第29話 テロ②
初めは祝砲が鳴ったと考えた。しかし、その後、何度も爆発音が鳴り響いた。シャルは何かおかしいと感じ、イベント会場を見下ろす。
するとイベント会場周辺から煙が立ち昇り、さらにイベント会場から遠く離れたエリアからも煙が立ち昇っているのが窺えた。
シャルはリネットに連絡しようと携帯電話を取り出した。
けれど、電波が繋がらないのか連絡が出来なかった。
「ええ!? なんで!?」
シャルと同じような考えか、はたまた救急や警察への通報で混線しているのだろうか。
するとまた爆発音が。
今度は大きく、発生源は上。シャルがいる都庁ビルも揺れた。
──これってまさか!?
大きな爆発ではない。近くだから大きく聞こえたのだ。
そして都庁ビル付近の高いビルからの爆発ではない。
──ここ!?
シャルは天井を見上げた。
◇ ◇ ◇
都庁ビル爆破前の少し前に
闖入者は皆、黒のパワースーツを装着していた。
参加者のほとんどは驚き、反射的に身を強張らせる。そして闖入者を見て訝しむ。残りはのんびり家か浮かれ気味の人間で、彼らを何らかのパフォーマーかと考え、心を弾ませている。
そして闖入者の内から一人、体のごつい男が前に出る。その顔にアビーは見覚えがあった。
──あいつは!?
アビーは逃げ口を探した。呆然としている参加者の後ろから立ち回り、今なら逃げれるかもしれないと。
しかし、前方に出た男がライフルを上に向け発射。
パン!
『きゃーーー!』
『うわーーー!』
銃声を聞いて参加者は悲鳴を上げ、竦む。
「動くな! 私はマンドリガルドのスクルド! ここ都庁ビルは我々が制圧した。命が欲しければ我々の言うことを聞け」
スクルドは声高に言い放った。
「マンドリガルドって、あの?」
「本物なの?」
「いや!」
「テロ? どうして?」
まばらに小さい言葉が交差する。
パン!
「静かにしろ!」
スクルドがライフルのトリガーを引き、怒声を放つ。
『きゃあああ!』
こうしてパーティー会場はテロリスト集団マンドリガルドによって
◇ ◇ ◇
シャルは部屋を出てエレベーターに向かった。けどエレベーターホールでボタンを押せど光ることはなく、起動しているようではなかった。
階段で下りようとした時、下の階から駆け上がるような足音を聞いた。
それを聞いてシャルは不思議に思った。下りるならまだしも上がるのはどうしてかと。
その訳は彼らの姿を見て分かった。
銃火器を装備した黒のパワードスーツを着込んだ男達だった。
人相は強面で残虐性と暴力性のある目をしていた。
とても助けにきた警察側の者には見えなかった。
列先頭の男がすばやく拳銃をシャルへと向ける。
「ひやぁ!」
シャルは反射で両手を上げた。
「こちらG班、猫一匹発見」
男は無線に語りかける。
『了解。7階のエレベーターから上がるように』
「ラジャー。……おい、おかしなことするなよ」
「ふぁ、ふぁい」
「逃げても無駄だからな」
別の男が下卑た笑みを向けて言う。
シャルは彼らに捕まった職員と共に両手首を結束バンドで固定されエレベーターへと移動させられる。
7階のエレベーターホールでテロリストの一人がボタンを押す。すると先程は光らなかったボタンが光った。どうやらエレベーターのコントロールもテロリスト達に奪われたのだろう。
◇ ◇ ◇
人質は全員パーティー会場へと集められた。両手首を結束バンドで固められ床に座らされていた。
その人質の先頭にはアビーがいた。
テロリストはリストを手に入れていて魔法大臣の娘アビーを自分たちの目の届くように前へと座らせた。
そのテロリスト達は銃火器だけでなく、放送用大型カメラ、ガンマイク、反射板、パソコン等の電子機器を持ち込んでいた。
「ボス、7階からの人質を連れて来ました」
「おう、そこらへんに座らせておけ」
スクルドが顎で座らせるよう示す。
「うっす」
その7階からの人質の中にはシャルがいた。
アビーは一瞬反応を示したがすぐに平素の顔に戻した。普通なら誰も気にも止めないだろうが、経験豊富なボスは些細な表情の変化を見逃さなかった。
「待て!」
部下と床に座らされそうになった7階からの人質達は動きを止める。
スクルドは7階からの人質に近づき、じろじろと物色を始める。人質達は怯え、俯く。
そしてその中で職員とは違う少女を見つける。
「そのガキはどうした?」
G班の部下に聞く。
「えっと7階の階段口で遭遇したんです。パーティーの参加者では?」
スクルドはシャルに近寄り、上から下へと視線を動かす。そしてシャルの顎を掴む。
「ひっ!」
「貧相なパーティー参加者だな? それになんで参加者が7階にいる?」
スクルドはシャルの顎を放して、
「おい、7階の利用者記録は?」
と線の細い部下に尋ねた。その部下はテーブルのパソコンを2台動かし、あれこれと操作している。
「待ってください」とパソコン1台を操作して、「あっ!?」と声を上げた。
「どうした?」
スクルドだけでなく周りも注目する。
「7階来賓室の利用者は……魔女リネットです!」
『魔女!?』
「まさかこいつが!?」
部下の一人がシャルを驚きの目で見る。その目線でシャルは緊張し、脇を強く引き締める。
「アホ、どうみてもガキだろ?」
「アハハハ、ですよね」
「……思い出した。確か
「弟子って、このガキが? 大したことなさそうですけど?」
「気をつけな。確かこいつこの前、本土で事件を起こしたやつだぜ」
「へえ、やっぱ魔法ってこえーなー」
部下はへらへらと笑う。
「おい! 魔女はどこだ?」
スクルドはシャルに聞く。
「リ、リネットさんはパレード、会場、に」
シャルは口を震わせて言う。
「……そうか。そのガキをアビー嬢の隣に座らせろ」
「うっす」
部下はシャルの腕を強く引っ張って移動させる。
「痛い!」
そしてシャルはアビーの隣に座らされた。
「ごめんなさいね」
アビーは小さくシャルに誤った。
「ううん」
◇ ◇ ◇
白髪混じりの部下がカメラを抱える。
太っちょの部下がガンマイクを構える。
マッチョな部下が反射板を持ち上げる。
「準備整いました」
パソコンを操作していた細身のテロリストがボスに告げる。
「よし。それじゃあ、生放送の始まりだ」
スクルドは手を叩く。
それに呼応してテロリスト達は『おー!』と声を張り上げる。
スクルドはアビーとシャルに近寄り手首の結束バンドをナイフで切る。そして部下にプリントを渡させる。
「嬢ちゃん達は演者だ。ここに書いていることを読んでもらう。拒否権はなしだ」
シャルは震える手でプリントを受け取り、頷く。
対してアビーはうんざりしたようにプリントを受け取る。
「さすが魔法大臣の娘だ。肝が座ってるな」
「別に。いざという時のレクチャーは受けてますから」
「でも少しは怯えてもらわねえと
と言ってナイフの腹をアビーの頬に当てる。
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