第30話 中継と交渉
「署長、テロリストからの動画がネットにアップされています」
「なんだって、見せろ!」
「はい!」
警察官はパソコンを操作して大型モニターにネットの動画映像を送信。
それを署長、魔法大臣、都知事、機動隊の隊長、そして現場に居合わせた行政関係者達がモニターに目を向ける。
映像が映し出され、二人の女の子が座らされ、プリントらしきものを持っていた。
一人はドレスを着た美少女。
もう一人はどこにでもいる普通の子。服装も普通の外出着。
その二人の後ろにはテロリストの脚が見える。そして少女の後頭部に銃口が突き付けられている。
「アビー!」
魔法大臣が娘の名を叫んだ。
「娘さんですか?」
起動隊の隊長が聞いた。
「ああ! ……隣の子は知らないが」
『我々は反魔法派友愛組織マンドリガルド』
アビーがプリントを読み上げる。
「何が友愛だ」
都知事が憎らしげに言った。
『今日、コルデア島の都庁を支配し、パーティー参加者を人質に取った。我々の要求は我らマンドリガルドのリーダー及び仲間達の解放、そして魔法大臣メイザーの辞任である』
そして横の少女がプリントを読み始める。
『も、もしぃ、よう、要求が飲まれ、ないのであれば、ひ、人質の保証はなひ。じゅ、十分後に都知事に連絡を、よ、寄越す。そ、それと防護、ひゃっ、シャッターを、ふ、無理に破壊すると人質の命も、きっ、危険に晒されることをゆめゆめ忘れ、ないよう、に』
もう一人の少女は恐怖で震えながらプリントを読み上げた。かえってそれが臨場感を伝える。
そして動画はそこで切れた。
「どうします?」
署長は都知事に聞いた。
「どうするって、これは君達の領分だろ。なんとか人質を助けられないのか?」
署長は機動隊隊長に説明をと目配せする。
「まず都庁ビルの防護シャッターが落ちていて中には入れません。先程の動画で言っていたように無理に防護シャッターを破壊、もしくはこじ開けたりすると人質の命が危険に晒されます」
「ということです。都知事、それに大臣、進めておくというだけでも、どうですか?」
都知事は下唇を噛み、悩む。
「まずは交渉を」
魔法大臣は冷静に言った。
「それはつまり?」
「私が大臣を辞めろというなら辞めましょう。しかし、彼らのリーダー及び仲間達を解放することは許されません。奴等を解放したらより多くの被害が生まれるでしょう。それに我が国はテロには屈しません。……決して」
最後の言葉は自分に言い聞かせてのものだろう。
◇ ◇ ◇
動画がネットにアップされてから十分後彼らからコンタクトがあった。
『もしもし都知事かな? それとも大臣?』
「残念だが警察署のシルフだ。君達との交渉を仰せ遣わされた。君の名前は?」
『俺はスクルド。都知事もしくは大臣を寄越せ』
シルフは手でスクルドについて調べろと伝える。この会話は特殊スピーカーで周囲に伝わっている。それゆえ相手にはスピーカーとは気付いていない。しかし、スクルドなら特殊スピーカーのことも把握しているとシルフは考えている。
「それは出来ない。二人とも君達の爆破テロで負傷をしてしまった」
嘘だ。都知事及び大臣は側にいて、この、会話を聞いている。
『嘘をついても無駄だぞ。都知事たちのいるエリアには爆弾は仕掛けていない』
「しかし、都庁ビルには仕掛けたよね。破片が飛び散ってテントに降り掛かったよ。それで二人とも怪我をした。そこからテントは見れるだろ?」
それは誘導だった。都庁ビルを見渡している隊員が窓に近づくテロリストを確認するためである。
受話器から足音が聞こえる。どうやら窓に移動しているらしい。
『…………いいだろう。では交渉を始めよう。こちらの要求は動画の通りだ。それと港に船を用意しろ』
「要求が増えているが?」
『嬢ちゃんが言い忘れたんだよ』
相手の下卑た笑みがシルフの頭に浮かび上がる。
「そうか」
『で? 飲んでくれるのかい?』
「君達のリーダーや仲間達は本土の刑務所にいる。こればっかは早急には難しい。少しばかり時間がかかるが?」
『おいおい、時間稼ぎか?』
「まさか。いいかい。大臣の辞任はすぐにでもなんとかする。だから、大臣の辞任発表が出たら半数でいいから人質を解放してくれないかい?」
しかし、ここで通話が一方的に切れた。
「切られましたね」
交渉人シルフが後ろに振り返って言う。
「失敗か!?」
その都知事の問いにシルフは苦笑する。
「今のは確認みたいなものです。それよりスクルドについて何か情報は?」
「スクルドはマンドリガルド内でも人望の厚い男ですね。実質現リーダーってところでしょうか。テロ経験も豊富で厄介な相手ですね。あっ! 顔写真等の情報はパソコンの方に送りましたので」
シルフの部下が公安データベースからスクルドの情報を収集して告げる。
『こちら機動隊、交渉中に窓へと向かい、テントを見下ろす人影を確認。写真データを送ります』
都庁ビル周辺を展開している機動隊からの連絡が。
機動隊の写真データから見下ろしていた人物がスクルドであると判明。
「攻撃せんかったのか?」
都知事が場違いなことを言う。
「相手は一人ではないんですよ。もしそんなことをしたら人質が全員殺されますからね」
「そ、そうだな」
「人質といえば、数は判明したのですか?」
その質問にある隊員が、
「現在把握出来るだけで87名とのことだそうです」
「多いな」
◇ ◇ ◇
「マサの奴はどうしてる?」
「連絡はありません」
「まったく。あの傭兵くずれは」
「あの、交渉は?」
「すこぶる順調だ。予想通り大臣は辞任してくれるだろうな。そして人質の一部解放を要求してくるだろう」
スクルドはシャルに近寄る。
シャルは怖くて縮こまる。
「嬢ちゃんの名演技のおかげで事が上手く進むようだ」
そんなことを言われてもシャルは喜べなかった。
動画はテレビ局が流すだろう。そしたら本土の母親の目に入り、悲しませるのではないか。そう思うとシャルは申し訳なさが湧いた。
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