「Cave」について
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922600960
↑本編はこちら
草食信仰森小説大賞参加作品です。
テーマは「信仰」。
●着想からプロットまで
今回は最初から「BLで行く!」と決めていました。
それは主催の草さんを狙い撃ちで刺しに行きたかったから……!(個人賞狙いでした)(上がらなかった)(悔しい!)
「信仰」、最初は「価値・判断基準を自分以外の何者かに預けてしまうこと」と定義していたんですが、BLでもにゃもにゃ考えているうちにちょっと変質してきてしまいました。
わたし、二次創作BLですぐ受けに「本当は誰を見てるんだ」って言わせてしまうんですね。攻めが受けを通して本人じゃないなにかを見ている、という関係が好き……というか、そういう関係って破綻してるよね、ということを書くのが好きみたいで。
このときの「攻めが見ている本人じゃないなにか」って、「信仰」だな、と思って、この線で行くことにしました。
ということで、こんなプロットというかメモを書きました。
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信仰
被写体の男と写真家の男
加齢に耐えられない?(どっちの気持ちかわからないように書く)→(無理)心中→被害者ヅラ(喪失を嘆く)生き残ってしまった写真家の男と、土の下で「命を吸いつくされた」と語るモデルの男
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●元ネタの話
この作品は元ネタになったものが2つほどあるのでその話をしたいと思います。
①藤井風「何なんw」
https://youtu.be/Nt6ZwuVzOS4
というか、厳密にいうと、本人が解説しているこの動画です。
"何なんw”って何なん Kaze talks about “Nan-Nan”
https://youtu.be/cWmLTlXszrQ
「何なんw」の歌詞をそれだけで読み解こうとすると誰目線かぱっとわからないのですが、この動画を見ると、「ハイヤーセルフ」「神様みたいなもん」の目線であることがわかります。
「神様」が「何で何も聞いてくれんかったん」と「見守っている人間」に対して語りかける(そしてそれはおそらく人間には聞こえない)という構図、めっちゃ新鮮だな、と思ったんですよね。
普通、信仰は「信じる者」の語りであって、たとえば「沈黙」でも神は答えないんですけど、「信じられる者」の声もまた「信じる者」には届いてないんじゃね? というところから、信じる男「私」と信じられる男「俺」がそれぞれ噛み合わないで語っている構図が生まれたような気がします。
②松尾スズキ「ふくすけ」のラスト近くのシーン
これは戯曲です。ものすごい戯曲なので機会があればぜひ手に入れて読んでみてほしいのですが……とりあえずあらすじが乗っているリンクを載せておきます。
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/12_fukusuke/storycast.html
ネタバレになるかもわかりませんが、終盤である登場人物が死にます。
そして「幽霊」となって再び舞台上に上がる。以下引用です。
「そして私は見晴らしのいい場所に立った。何も考えずに生きてきたのです。でも、すべての謎は解けたわ。人間が死ぬ動物で本当に良かった」
(松尾スズキ『ふくすけ』白水社、p.151)
死んだ存在が全知の状態になって語る、というイメージがここから来ています。私は死んだ、ということを知覚している状態、に対するわたしのなんらかのフェチがあるようです。
というか、ここ「そうして私は死にました」ってセリフがあった気がしてた……丸パクリしたつもりでしたがイマジナリーだったのか……?(※上演映像確認しましたがイマジナリーでした)
あとは「姿を写し取る男×モデルの男」という設定や「一人称の地の文がダラダラと交互に続く」というスタイルは、過去に二次創作でやったものをブラッシュアップしています。
●タイトルについて
タイトルは最後につけることが多く、今回もそうでした。まっっっったく思い浮かばず、「イデア」で検索をかけました。こういうとき、キーワードに関連する概念を探すことが多いです。
そうすると「洞窟の比喩」という概念がヒットしました。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/洞窟の比喩
やっぱり人間が思いつくことは、歴史の中で先人が言語化してるものですね。ドンピシャでこれです。
表記もいろいろ調べましたが、シンプルに洞窟=Caveとしました。
ちなみにキャッチコピーの「(don't) pray to the shadow.」ですが、(実体ではない)影を信仰するのは「私」、影に祈らないでと思うのは「俺」。「俺」の思いは()で弱められていて伝わりません。
●講評へのお返事
【謎のイートハーブさん】
こんにちは! 主催お疲れさまでした!
「凄く好きなやつ」嬉しいです! あなたを狙って書いたので……!
一文目で掴まれてくれるの、めちゃくちゃ文脈共有してる感があってニコニコしてしまいました。
構成についてもお褒めいただきありがとうございます! 転調の段落は上記のプロットのように「どちらの気持ちかわからないように」しています。裏を話せば、順番的には「俺」なのですが実際には行為を起こす「私」のモノローグであった、というミスリードを想定していましたが、二人の思考が重なったと考えるほうがむしろ自然かもしれませんね。
カメラマンのキャラクターについて、わたしはこういう男嫌いなんですけど笑、なぜかこの手の人物を書くと結構褒めていただけることが多いです。本当に愚かだと思って書いているのが逆にいいのかな……?
「信仰」、自分とは縁遠いテーマだと思っていましたが、結果的に自分でもとても好きな作品が産めました。良い機会をありがとうございました!
【謎のショートカットさん】
はじめまして! 講評いただきありがとうございます。
喜んでいただけて嬉しいです!
偶像崇拝、意識していなかったのですが、たしかに……! かたちがあることはキャッチーですが、その分本質を見失わせますよね。
「のうのうと死なない理由を見つけて使命感に目覚めて生きていく」、まさにそうですね。こういう思い込みが激しいタイプは反省などはせず、事実を自分の都合の良いように捻じ曲げて解釈すると思うんですよね。拙作「おもいでのスイートキス」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054919278713)でも似たような人物が主人公になっていますが、こういう人物をおぞましいと思いつつも書くのが好きみたいです。
「俺」の犬死、取り返しのつかなさも気に入っていただけてよかったです。最高と言っていただけ、また大賞に推していただけて光栄です!
【謎の綿棒さん】
はじめまして! 講評いただきありがとうございます。
本当にままあることというか、他者というのは結局自分が見ている他者の影に過ぎないので、そのことを自覚できないままに最悪な方向に物事が転がっていったら……という思考実験のような側面もあったように思います。
「俺」が「私」の価値観を内面化しているというのはご指摘の通りだと思いました。
やはり健全な人間関係というのは互いの人間性を見て、その差異も含めて面白いと思える関係じゃないかと思いますが、健全な関係だとドラマが生まれにくいですね。
評議員特別賞に推していただき嬉しいです! ありがとうございました。
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