「やらせ」「声に出すな」と恐怖表現難しいねについて
芦花公園百物語に以下の二本で参加させていただきました!
「やらせ」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054917853672
「声に出すな」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054917862532
今回は自分の意図したことと頂いた感想に微妙にズレがあって(感想はすべて正義だと思ってます!)、意図したものを伝える難しさと同時に「そもそも恐怖表現って他の感情に比べて更に難しいよな〜」と感じたので、その辺りの話を少ししたいです。
●「やらせ」と恐怖表現について
芦花公園さんにいただいた感想はこちらでした。
“嫌な感じの女というか女の底意地の悪さがすごく上手に表現されています。恐怖度よりもそこが面白い小説でした。
手品を素直に楽しめずトリックを見破ることに重点を置くタイプの人間は手品自体が好きな人とは仲良くなれないかもしれない。そういうお話でした。”
これがかなり意外で、なるほどこういう読み方もあるな! と言っていただいて気付きました(コントロールができてない証拠ですね……お恥ずかしい)。
おそらくなのですが、以下のように読んでいただいたのかなと思いました。
・Yさんが出会う怪異の正体は彼女(生霊的なものか、彼女が霊的存在とコンタクトを取れる、もしくは本当にホログラムか何かで人工的に表したもの?)
・彼女は付き合ってからもYさんへの憎しみ的な感情を持っていて、その復讐のために意図的にこの状況を作った
で、わたしが書くときに想定していたのはこんな感じです。
・怪異と彼女の関係は不明
・彼女が寝言を覚えているのかも不明
・「あれやらせだから」というセリフの意図も不明
そもそもとして、わたしは「ホラー小説」ではなく「創作実話風怪談」としてこれを書いていたので、その時点で相違があったのかな、と感じました。
Twitterでも書いたのですが、ホラー小説/映画=ドラマと実話怪談/心霊ドキュメント=ドキュメントでは、恐怖のロジックや面白みの存在するポイントが大きく異なるように思いました。
前者ではあくまでドラマという大枠の中の1ジャンルなので、ストーリーの展開や登場人物のA→A'への変化などが必要になってきます。定番のパターンだと
呪いを受ける/怪異と出会う→その正体を探る(謎解きパート)→解決するorしないで怪異にやられる
という展開ですね。
なのでドラマとしてのホラーは本質的にミステリであると考えます。
その前提だと、「やらせ」の怪異の正体を考えることになり(謎解きを行うのは読者)、作中から拾える情報からその正体として想定できるのは彼女しかいない、というのは大変納得です。
一方で実話怪談や心霊ドキュメントの文法はむしろ正反対(※もちろんドラマ的展開でそれらを読むのが好きな人もいる)で、ドキュメントなので原則は「起きた事実」のみがそこに存在する形です。それが起きた世界はこの我々が生きる現実世界ということになっており、その場に置いていわゆる「超常現象」は説明できない、理屈のつかないものと一般的にはされています。
例えばかの名作『リング』にしても、「井戸に落とされて死んだ超能力を持つ女性が、その能力を用いて井戸の上に建てられた宿泊施設内のビデオデッキに入っていたビデオに呪いの映像を念写した」という話は、フィクションだから成立するんであって、現実ではちょっと……何言ってるかわかんないですよね。
その観点で、ドキュメント文脈では「理屈がつくとフィクションみたいでチープ」という文脈すらある、とわたしは考えています。
ただしエンタメでもあるので、全くなんの脈絡もないとそれはそれで怖くない。
優れたドキュメント形式の恐怖というのは、「わかりそうでわからない」「点も線も見えるが、それの描くかたちが見えない」というバランスにあると思っています。
「やらせ」に関して言うと、「やらせ」というキーワードが元凶でありそうなことはわかりますが、起きている出来事自体は意味がわからない、という形です。
この「意味がわからないからこわいよね」と思うかどうかはかなり人によって、ホラー小説の文脈が強い場合は怖さを感じにくいんだろうな、というのが今回の学びでした。
書いた背景としては
・ニコ生ホラーで心霊ドキュメント作品に「やらせだから怖くない」みたいなことをイキって言うKIDSがマジでいる
・心霊ドキュメントファンとしては「やらせ=創作であろうとなんだろうと怖ければ勝ち」なので、エンタメに「真実かどうか」みたいなクソくだらない価値観を持ち込むのはクズだと思っている(わたしが)
・よし、クズがひどい目に遭う話にしよう!
という感じなので、嫌なやつなのは彼女じゃなくてむしろYさんの方でした。まあYさんは好きで見といて腐す、みたいなムーブはしてないのでクズ度は少なめでしたが……。
この前提で強いて作中で起きていることを解釈するとすれば、
“オバケの表現を怖いか・怖くないかではなく真実じゃないから怖くない、と舐めたことを言う男がいたから、たまたまそこを通りかかったオバケが「へー怖くないなら脅かしちゃおうかな♪」と乗り気になって彼女を利用して男を脅かしに来た”
得られる教訓としては「だから怖いものをバカにするもんじゃない」って感じですかね……。
あと、多分実話怪談ファンの間では「怪異は俺たちとは全く無関係な理屈で動いている(だからこわい)」という共通認識があるので、本当に彼女の仕込み、としてしまうとあまりにも怖くないなという感じです。もう少しこの彼女と怪異の距離を開けるような描写を意図的にしたほうがホラー文脈の人にも伝わりやすかったかな……と思いました。
●「声に出すな」について
これは単純にレギュレーションハックで、「読んだら祟るはやめましょう」とあったので、「読んでも祟らないけど、自分のさじ加減ひとつで祟られる状況」をつくろう、というワンパン怪談でした。
あの言葉にはまあ意味はないっちゃないですが、
音神屋様が心を抜(き)喰うぞ
っていう感じです。イメージとしては。
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