撃沈したのでした。
「ねえ、美晴さんって、どの部活に入るの?」
「えーっと、前の学校では、バレーをやっていたわ」
「ふーん。でも、この学校にはバレー部ってないのよね」
「えーっ、そうなんだ。だったら、みなさんはどんな部活に入っているの?」
「「「「……」」」」」
顔の見分けがつかないから、あえてみなさんと言ってみたけど、返事がない。なんで? 普通は、自分の入っている部活を押してくるんじゃないの?
まるで私の部活なんて興味がないという風に質問が変わった。
「ねえ、美晴さんって、前の学校で彼氏がいたの?」
来たー! 思春期の私たちが一番興味ある話題。残念ながら、私はまだ男の人とお付き合いしたことはない。でもこの美貌、決してモテなかった訳ではないのよ。
「彼氏はいなかったわ。私に告ってくる男子もいたんだけど、私の好みじゃなかったのよね」
「へえー。美晴さんってモテたんだー(笑)」
「そんなことないのよ。私、そんなに可愛くないから……(って(笑)ってなんなの? 喧嘩を売っているの?)」
「「「「……」」」」
そこで無言なの。私が謙遜しているんだから、そこは嘘でも「そんなことないよ」とか言うのが礼儀じゃない。それなら私が聞いて上げる。どうせ彼氏なんていないんでしょうから。社交辞令というものを見せてあげるわ!
「あなたたちって、彼氏や好きな人がいるの?」
「「「「……」」」」
ケッ、自分たちの事は、徹底的に黙秘ですか……。
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