第51話 侵食の大地

 復旧と執筆の作業を同時並行で行うコンディション調整が難しい日々の中で、

被災地の街中ではある異変が目立ち始めていた。


 外国からの救助隊と思しき団体が姿を見せ始めていたのだ。


 海外で災害が起こった際、日本からも被災地へ自衛隊や救助隊が派遣されることはあるのでそれ自体に問題はない。

今回も外海へ進出して帰ってこれない日本の軍隊の代わりとして諸外国に要請をかけ、それに応じた国が救助隊を派遣しているのだろう、そう思っていた。


 実際、街をうろついて作業しているのは主に欧米系の軍隊のようであったし、

人手が不足している日本のため人道的支援の名目のもと派遣されている同盟国の軍隊だと、隊の方からもそう言われていた。


 復興作業で触れ合う漁村の人々にも愛想よく振る舞い、概ね評判も良く、

日本の救助隊である我々とも連携をして規律正しく作業をおこなっている。

この分だと復興に向けた街の片付けは早まるだろう、誰もが始めのうちは大して気にはかけていなかった。


 だがそんな諸外国の救助隊に、怪しい国の軍隊が混じっているのではないか?と

やがてそこら中で噂が立ち始める。

 

 確かに、欧米系の救助隊に交じって時折、アジアの大陸系と思しき言語と見た目の集団がたむろしているのを見かけることが増えていた。


『・・・ニー、チンハン、マオ。シェンマ・・・』

遠くから聞こえてくる話し声からは、やはり敵性国家の言語の響きがする。


 その喋り声を聞きながら作業する我々隊員たちの間には、徐々に不快感が広がっていった。


 ただ私たちC3隊員たちとすれ違っても特に不審な動きをすることもなく、復旧支援活動自体はしっかり行っているように見える。


『ジャーヨ!ハオダー。マンツゥオ・・・・・ツァイツェン!ワッハハハ』


 何を言っているかはちょっとよく分からないが、私たち日本の隊員と挨拶のような言葉を交わすこともあった。

それ自体は相手にエールを送っているような雰囲気で、前向きな姿に見えたのだが。


「ちっ、っせーな。何言ってっか分かんねえんだよバーカ!

絶対お前らあの国から紛れ込んだスパイ連中だろう!?ったく何してるか分かったもんじゃねえな~!」


 だが一部の隊員たちは、その不審な救助隊員たちと鉢合わせるとあからさまにケンカ腰になり、どうせ分からないからと顔を近付け文句を浴びせている者もいた。

おかげで相手方にも不信感が広がり、日に日に険悪なムードは広がっていった。


 確かにその集団は一見、例の共産主義国家の連中に見えなくもない。

近頃、救助隊を装って日本に侵入して活動を行う工作集団の噂もあった。

 しかし一方日本の同盟国には、ほぼ同じ民族構成と同種の言語を使う島国もあって、そこからの支援の可能性もある。


 もはや我々では対処のしようもなく、

こういう場合しかるべき立場の人間が出てきて、早く真相を判明させるべきではないか?と、私は要らぬ問題が起こらないうちの迅速な対処を願うほかなかった。



 怪しげな救助隊の問題は一向に解決する兆しも見せずに数日が過ぎ、

もはや常態的に所属不明の救助隊は活動するようになっていた。


 我々も無視を装っていたが、どこかあやふやな気分のまま活動ををしていたある日のこと、以前処罰を受けたものたちによる盾の部隊、

通称“シールド隊員”に対してのみ、唐突に招集がかけられた。

とうぜん私もそこに含まれるので呼び出しに応じる。


 みな久々の呼び出しに若干の不安、緊張の顔色を浮かべながら、

C3部隊が常駐するホテルの一室に6名のシールド隊員が集まる。


 するとまず始めに盾の隊長を名乗る人物から、極秘の任務を与えると言われる。


『これから伝えるのは極秘の任務なので絶対に部外に情報は漏らすな。

成功しても失敗してもお前らシールド隊員だけの特殊な事情として、甘んじてこれらの結果を受け入れてくれ』


 そう前置きとして述べられる。

最悪の結末をも予感させる、あまりにパンチの利いた振りを入れられたことにより、隊員たちにはみるみる動揺が広がっていた。


 続いて本題の任務内容について説明が入る。

『最近復旧支援活動として諸外国から集まっている軍隊組織に、未確認の部隊があるとウワサされているのは周知のとおりだ。

その実態を君たちで調査してこい!』

との命令を受ける。


 正に、例の共産主義国家のスパイだと疑われている救助隊のことだった。

復旧作業の中で最も懸念されていたことで、絶対に関わりたくない任務であった。


 この時点で隣の隊員からはうめき声や深いため息が聞こえ、私も血の気が引いていくのを感じていた。


 さらには調査手順として、一例をレクチャーされる。


『君らアレ、銃持ってるだろ?レーザーガンだ。

それを試しにその不審な連中に撃ってみろ』と、あまりにも軽い調子で上官から攻撃の許可が下される。


「は、はあ?いやっ僕ら基本撃ってはダメだって、お前らはシールドだから何があっても耐えて見せろって仰ってたじゃないですか?ほかに調べる方法はいくつかあるでしょう?」

 私は即座に反論をし、そばにいた隊員たちもうなずいてそれに同調を示す。

もちろん危険な行いに身を晒したくはなかったからだ。


『まあ時と場合による。誰も交戦しろまでは言っていない。今は緊急を要する事態で、直ちに真相を確かめる必要性がある。

だから君らのうち誰でもいいんだ、その疑わしい部隊を発見したなら、そのうちの一人を目がけて一発そのレーザーガンを発射してみろ。それで大方相手方の性質が判明する。

案ずるな、もし実際の支援団体だとしても気絶する程度、その者どもに軽いショックを与えるだけだ』


『もし相手方が本物の軍隊で、いやそうなら絶対撃ち返してきますよ。そうなったら我々はどうすればいいんでしょう?相手方と対処するだけの武器を我々何も持っていません・・・・』


『アハハッ、そうだ。だから君らは撃ったら即刻退避しろ。どちらにしても決して見つかってはならない。相手がもし銃器による反撃をしてきた場合、

間違いなく敵性国家によるスパイ、工作集団だとみて間違いない、生き延びてそのように報告してくれ、後は我が国の正規軍が対処するだろう、頼んだぞ』

『はっ、はあっ・・・・・いやっ・・・』


 あまりにも平然と危険な任務を命令するものだから、みな事の重大性を感じられなくなっていた。ただとりあえずうなずいておこう、そういった雰囲気だった。


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