第39話 賛同者

「うわっ五島さんこれ見て、やった!今日当たりっす、カツサンドっすよ。

めちゃ肉厚だし」

「ははっホントだ。僕も好きなんだカツサンド、ガブッ。あ~何食べても今は美味しい」

「えっ私といるから?ってウソウソ。働いた後だからですよね、私も同感です。なんか女芸人のノリ出してゴメンっす五島さん」


 通常誰かと食事を共にするのは、それが特に異性となればかなりの親密さがないと気まずいものなのだろうが、その点、安西さんは私の恋人としての対象ではないというのもあるが、常に私の好きそうな話題を振って話しかけてくれるので、集中して会話と食事を楽しむことが出来た。


「私もう食べたっす、めちゃ上手いっすねコレ。税金で賄ってるにしてはだけど。コンビニに発注してるらしいっすよ、セブンだって言ってました」

「へえそうか、だからあのコンビニ特有の舌にピリッとくる化学調味料がうまみを引き出してるのかー」


「ははっそうっす。・・・・てかゴメン話変えますけど、五島さんって本読むのわりと好きなんすよね?どんなの読んでるんすか?興味あるんです私も・・・・・、

ゴクン」

「ああウン好きだよ。読むのも書くのもね」

彼女にはつい、自分のことをベラベラと喋りたくなってしまう。


「えっ書いてるって!?小説とかってことっすか?スゴイっすね私も一度書いたことありますけど、まあまあ難しかったっすよ」

「だよな、僕もそう思う。・・・・てかさあ安西さんも好きって言ったよね?

どんな本とか小説とか読むの?お勧めとかあったら聞かせてほしいな」

「おすすめっすか~。そうだな~・・・・・」


 彼女を試すつもりで私は聞いていた。

これまでの話から感性やフィーリングが合うのは感じていたが、もし小説で私が嫌いな作品でもあげようもんなら惜しいが彼女との交友関係に少し溝が出来ると、内心ドキドキしていた。


 だからどうか私が望む種類の本を安西さんが挙げますようにと、

もしくは小説なんて全然読まなくなったと、もう嫌いとでもいってくれと願っていた。


「私はラノベ・・・・・・」

 その言葉を聞いた瞬間、あからさまに私はガクッと肩を落とした。

しかし次の言葉を聞いた瞬間、すぐに前を向き目を見開かされる。


「・・・・とか前は一時期読んでたんすけど~、最近のはもう全然おもんなくて嫌いになったっす」

「はっハハハハ。うんそうだよ、だよな。僕もそう思ってる!」


「何ていうのかな、元からラノベってそうだったんすけど、アレって作者の主観入り過ぎっすよね。展開もあまりにざっくりして都合よすぎで、段々共感できなくなっていったんすよ~。まあしょせんラノベに何求めてんだって話だし、まあ私が女子だからかもっすけど」

「なるほどね」


「それからは十五国記とか読むようになったんす、アッチの方が明らかにロマンあふれる重厚な作品でまあまあハマるんすよ」

「ああそれは確かに。僕もそれは読んでるし」


 彼女の意見は私と概ね似ていると感じたし、分析力があって今後の小説のためになる話ばかりだった。


「昔はアニメから入ってラノベも読んでたりしてたんすけど、最近はそのアニメ自体がつまんなくなっちゃって。なんすかアレ?日本アニメスゴイとか、自慢しだしたあたりからっすかね~?もうその頃には賞とったジプリとかやらなくなってるのに。大体自画自賛しだすとその国や会社終わりって感じしますよ、実際そうですよね~?」


「あははは、正に最近の日本だよなそれ。・・・・・てかここで言っちゃマズいか?」


「いや良いんすよ別に。二人だけの会話なんだし。私だって最近もっぱら見てるのは韓流っすから。知ってます愛のスクランブルとかイデオンクラス?めっちゃおもろいっすよ。もう今の日本のアニメなんか相手にならないってか。やっぱあまりここでは大声では言いにくいんすけど」


「いや、実際僕もそう思うし。あっちのドラマは自分たちの生活に関連ある、社会性のあるテーマを扱っていながら少しファンタジー要素なんかもあって、人の共感を得やすかったり、世界の興味も惹きつけちゃうんだよ。

日本のアニメなんてめちゃ内向きでご都合主義だらけで、少ないパイの中だけでグッズやディスクだけ売ろうとしてるんだから、そりゃジリ貧にしかならないよ」


 韓流やほかのアジア発のドラマが面白いというのは私の立場上素直に喜ぶべきことではないが、もはや日本の陳腐なドラマを凌駕して久しいのは厳然たる事実であった。

いくら日本のアニメも世界進出などとほざこうが、有料視聴者数が段違いに違う。


「おっさすが五島さん、よく分かってるっすね!ふんふんそれで?」

「あと韓流なんかは役者のレベルが総じて高い。歌手とかもそうだけど、エンタメのプロが育ってるよな。それに比べて日本のはお遊戯会みたいなアイドル連中でパッと見で冷めるよ」


「そうっすそうっすよ~!わたしも思ってたこと五島さんが言ってくれてるっす。

思うに日本の作品て総じて自由をはき違えてる気がするんすよね~。何でもアリな作風を求め過ぎた結果段々つまんなくなったてか。一時期ありましたよね~今もだけど自由を礼賛しすぎた時代。経済は自由主義であっても、社会や文化的には多少制約あった方が絶対上手くいくって気が、アタシはするんすよ~!」

「うん、何となく分かるなそれ」


 私は気分が良かった。

彼女の狙いがどこにあるのかなどと勘繰ることもなく、安西さんは私に気があるのだろうと勘違いして、乗せるように合いの手をついているのだろうと判断し、話をするうちにだんだんと気分がよくなり、舌を回転させていった。


「あとあれはダメだと思うのがあって。難病ものと自己啓発本。

ああいう薄っぺらい話を感動するとか人生変わるとか言っちゃう人って、それまで自分で何考えて生きてたんだろうっていっつも不思議になるんだ。

そんな薄っぺらい本で人生変わるぐらいなら、また違ったことで衝撃受けたら今度は真逆の方向に人生を誘導されしちゃうんじゃないか?

あの程度の本で感銘を受けて泣いちゃう人の感性は僕は理解できないし、小説やエンタメの文化的な危機だと思う」


「あっ、私も分かるっすそれ。ああいう感動系とか感涙必至、ツッターで人気で人生変わる!とかほざく自己啓発小説とか、聞くだけで虫唾が走って、アンタらが勝手に決めんな!って思っちゃうっすよ」


 上手くいかない小説のこと、対人関係や恋愛、人生のアレコレも彼女に話していると、自分に問題があるのではなく全ていびつなこの社会、そしてそれを原作として扱う能力のない今の日本の文化エンタメ事業全体に問題があるのだと、すり替えられているようで楽しかった。


 まるで自分が別世界の識者になったような口ぶりで、私は話し続けた。


 彼女が受け入れて聞いてくれるのがとても心地よく、彼女に話す言葉一つ一つが、非常に重みのあるものに感じられていた。


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