第23話 魔法修得②
「わっ、わわぁーーー!」
豆苗は一気に長く伸び、シャルは悲鳴を上げた。
「止めろ」
「は、はい!」
言われた通りシャルは魔法を止めると豆苗の成長もぴたりと止まった。
「びびっ、びっくりしました。まさかいきなり伸びるんですから」
「次はゆっくり」
リネットはこの結果にどこか思うとこがあるらしい。
もう一つの豆苗を出して、同じ様に切る。
「あのう。新しいのを使うのでなく、さっきのを切ればいいのでは?」
「二度以降は成長のスピードが遅れるんだ」
「? ……むしろその方が良いのでは?」
「駄目だ。きちんと練習をしないと」
「分かりました」
◇ ◇ ◇
「今日はこれまでだ」
「うっ!」
結局、シャルは上手く成長させることはできなかった。
テーブルには切った豆苗と魔法で育てた豆苗が山となっている。
特に魔法で育てた豆苗は長く、普通の豆苗の4倍以上の長さに育ってしまった。
「これは夕飯だけでは食べきれないな」
「もしかして上手く育てるまで豆苗で練習ですか?」
もしそうなら豆苗ばっかの食事となる。実のところ、シャルは豆苗が苦手である。
「いや、この魔法の修得はあとでいいだろう」
「そうですか」
シャルは少し安堵した。
◇ ◇ ◇
シャルが工房を出てリネットは溜め息を吐いた。
今回、シャルに成長の魔法を修得させようとしたのは別の思惑があったからだ。
それはサタノティアかどうかを確かめるため。
サタノティアは負の感情が強い上、
そして今日、シャルに光属性の魔法を教えた。その結果、シャルは失敗した。
もし普通の失敗なら豆苗の成長が遅れる成長を早めるかのどれかであるが、シャルの失敗は歪に長く伸ばしてしまった。
普通の豆苗とは違う4倍にも伸ばした葉のない茎。
それは闇属性を与えた結果によるもの。そしてそれは──。
「いや、まだそうとは決まったわけでは」
リネットは独りごちた。
◇ ◇ ◇
シャルは冷蔵庫の中身を確認しながら今日の献立を考えた。
「う〜ん。ベーコンと豆苗のバター炒めとサラダうどんにしようかな。すると足りないのは……ベーコンとレタス、うどん。トマトは……プチトマトでもいいかな」
シャルは足りない分の食材はスーパーで買うことにして、シャルはバッグを持って玄関へと足を向ける。
その時、ケータイから着信音が鳴った。
誰だろうと画面を確認すると母からであった。
シャルは通話をボタンを押し、ケータイを左耳へと持ってくる。
「もしもし」
『あっ、シャル。どう? 元気?』
「え、あー、まあまあ……かな?」
『何よそれ』
「で、何用で?」
『夏服そっちに送ったから』
「わかった」
『それとそっちで祭りがあるでしょ?』
「祭り? 何それ?」
『駅前でパレードをやるって。ほら、今テレビでも紹介してるわよ』
──? 今、パレードをやってるの?
シャルはテレビを点ける。
「何チャンネル?」
『こっちでは8チャンよ』
──ってことは10チャンか。
リモコンで10のボタンを押す。
本土と島とではチャンネルが違っていて、本土8チャンネルの局はここでは10チャンネルであるのだ。
「あ、本当だ。パレードやるんだ」
番組は夕方の情報番組で、この島で行われる来月のパレードについて説明をしていた。
『アンタ、そっちで友達はできたの?』
「学校行ってないのにできるわけないじゃん」
『それもそうね。でも、たまには気晴らしにでもいいから、お祭りに行きなさい。お金も少し入れたいたから』
「うん。ありがと」
そして少し他愛もない会話をしてからシャルは通話を切った。
「……パレードねえ」
情報番組を見るともうパレード話は終わっていて、別の話題を紹介していた。
シャルはテレビを消して、溜め息を吐いた。
今のシャルにはパレードに誘う友人はいない。
知り合ったロゼはこちらがお得意さんという仲であって親しいのいう間柄ではない。この前も変にギクシャクしたし。
そしてリリィもまたロゼ繋がりの仲。そこが繋がってないなら、もちろん親しい仲ではない。
──やっぱ合格しておけば……。もしかしたら。
すると笑い声が聞こえた。
その笑い声は彼らのもの。
『無理だって』
『できるわけないって』
『身の程を知れよ』
『バッカじゃない』
──うるさい!
『現実を見ろよ』
『お前が魔法なんて使えるか?』
『特別とでも思ってるのか?』
幻聴は過去ことから今のことへと移る。
彼らは国立魔法学院アルビア編入試験のことを知らない。だからそんなことは言わない。言うのは過去の高校入試のこと。
でも、彼らなら言うのではないか?
彼らはそうやって見下すのではないか?
『バッカみたい』
──うるさい!
『魔法何それ? ウケ狙い?』
──違う。私はきちんと考えて!
『現実を見ろよ』
──見るのはお前達だ。私は……私はテンペストで魔法の才があるって言われているんだ!
『じゃあ、なんで落ちた? 才能がないからでしょ?』
『それがお前なんだよ』
『ロゼも可哀想だな』
『気まずいなー』
『あーあ。やっちゃったなー』
彼らはにやにやと笑う。
面白いように。
見下すように。
楽しむように。
にやにやと。
クラスメートの嫌らしい顔が頭に浮かび上がる。
──うるさい。うるさい。
『バカみたいに調子に乗るなよ』
──調子になんて乗ってない。私はただ……できることを。……できる……ことをやろうと。
『できてないじゃん。へったぴな魔法でさ』
──やめろ!
シャルは大きく頭《かぶり》を振るう。
「どうした?」
現実からの声でシャルは正気に戻る。
「あっ、リネットさん」
「どうした? 疲れているのか?」
「いえ、疲れてません。大丈夫です。今から買い物に行ってきます」
シャルは空笑いして、立ち上がった。
そして歩こうとしたところで足がもつれた。
「わっ!」
「おい。大丈夫か?」
リネットは前屈みになったシャルの体を受け止める。
「大丈夫です。すみません」
シャルはもう一度空笑いする。
実際にもつれたのは急いで去ろうという焦りからなのだが、リネットは、
「待て。やはり今日は魔法の修得で疲労しているのだろう。外食にしよう」
「でも、……豆苗が」
「何、1日そこらで腐ったりはせんさ」
リネットはシャルの肩を叩く。乗せるように軽く叩かれたのにシャルにはそれが重く感じた。
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