第27話 新生活の門出
【18歳から49歳までの健康な男女
学歴・職歴、資格等は一切問わない。
・地域の衛生保全活動 ・インフラ、公共施設等の整備活動
・お子様やお年寄りを見守る活動
・災害地域等の復旧活動
などの活動にあたってもらいます。
住む場所の無い方には寮などによる住居も提供可能
それぞれの任務に応じて日給を支給。一日1万2千円~2万5千円】
見るとほとんど経歴的な条件は無いに等しい。来るもの拒まず。
公な機関が誰にでも仕事を与えてあげますよ的な、正に大規模浮浪者救済策、大型公共事業だ。
お手軽にメールやチャットアプリなどのツールを使っての応募も可能ということで、私も即座にメールで情報を送り登録だけは済ませておく。
先日総理大臣から発表された、新設の活動隊員募集のお知らせ。
地域の人々の暮らしを守るための活動部隊、
地域衛生保全隊員、通称C3隊員。
地方公共団体から発行されているニュースを眺め、その募集要項を具体的にチェックしてからすぐに、私はその隊員活動に応募することを決めた。
何故ならこれは任意の活動であり、決して専従して労役に当たらなければならないわけではない。
あくまで自分の出来る範囲で地域への貢献活動が出来るという名目だったからだ。
これなら小説活動へのさしたる妨げにはならず、生活費を稼ぐことも出来る。
この好条件に私は有無を言わさずに飛び込むことにした。
この不況の最中まともな仕事もない中で、名誉ある活動をしながら小説もかけて、給与までもらえるという好条件。
少し希望めいたものを感じて、久々に胸が高鳴るのを感じていた。
すぐさま登録に対する返信がメールでもたらされる。
【五島タケル様―――地域衛生保全隊員への仮登録、有難うございます】
――つきましては後日、3月○日、3月×日 3月△日、
いずれかの日程で地域衛生保全活動に関する、説明会を開催したいと考えております。
ご都合のつく日程でのご参加お願いできますでしょうか?
開催場所といたしましては、裏面の地図の場所にある、
・ハローワーク ・勤労会館 ・若年者サポートセンターの各所にておこなわせていただきます。
その際、隊員活動への申し込みを希望される場合、本登録をお願いしたいと考えておりますので、
・マイナンバーカード(もしくはマイナンバーが分かる証明書)
・胸から上の写真(なくても可)・履歴書(なくても可)
・ボールペン(無くても可)、
・スマートフォン(無くても可)をお持ちになって会場までお越しください。
ご希望の日程、場所が決まれば、こちらのURLから返信を――――――】
公共事業にしては、やや派遣登録業者の香りがする胡散臭いメールだが、
おそらくまたどこぞの企業が官庁から発注を受けて業務を行っているからだろう。
私はさして気にせずに希望日と場所の登録を済ますと、小説の執筆に戻ることにした。
――――――――――
『今夜7時の広島行きの新幹線に乗って私は島根に向かうわ。もし五島くんが一緒に来てくれるというのなら、新大阪駅前のロイヤルパレスホテルで5時に待ってる。ほんの少しだけど、二人でいっしょに最後の思い出を作りましょう』
麻里香からの誘いの文面を頭の中で言葉に乗せて反芻させると、三島は状況もわきまえず胸が高鳴るのを感じていた。
先日二人での旅立ちを誘われた時点では、麻里香の涙や放つ言葉のオーラなどから、どこか遠くの世界、つまりあの世への旅立ちだと半ば覚悟していたはず。
なのに突然送られてきたこのメールを読んでしまってからは、もはや三島の胸には生きる希望しか湧いてこなかった。
彼女は何故このタイミングで、こんなメールを送ってきたのだろう?
今生を去るせめてもの慰めのとして、自分に快楽を与えてくれようという気持ちは分かる。だがもしそれで自分が狂ってしまったら、彼女の決心を邪魔する存在になるとは考えないのだろうか?
三島は心を落ち着け、まだ時間はあると自分に言い聞かせる。
『ねえ兄さん、覚えてるでしょ誕生日のこと。二人にとってその日は新たな記念日になるの。兄さんの好きなシチューを作って待ってるから、なるだけ早く私のところに帰ってきてね、お願いだよ、じゃないと私・・・・・・』
決意が少し揺らぐと、
妹の瑠璃(るり)としていたもう一つの約束のことが三島の頭をよぎった。
ずっと以前から、今日という日は妹の瑠璃と過ごすことは決まっていたはず。
今日が誕生日である瑠理のために、一緒に過ごそうと何度も約束していた。その時にプレゼントを持っていくと約束をし、既に三島は借金までしてルリの好きなブランドのバッグを購入している。
そして瑠璃とは今日という記念日に、互いに兄妹としての一線を越えるものだと、もはや揺るがぬ決意していたはずだったのに。
麻里香からのあまりに意味深な誘いがもたらされるまでは。
まさかそれが、こんな悪いタイミングで重なり合ってしまうなんて。
三島は自分の考えがよく分からなくなっていた。
絶望感はイヤというほど味わいつくし、
この世界で身を立てて生きていく考え方はとうに捨て去っている。
だが追い詰められた今の状況になって、自分を慕ってくれている存在に希望を感じてしまっている自分に気付く。
妹の瑠璃。
互いに傷の舐めあい程度にしかならないことは分かっているが、共に生きてきた家族、瑠璃を抱きしめたい気持ち、大事にしたいという思いがイヤほど湧きあがってくる。
とりあえず今日明日を生きるだけの希望があるなら、麻里香からの誘いに乗るべきなのだろうか?
自分は今死ぬために生きているのか、生きるために死を選ぶのか。
考えても答えの出ない迷いに、三島は心を無くしてしまいたいと思った。
――――――――――――
C3隊員の説明会、本登録のため私は若者サポートセンターへとやって来た。
駅から外れた分かりにくい場所にあり、おまけに古びて馴染みのない建物ということもあって、最も人が少ないと想像してここを選んでやって来たのだが、ぞろぞろと下を向いて歩く人びとの列は予想以上に多かった。
春の気配はもうそこまでやって来ているのに、集まった人々の顔は誰もがどんよりと沈んでいて、新生活への希望などは微塵も感じられなかった。
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