第25話 パレード①
パレードは車での来場は固く禁じられているためシャルとリネットは徒歩で会場となる中央広場へと向かっている。
今はコルフォー通りを進んでいる
観衆は多く、通りや道に人が大勢溢れている。そこには島外の人間も多く含まれているのだろう。
「……人多いですね」
人の多さに少し辟易してシャルは言う。さらに初夏の陽射しが気温を上げ、息苦しさを増幅させている。
「離れるなよ」
「はい」
なぜパレードを観に行くことになったのかというと、それは昨夜の夕食時にリネットから、
「明日パレードを観に行くぞ」
と告げられたのである。
「パレード?」
「知らないのか? パレードがあるんだよ」
「知ってます。でも、どうして?」
「ずっと家にいても暇だろ。たまには気晴らしにな」
と、いうわけでシャルはリネットと共にパレードを観に行くことになったのだ。
ただ残念なことに人混みが苦手なシャルには気晴らしにはならなかったが。
「これ中央広場に行けますかね?」
内心は着けないのであればUターンして帰りたいと思うシャル。
「大丈夫だ。パレードはまだだし。今の時間の内に向かえば問題ない。それに中央広場で観るわけではないぞ」
「え?」
「中央広場は都庁ビル前にあるんだ」
「都庁ビル? 島に都があるんですか?」
市や村があるならわかるが、首都でもないのに都があるのは不思議であった。
「ここは特別でな。中心地は都という扱いなんだ。そして勿論、都知事もいるんだ。それゆえ都庁ビルがあるのさ」
「へえ。でも一般開放されているんですか?」
「いや。でも私は魔女だからな。頼み込めばなんとかなるのさ」
リネットはずるい笑みを向ける。
◇ ◇ ◇
なんとか混む前に二人は都庁ビルに着いた。
リネットは受付でパレードが見える部屋をと言うと受付の女性は上の人間に聞くこともなく、
「7階の来賓室をお使い下さい」
と言ってリネットに鍵を渡す。
どうやら事前に魔女リネットが来ることを予期していたのだろう。
「メイザー家の者も来ているのか?」
「はい。バラク・メイザー様は12階の会場におります」
鍵を受け取りシャル達はエレベーターで7階の来賓室に向かった。
「バラク・メイザーって、あの魔法省の大臣ですよね?」
エレベーター内でシャルはリネットに聞いた。
「そうだ。パレードのために来たんだろう」
7階でシャルだけが降りて、リネットは大臣に挨拶をと12階へと上がった。
知らぬ廊下をシャルは心許なく進む。
リネットは廊下を突き当たってすぐ右の部屋だと言っていたが、小娘がここにいて良いのかという怯えがあった。そういった心境のせいか廊下が長く感じられた。
そして廊下の突き当たりを右に曲がり、来賓室のプレートを見つけた。
「ここだよね」
シャルは独りごちて、ドアの鍵穴に鍵を通して、解錠した。
◇ ◇ ◇
シャルが来賓室に辿り着いた頃、リネットは12階の会場に着いていた。
12階は会場と控え室、喫煙室だけで、エレベーターを降りるとエレベーターホールのすぐ向こうに観音開きの会場がある。観音開きの扉隣に簡易な受付が。そこで名前もしくは招待状を出すのだろう。
リネットは受付担当の男性に用を伝えると男性は会場ではなく控え室へとリネットを案内する。
その控え室には二人の男がソファーに座り談笑していた。
一人はスラリとした体に金髪をオールバックにした上品な男。名はバラク・メイザー。アビーの父であり魔法省の大臣。
もう一人は中年太りの、頭頂部が禿げた男性。名はケーゴ・フランケン。コルデア島の都知事。
「おや、リネットさん、お久しぶりですな」
と都知事がソファーから立ち上がる。
アビーの父である魔法省の大臣もつられて立ち上がる。
「都知事久しぶりで。それに大臣も」
リネットとしては大臣にだけ用があったのだが都知事がいると聞きたいことも聞けない。
「さあ、どうぞ」
と都知事は座るよう促す。
リネットは一人掛けのソファーに座り、大臣に聞く。
「ご息女は?」
「娘は……」
と、そこでドアをノックした
アビーだった。
今日は金の髪をアップにしている。
「あら、お客様でしたか」
都知事とリネットを見てアビーは答え、まず都知事に、
「此度はパーティーに呼んでいただき有難うございます」
と礼を述べる。
「こちらこそ来ていただいて嬉しいよ」
そしてアビーはリネットに、
「先生も来ていらしたのですね。シャーロットさんは?」
その名前にリネットは一瞬誰のことかと分からなかったが、すぐにシャルのことだと気付いた。
「……シャルか。あいつは7階の来賓室にいるぞ」
その時、大臣と都知事が見えない緊張をしたのをリネットは気付いた。
「来賓室? 7階の?」
「私達はそこでパレードを見るんだ」
「あら? パーティーに出席なさらないので?」
大臣と都知事の緊張を知らぬのか、リネットは残念がる。
「ああ」
「どうにか……」
「アビー、先生には先生の事情があるんだから我が儘を言ってはいけないよ」
と大臣が諌める。
「分かりましたわ」
「お父さん達は少し話をするから」
「……では、私はこれでと」
とアビーは頭を下げて退出する。
退出後、都知事が、
「シャーロットってお弟子さんの?」
とリネットに聞く。
「弟子ではなく親戚の子。引き受けているだけですよ」
「……今、ここに?」
都知事は床を指して聞く。その表情には困惑の色が見える。
「ええ」
都知事は大臣を一度目を寄こし、そしてリネットに、
「……ええと、そのう……シャーロットさんに……サタノティアという疑惑があるのをご存知で?」
「魔法省から聞いております」
とリネットは魔法省の大臣に目を向ける。
その大臣は、
「まだ決定的な確証はありませんが?」
「確証はないと? それなのにどうしてサタノティアと?」
リネットはすぐ
大臣は言うか言わまいか迷っていた。
それをリネットはじっと見つめ何も言わず待った。
都知事も空気を読んで黙り、控え室は沈黙に包まれた。
しかし、声はないがリネットの目は説明を強く訴えている。
大臣はそれに耐えきれず、目を下へと逸らした。
そして話すべきかどうか逡巡する。
決定的な確証はないが可能性は非常に高いとされている。
サタノティア。
歴史上、サタノティアは厄災とされ恐れられるている。
魔法省の職員内でも話題になっている。
職員の中にはリネットと繋がりのある者もいる。
──なら、ここで話しても良いのではないか?
大臣は息を大きく吐き、とうとう重い口を開いた。
「……テンペストではなかったのは事実なのです」
「それだけで?」
「他にもギフトでもありませんでした」
「なら普通の魔法使いの素質では?」
リネットはすぐに反論する。
大臣は目を閉じて首を横に振る。
そして目を開けて組んだ手を見つめる。
少しして、
「彼女の魔力生成でマナが負の属性が強いのがこの前の国立魔法学院アルビア編入試験で判明したのです」
リネットは黙って続きを聞く。
「そしてその際の魔力性質及び量が桁違いだったのです」
「どれぐらい?」
「試験用の魔石が破裂したんですよ。これがどういう意味か分かりますよね?」
それにリネットは頷く。
「シャルは割れたと言っていたが?」
「いいえ。内から外でした。あれは破裂だそうです」
ただ一人理解できない都知事は、
「ん? どういうこと? 魔石だって何度も使用すると割れるだろ?」
「ええ。普通なら割れます。でも、破裂とは違います」
「どう違うんだね?」
「割れるは都知事の言った通りです。使用限度を超えれば外から内へと割れます。しかし、破裂というのは魔石が注がれた魔力に耐えきれず内から外へとと割れるのです」
「つまり、割れるは外から内で破裂は内から外だと」
「そうです。そして試験用と思われますが編入試験にはテンペストが多いですから国立魔法学院では強度の高い魔石を使用しています。しかも新品の。その魔石が割れたということは強い魔力だということが分かります」
リネットは背もたれに体を預け、
「しかし、負の魔力はサタノティアだけの分野ではないだろ? 誰だって負の魔力は作れるし、テンペストだって作れる」
もう敬語はなしでリネットは話す。
「勿論。長年、負の魔力を勉強した子であるなら新品の強度の高い魔石を破裂させることは可能でしょうね。国立魔法学院でも卒業間近の生徒ならそれくらいを成し遂げる子は数名はいるでしょうね」
と最後に大臣は息を吐く。
それは卒業間近の生徒でも難しいということ。そしてそれを魔法を齧ったばかりのシャルがやってしまった。
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