第17話 編入試験③
「あら。大丈夫ですか?」
ふらふらで教室に入ってきたシャルをアビーは気遣う。
「大丈夫です。ちょっと疲れちゃいました」
と言ってシャルは力なく笑う。
「なかなか帰ってこないから心配したのですよ」
「すみません。上手く魔石が光らなくて」
と言ってシャルは指定された座席に座る。
「ふう〜」
大きく息を吐いた後、みっともなく上半身を机の上に倒す。
試験官が来るまで、このまま少し休憩しようとシャルは考えた。
––––疲れた。まさか魔石が光らないなんて。
「あの、試験の魔石おかしくありませんでした?」
首を動かしてシャルはアビーに尋ねる。
「いえ、普通の魔石でしたわ」
––––だよね。すぐに光らせたんだし。……では自分だけなの?
けれど結局は光らせることができたのだから魔石には問題はないはず。
––––ということは体調なのだろうか?
と考えていた時、ドアが開き試験官が教室に入ってきた。シャルは急いで上半身を起き上がらせる。
試験官は壇上に上がらず、
「それでは二十分の休憩の
と、それだけ言ってすぐに教室を出ていく。
「何かあったのでしょうか?」
アビーが不思議そうに呟く。
「さ、さあ?」
と言いつつもシャルは先程の実技のことなのではと考えた。
◇ ◇ ◇
「ではアビゲイル・メイザーさん。隣の教室へ」
面接は一人一人行うらしく、まずはアビーが面接を受けることに。
アビーが出て行った後、シャルは反射的に胸を押さえた。脈がうるさい。それは先程の実技試験の疲れかそれとも緊張なのか?
シャルは深呼吸した。
面接で何を聞かれるのかを予想し、その答えを前もって作っていた。
今それを心の中で復習する。
数分後がらっと音が鳴り、ドアが開く。
ドアを開けたのはアビーだった。
「もう終わったの?」
「ええ」
アビーは机の下に置いた鞄を取って、帰り支度をする。
「ではお先に」
「帰るの?」
「試験官がもう帰ってもいいとおっしゃったので。ではごきげんよう」
アビーが部屋を出てしばらくして試験官が部屋に入ってきた。
「ではシャーロット・オレアノ・トムソンさん、次どうぞ」
「はい」
シャルは立ち上がり、部屋を出て、廊下に。そして一呼吸して隣の教室のドアをノックする。
「どうぞ」
ドアの向こうから返事が。
シャルはドア開けて、「失礼します」。そして椅子まで歩きます。座るのでなく、横に立ちます。
「どうぞお掛けになって下さい」
男性面接官の言葉を聞いてシャルは椅子に座る。
面接官は三人。初老の男性と三十代半ばの男性、そして五十代の細い女性。
「お名前を」
「シャーロット・オレアノ・トムソンです」
「本校の編入動機をお聞かせ下さい」
––––きた!
その質問はとてもありきたりなもので色々な面接で使われるもの。シャルは前もって考えていた答えを使う。
「魔法の才があるということで編入試験受けさせてもらいました」
少しうわずってしまった。
「魔法の才とは?」
「魔女に私はテンペストであると教わりました」
「テンペストなのですか?」
「そうらしいです」
「……ふむ」
次に隣の若い面接官が質問をする。
「この前、本土であった魔法事件と関係がありますか?」
「……はい。私は無意識で魔法を発動させ事件を起こしました」
シャルはまっすぐ面接官を見て答えた。
「怪我を負わせたクラスメートには申し訳ないと思っていますか?」
シャルは一度唾を飲み、
「いいえ」
面接官は眉を上げた。
「私は怪我を負わせましたが軽傷です。むしろ私は謝って欲しいくらいです。彼らは私の心を傷つけたのです。傷つけなければ魔法が発動することはありませんでしたし」
「謝罪の意思はないと」
「はい」
シャルは間髪いれずにはっきりと答えた。でも答えた後、どこか申し訳ないような表情になる。
––––間違ってはない。間違ってはない。
「あなたはこれから本校で魔法を学び、どのような未来を描いていますか?」
女性面接官が質問をする。
「まず魔法をコントロールすること。そして魔法に関する職業につければと考えております」
「魔女への道は?」
「いえ、今のところ考えておりません」
「魔女リネットのお弟子さんではないのですか?」
「いえ、一緒に暮らしているだけです」
面接官達は互いに顔を見合わす。
「では––––」
◇ ◇ ◇
「失礼します」
と一礼してシャルはドアを閉じた。
「ふう」
面接が終わりシャルは一息ついた。
––––疲れた。帰ろ。
筆記試験の教室に戻り、鞄を取る。
––––これで終わり。やることはやった。あとはなるようになれかな。
◇ ◇ ◇
正門でシャルはリネットに携帯電話で連絡を取る。
『どうだった?』
「筆記は多分大丈夫かと。実技は……ギリセーフかと」
『何かあったのか?』
自信のない言葉を聞いてリネットは尋ねた。
「なかなか上手く光らせなくて、時間ギリギリで光らせることはできたのですが魔石を割っちゃって……」
『……そうか。で、面接は?』
「多分大丈夫かと」
『……多分……ねえ』
「すみません」
『謝ることはない。今から車でそっちに向かう。正門でいいな?』
「はい」
次にシャルは本土にいる母に連絡した。
「もしもし」
『どうしたの?』
「今、編入試験終わったとこ」
少し間をおいて、
『あ!? 今日だったけ!?』
シャルの母は驚きの声を発した。
「そうだよ。忘れてたの?」
『あーごめん。すっかり忘れてたわ。で、どうだったの?』
「まあ、やるだけやったって感じ」
『受かりそう?』
「普通の受験じゃないから分からないよ。魔法の実技とかあったんだよ」
『そっか。……で、結果はいつ頃?』
「1週間後に郵送でだって」
『えらい早いわね? 普通は2週間くらいはかかりそうじゃない?』
「編入試験だし。それに私を含めて2人だけだからね」
シャルは肩を竦めて答える。
『へえ。もう1人誰なの?』
「アビゲイル・メイザー。あのメイザー大臣の娘さんだよ」
『へえー。そんなすごい人が受けてたの?』
「しかもリネットさんが指導している人だよ」
『そうなんだ。その人もテンペストなの?』
「? 違うけど。よくテンペストなんて知ってるね」
『え、ああ、うん。まあね』
と、どこか慌てたようにシャルの母は答える。
『それじゃあ結果が出たらすぐ報告しなさいよ』
「わかってるって。あ、リネットさんが来たから。じゃあね」
『元気でね』
シャルは通話を切って、リネットの車へと向かう。
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