第24話 ふたたび豪邸

「すみませーん。マルス商店でーす」


 メイザー家の門扉でロゼはインターフォンに向かって名乗った。


『どうぞ』


 と返事がくると門扉が自動で開放された。

 そしてロゼ玄関口まで歩き、ライオン型のノッカーを叩こうとした時、ドアが向こうから開かれた。


「あ、どうもマ──」


 そこでロゼは言葉を止めた。

 なぜなら応対したのがメイザー家のお嬢様だったからだ。


「こんにちは。こっちよ」


 とメイザー家のお嬢様ことアビーは荷物を受け取らずに屋敷の中へと進む。

 それは以前と同じ様にここまで運んでこいということだろう。


 ロゼはアビーの背を追いながら廊下を進む。


 そして部屋に促されると──。


「リネットさん!」


 そこにはアビーの家庭教師をしているアビーがいた。椅子に座り、コーヒーを飲んでいる。


「荷物はそっちのテーブルに置いて」

「あ、うん」


 ロゼは言われた通りテーブルの上に荷物を置く。そして挨拶をして部屋を出ようとした時、


「さあ、そちらに座って」

「え、でも私は」

「ほらほら」


 とアビーに腕を引っ張られて椅子に座らされた。


「紅茶でいいかしら?」


 アビーは返事を聞かずにカップに紅茶を淹れる。


「どうもです」


 ロゼはリネットに対して頭を下げた。


「久しぶり」

「あら、先生はマルス商店から定期的に商品を受け取っているのでしょう?」


 アビーは席に着いて尋ねる。


「まあな。でも今はシャルが受け取りの担当をしている」

「あらシャルさんが。……そう言えば残念だけどでしたわね。落ちたのでしょう?」

「ああ。というか、なんで君が知っているのかね」

「私にだって情報網はありましてよ」

「なんで落ちたんですか?」


 ロゼは聞いた。


「えーと、そのう、編入試験ってそんなに難しくはないって聞いたので」

「サタノティアだからですか?」

「ちょっ、ちょっと!」


 ロゼが直接を避けつつ聞いたのにアビーは率直に言葉にした。


「そうだと噂では聞いておりますけど。先生、実際はどうなのですか?」

「……分からん」

「あら先生でも分からないのですか?」

「サタノティアなんて会ったことないしな」


 と言ってリネットはコーヒーを飲む。


「もしサタノティアならどうするんですか?」


 ロゼが聞く。


「何も」


 しかし、アビーは、


「でも魔法省は何もしないとは限らないのでは?」

「何かするの!?」


 驚き、ロゼはすぐアビーに聞く。


「管理下に置かれるか最悪……先生はどう思います?」

「魔法省のことは知らん。さすがに非人道的なことはしないだろう」

「魔法省の管理下ってことはこの島を出るのですか?」


 ロゼはリネットに問う。


「逆にこの島にとどめる可能性の方が高いだろうな」

「どうしてですか?」


 アビーが聞く。


「外は魔法嫌いが多い。過激な反魔法派から狙われる可能性が高い。ならここで管理下に置かれるだろう」

「命の危険ですか。でもこのままだと人類の危険では?」


 それはシャルが人類の脅威と言っていること。

 ロゼはアビーに半眼を向ける。


「どうしてそんなにシャルを危険視するわけ?」

「サタノティアだからです」


 アビーはまっすぐロゼに目を向けて言う。

 カップを持つロゼの指が強くなる。


「まだサタノティアと決まったわけではない。そうですよね、リネットさん!」

「そうだな。まだ何も分かっていない。だからお前たちもあまり騒ぐな。ここ最近、過激派が活発化しているんだ。間違った情報でシャルの身に危険が及ぶ。お前たちも過激派と色々あったんだ。分かるな?」


 リネットは二人に強い視線を受ける。

 アビーどこ吹く風で受け取り、ロゼは唾を飲み、頷く。


「お前たちもってことはロゼは昔、過激派とトラブルでも?」

「……まあね。私は本土出身だから。アビーも何かあったの?」

「私というか父ですけどね」

「確か魔法省の大臣だっけ」

「ええ」


 それなら家族であるアビーにも被害の一つや二つはこうむっているだろう。


「そうだ! 父が大臣ならシャルのこともどうにか何ないの?」

「権力ですか? そういうのはいけませんわ」


 アビーはやんわり微笑んで拒絶する。


「とか言いつつさ……」


 ロゼは少しのあいだ、視線をアビーからリネットへ変える。


 それは権力使って魔女を家庭教師にしているだろという意味である。


「フフフ、何か?」

「別に」


  ◇ ◇ ◇


 ロゼはメイザー家を後にして、マルス商店のバックヤードにいた。


「……ということがありまして」


 遅い帰宅に祖母から追及を受けたロゼはメイザー家でお茶をお呼ばれされたこと、そしてその際に話題になったシャルのことを話した。


「なるほどね。魔女でも分からぬか」


 ──普段は魔女ではなく名前で呼べと言っているのに。


 そこでシャルは試しに店長ではなく、ばあちゃんと呼んでみる。


「ばあちゃんはどこでシャルがサタノティアだって噂を知ったの?」


 ロゼの祖母は二人称に気付かず、


「最初は国立魔法学院アルビア関係の客からさ。その時はバカな噂と考えてたんだけどね」

「その人が噂を流した人かな?」

「いや、違うね。その客以外にもすぐにサタノティアの話を聞いたよ」

「もう島中の人は知ってるってこと?」

「いいや、知ってるのは島の北側の人間かアルビア関係くらいだろうね」

「もしサタノティアならどうなるのかな?」

「前例がないから分からないが常に魔法公安課に監視されるだろうね」


 とロゼの祖母は肩を竦める。


「前例がない?」

「サタノティアっていうのは大抵が後から発覚されたものさ。だから今回のことは初めてなのさ」

「それって実は噂は間違いで何もなかったとかありえる?」

「知らんよ」


 と言って祖母は仕事を再開する。

 ロゼはシフトカードを専用の機械に差し込みチェックを入れる。そしてバックヤードを出て母屋へと向かう。

 ドアを開けると夕陽がロゼの目に差し込んでくる。


 そこでふと思い至る。


「そういえばシャルは自分がサタノティアだって疑われているの知ってるのかな?」


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