第34話 公開処刑

『我が国は決してテロには屈しない』


 総理大臣が堂々と会見で告げる。


 記者からは『それは人質を見捨てるということですか?』、『総理、責任は?』などが飛び交うが総理は何も告げず退席する。


  ◇ ◇ ◇


「おい! CQに繋げろ!」


 その会見をテレビで見たテロリストのボス、スクルドは部下に怒声混じりに命じた。


 部下はすぐにCQと呼ばれる者に連絡を繋ぐように動く。


 人質達は総理の会見で言葉を失っていた。

 泣く者、嘆く者、喚く者、恨みつらみを述べる者様々。


「るっせーぞ!」


 スクルドは怒鳴りながら、拳銃を天井に向けトリガー引く。


 乾いた銃声が人質を静ませる。ただし、さめざめとすすり泣く声が残る。


「ボス、繋ぎました」


 スクルドは受話器を乱暴に掴み、

「おい! どういうことだ? 話が違うぞ?

 …………あ? 人質だ? ……おい! ネットを繋げろ」


 ボスに命じられ部下はすぐにネットからの声を拾う。

 スクルドは某掲示板からの画面いっぱいの言葉を読む。


「何だこれは?」


 そして怒り足でシャル寄る。なんだろうとシャルは震える。


「来い!」

「きゃあ!」


 スクルドはシャルの胸ぐらを掴み、パソコンへと顔を近づかせる。そして胸ぐらから髪へと掴み変えて、無理やり顔をパソコン画面へと向けさせる。


「痛い!」

「おい! これは本当か?」


 シャルはパソコン画面の言葉を読む。


『この子、この前の犯罪者じゃん』

『本名シャーロット・オレアナ・トムソン。魔法犯罪者』

『確か受験に失敗して他人に八つ当たりしたやつだっけ?』

『こいつサタノティアだろ?』

『ソースは?』

『コルデア島民全員知ってるぞ』

『お前、島民か?』

『違う。でも、島民だけでなく本土の魔法省も周知のこと』

『サタノティアだから魔法学院編入試験も落ちたらしいぜ』

『犯罪者が人質www』

『ゴミは一緒にゴミ箱へ』

『サタノティアなら今のうちに処分しろ』

『テロリストより、やばいだろ、こいつ』


 そこにはシャルの知らない事が載っていた。


「サタノ……ティア?」

「おい! これは本当か?」

「知りません。知りません」

 シャルは涙を流して、首を振る。


「じゃあ、こいつらが嘘なのか? ああん?」

「分かりません」

 シャルは泣きながら言う。


「おい! こいつはサタノティアなのか?」

 スクルドは人質達に聞く。


 人質達は互いにぼそぼそと確認し合うように話し合う。


「答えねえとぶっ殺すぞ。こっちは人質が少数でも構わないんだぞ」


 スクルドは怒号を放つ。すると人質達は言葉を止める。

 しばらくして、「……その子、サタノティアです」と誰かが小声で言った。


「聞こえねえぞ!」

 スクルドがまた怒鳴る。


『サタノティアです』

 恐れで何人かが同時に言った。


「……そうか」


 スクルドは拳銃を取り出し、シャルに向ける。


「待ちなさい!」

 アビーが待ったをかける。


「あん?」

「何、無闇にネットの言葉を信じ込んでいるのよ。その子がサタノティア? ただのテンペストよ」

「じゃあ、なんで要求を飲まないんだ?」


 スクルドは銃口をアビーに向ける。


「知らないわよ」

「お前の親も辞任する気はないようだぞ」

「知らないって言ってるでしょ」


 スクルドは部下に、


「おい! 中継の用意しろ。それと人質から十人をこっちに立たせろ」

「何するの?」

「うるせー」


 スクルドは手の甲でアビーの頬を叩く。


「きゃあ!」


 部下達は中継の準備をする。

 そして無作為に人質十人が選ばれる。


「いや!」

「やめて!」

「何するんだ!」


 そんな人質の中、一人偉そうな年寄りが、


「わ、儂を誰だと思っているんだ?」

「あん? 知らねえよ爺」

「儂は歯科学会の副会長だぞ」

「シカ? 何だそりゃあ? お前みたいのを老害って言うんだよ。未来の若者のために命譲れよ」


 そう言ってテロリストは年寄りを力付くで前へと歩かせる。


「やめろ!」

 年寄りは腰を低くして抵抗する。


 そこへスクルドが詰め寄り、拳銃の尻で年寄りの頬を叩く。


「爺さん、ここで痛めつけられて死ぬか?」

「なっ!」

「おい。お前も手伝え」

「了解」


 年寄りは茫然自失となり、部下二人に引き摺られ、撮影の中心に運ばれる。

 カメラをマスクを被ったスクルドとシャル、そして無作為に選んだ人質十人に向けられる。

 部下の一人がスクルドにオッケーサインを送る。


「政府に告ぐ、我々は先の会見で非常に失望した。どうやら政府は事の重大さに気付いていないらしい。それで我々は目を覚まさせよう」


 スクルドはマスクの上からでも分かる邪悪な笑みをカメラに向ける。

 そして銃口を人質の一人に向けられる。


「う、嘘だろ!?」

「恨むなら総理を恨め」


 乾いた銃声が鳴り、男が後ろへと倒れる。


「きゃあぁぁぁ──」


 そして隣の人質が悲鳴を上げようとしたところでまた銃声が。


 あるものは逃げようと背を向け、後ろから撃たれて前へ倒れる。またあるものは勇敢か自暴自棄か刃向かおうとしてナイフで首を切られて絶命。


 残りは悲鳴を上げ撃たれる。


 それを遠くから選ばれなかった人質達は子ウサギのように集まり震えながら見つめる。


 そして、とうとう最後はシャルのみとなった。


「待ちなさいよ!」

 アビーが声を上げた。


「こんなことして何になるのよ!? むしろ事態は悪くなる一方よ!」

「あん? それじゃあ、テメエが犠牲になるか? そしたらテメエの親父も大臣を辞任するかもな」

 とスクルドはニヤける。


「ならってみなさいよ」

「前に出ろ!」


 そしてアビーは立ち上がり、前へ進む。


「駄目だよ!」

 その声はシャルから発せられた。


 スクルド、アビー、テロリストや残りの人質達全ての視線が集まる。

 シャルは視線にたじろいだ。そして自身も声を上げたことに驚いていた。


「駄目だよ」


 もう一度言った。次はゆっくりと。


「私はテンペスト……ううん、サタノティアなんでしょ。生きてたってしょうがないよ」

「何言ってるの?」

「受験も編入試験も落ちちゃったし」


 シャルはアビーとスクルドの間に立ち、スクルドに対して両腕を広げる。〈撃つなら私を撃て〉だ。気丈に振る舞っているが、足はまだ恐怖で震えている。


「そいつはお気の毒だな」

 スクルドが小馬鹿に言う。


 それを他人に言われると何か込み上げてくるものがあった。


「じゃあな」


 スクルドがトリガーを引く。それと同時にアビーがシャルを横へと倒す。


「いっ! アビー?」

「……何、自己犠牲に酔ってんのよ。つ、痛!」


 アビーは右胸を押さえる。


 そこは赤く濡れていた。押さえるアビーの手がみるみる赤く染まる。


「アビー!? アビー!?」


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