第40話 存在理由

 C3隊員としての任務は段階を経て変わっていった。

初めのうちは、男女隊員共同での公園や森林、海岸の清掃活動などから始まり、後に男性は道路整備などの土木工事や、太陽光パネルなどの敷設をおこなうインフラ整備事業を行うようになっていた。


 女性隊員はお年寄りのデイケア施設の手伝いや、学童保育の補助員、病院の看護業務など、人出に困っている職種へ駆り出されることが多かったようだ。

 

 体力勝負のしんどい任務が多かったが、隊員たちは黙々と行う作業にやりがいと技術力のアップを感じられていたようで、皆たいして文句も言わず黙々と良い表情をして作業していた。


 私も週3、4日の隊員任務の合間に、安西さんや仁村くんとたまに会ったりしながら、創作のヒントと気持ちのゆとりを得て小説を書きながら過ごす日々に、わりと生活の張りが出てきたのを感じつつあった。



 そんな安定した日々が数か月続いたのち、C3隊員の任務は唐突に警備の領域にも及び始め、治安維持活動と称して街中や施設の警護・警戒にあたるようになった。


 部隊長から聞くところによると、沖縄本島を含む、南洋の各諸島で騒乱が起こり、それが対馬や九州各地などでも便乗して発生している影響らしかった。


 その対応を、外洋へ進出して数が少ない自衛隊改め国家防衛軍の代わりに、国家権力である警察が出動して対応しているため、街の治安を維持する人員が不足しているという理由から私たちの地域衛生保全部隊が出動することになったわけだ。


 活動次第では保守層に向けたいいアピールになるぞ。と部隊長は意気込んで、その事前準備として以前言われていた警備用の銃、

レーザーガンと呼ばれる護身用簡易銃が、ついに隊員全員に支給されることになった。


『いいか、それはあくまで威嚇用だ。カッコだけ持ってるというアピールに使うものだ。使っても気絶する程度でどうこういうものではないが基本使うな。許可が出てから発砲すること。いいか絶対に勝手に使うなよ~!』

 部隊長は言い含めるように、使い方や使う上での規則、モラル等を諭していたが、その話す表情はどこか嬉し気で、まるで使えと言わんばかりの芸人のフリみたいに聞こえてしまっていた。


 聞く方もみな、物珍しいおもちゃを手にした子供かサルのようで、大事そうに銃を握りしめては撃つ恰好などをとり、これはもう誰が最初に撃つのだろうかと、焦点はそこに絞られているようだった。



 まず手始めの治安維持活動として、我々は都会の街中での警備任務にあたらされることになった。


 班ごとにシフトと巡回パターンが組まれ、都会の街中を見回りながら犯罪に目を光らせ、マナーを守るよう啓発活動などをおこなっていく。


「あの~皆さまー、私どもは地域衛生保全活動を行うC3部隊の者でーす!皆さまの暮らしの安全や、身の回りのトラブル全般をー、この度警察に代わり対応させていただいてますのでーどっどうか何かありましたらご相談のほどお願いいたしまーす!」


 私たち同じヌーB班のメンバー5人で、C3部隊を宣伝するチラシ入りのティッシュやライトなど、部隊を宣伝するグッズなどを配りながら巡回するが、街の人たちの視線は厳しかった。


『何なのあの男の人たち気色悪っ。ちょっと厳つい格好させちゃって。はんっ軍隊気取りかよ。世も末よね、普通に警察でよくない?』


『だっさ。あんな奴らに絶対従わねぇし!逆になんか言ってきたらシバいてやろう』


『なんかアイツら隊員どうしで乱交パーティしてたらしいじゃん?ネット記事見たぜ。あれマジだってさ、ブサイククズどうしで何やってんだよ、ププッまじウケる』


 それもそのはず、つい去年までは単なる無職のごろつき連中に過ぎなかったメンツが、突如街の治安を維持する任務を与えられたものだから不慣れさが前面に出て、落ち着きの無さや緊張感が伝わり、街の人たちを不審がらせていたのだろう。



「あの~すいません。ここは受動喫煙および飲酒飲食、あと他人のパーソナルエリアに近付くことは禁止区域ですので~、それらの行為は慎んでもらうようお願いします」

 それでも私たちは自分たちの役割を果たそうと啓発活動をおこなったり、マナーの悪い人間に注意を促すなど、アクティブに対人折衝を行っていたのだが。


『はあっうっせーな。おっさんたち誰、警察じゃないんでしょ?なら俺が何しようが勝手だろ。ほらっどけよ気持ち悪ぃ、やっちまうぞコラァ!』


「チッ・・・・ったく。お前こそ俺たちが誰だか分かってんのか。この街の治安を護ってる地域衛生保全隊員だぞ、この国をお前らみたいな輩や外敵からよお!」

「ちょっと重村さん。抑えて」

 少しでも相手が言うことを聞かないと、もとより若者や軟派ものに嫌悪感を抱える一部の隊員の自制は利かなくなり、ケンカ腰になってしまうのも無理からぬ話だった。


「しっかりトレーニング受けてんだぞ俺たちはよお。何だ!それがお前ちょっと注意されたからって逆ギレすんなや!女性にはちゃんと手順を踏んで声をかけろ、この大バカ者が!ブチ込むぞ!」

『はあんだとコラァ、やってみろやおっさん。ええコラ!?』

「まあまあ、とりあえず下がりましょうお互いに」


 最近街中の警察が少なくなっていることは世間的にも周知の事実であり、街中には明らかにモノホンと思える無法者連中がたむろしだし好き勝手に振舞いだしていた。

 

 ただでさえ苦労しそうな場面ばかり、

そこへポッと出の国家事業として集められた元ならず者にすぎない我々が、警察組織の代わりなんて重たい役目を果たせるわけもなく、問題をより広げ、生み出すことの方が多かったぐらいだ。


 

 その極めつけとして事件が起こる。

ある日の任務途中、目の前で立っていた私たちC3隊員を素通りしてコンビニへと刃物を持ったフルフェイスマスクの男二人組が入っていった。


 それは明らかな不審者、いや強盗であり、我々も即座に制圧行動をすべきだったのだろうが、あまりにとっさのことで班員の誰もが身が強張り何もできなかった。

なのでそのまますんなりとレジから金品を盗んだ二人組強盗は、またも私たちの目の前を通って立ち去ってしまう。

 

 それでもなお、私たち隊員は周りを窺って何もできず、情けなくも棒立ち状態で誰かが指示を出してくれるのを待っている様子だった。


 「おっ追えー!」

 沈黙を破る様に、私が班員メンバーに号令を出した時にはすでに遅し。

犯人はバイクに乗って逃げ去る寸前で、もはや対処のしようもなかった。


 だがそこで何をパニくったのか、アイドルオタクの古村くんが、遠くへ離れていくバイク目がけて、射程12メートルのレーザー銃を発砲してしまう。


 それが運悪いことに、近くの一般市民の男性に当たり卒倒をさせてしまう結果になった。


『キャーっ!撃った~、撃ったわよ~!あのたっ隊員のやつら!キャーサイアク!逃げてーチコちゃんこっちへ逃げなさい―!』

 市民を護るという建前で街を徘徊している隊員が、その公衆の面前で悪党を見逃したうえ市民を傷つけてしまうという、とんでもない不祥事を重ねて働いてしまうという、なんたる悲劇。


 幸い、男性は気を失う程度の軽傷で済んだが、我々C3隊員、班長である私、それ以上に私のいるB班の評価は地に落ちることとなった。


「ドンマイっすよ五島さん。なんか楽しいこと考えて話しましょう」

「ああそうだな。僕はよくこういう時、小説のネタに出来ないかなって考えるんだけど、さすがにコレは無理かも」

 同じ場所で任務につくことの多かった安西さんは、事あるごとに私の元を訪れ励ましてくれた。

そんな彼女に勇気づけられ、次第にすがるようになっている自分が情けなかった。


「無理じゃないっす。考え方が柔軟な五島さんなら出来るっすよ、なんか面白い話出来たらいつでも聞かせてくださいっす」


 これまでは小説のことを思い浮かべると心が落ち着くことが多かったはずだが、C3隊員になってからは、今考えているのが小説のことか現実のことなのか次第によく分からなくなっていた。





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