第8話 あの子は?
ロゼが教室に入ると、中にいた生徒たちが一気に群がってきた。それにロゼは驚き一歩引いた。
「ねえねえロゼ、昨日のあの子は誰なの?」
「魔女の新しいお弟子さん?」
「編入してくるの?」
「あれ? 編入はメイザー家のお嬢様でしょ」
「メイザー家って都知事の?」
「そのメイザー家も魔女絡みって聞いたわ」
繰り出される質問攻めにロゼは溜め息を吐いた。魔女の名が出たということは学校でのやり取りを見てたということだろうか。もしくは誰かから聞いたか。
「私が知るわけないでしょ」
貴族派閥に
「でも昨日、噴水広場でお
その言い方は誰かから聞いたということだろう。
「宅配のバイトで会っただけだよ。昨日はコルフォー通りを案内しただけ」
「あの子の名前は? やっぱり、魔女のお弟子さんなの?」
フーラはぐいぐい聞いてくる。彼女自身の興味本位もあるのだけど、きっと貴族令嬢から聞いてくるように告げられたのだろう。
「名前はシャーロット。魔女の家で暮らてる。弟子ではないっぽいけど、そこのところはよく分からない。あと編入試験を受けるってさ」
「やっぱり魔女のお弟子さんなのね!」
「だからはっきりと分からないって」
◇ ◇ ◇
ロゼが疲れた体を楽にするように席に着いた。そこで友人のリリィが近付いてきた。リリィは線の細い長い髪の女の子。庇護欲を掻き立てられる。
「朝から大変だね」
「ほんと、そんなに気になるかしら」
「そりゃあ、この時期に編入だよ。しかも魔女絡み」
「? 特別な理由で試験を受けられなかったんでしょ。メイザー家みたいに。それに魔女絡みといえばメイザー家のお嬢様もでしょ」
それにリリィは首を横に振り、
「ロゼは知らないかもしれないけど、この時期の編入はギフトかテンペストの子なんだよ」
「そりゃあ、普通ならさギフトもテンペストも珍しいけど、
「……まあ、そうだけど。でもギフトやテンペストは幼少期に発露されるけど、思春期に発露されるのは珍しいんだよ」
「へえ」
「それにメイザー家は魔女に家庭教師を頼んだだけで弟子でもないんだよ」
「魔女の弟子になるって、そんなにすごいの?」
「もう! ロゼったら」
なぜそんなことも知らないのとリリィは大きく肩を落とす。でもそれは仕方ないこと。ロゼは去年からこの島に来て、今年に王立魔法学院に入学したのだ。まだ知らないことは多い。
「魔女の弟子ってことはいずれ魔女になるかもってことだよ。魔女だよ魔女!」
「あの子がねえ」
魔女といえば恐ろしいイメージだけど昨日の子は小動物系のイメージである。
実のところロゼは魔女についてそんなに詳しくはない。特殊な権限を持つとかそんな程度くらいである。
◇ ◇ ◇
女性の担任教師が教室に入ってきてホームルームが始まろうとした時、一人が代表して手を挙げた。
「先生、編入生って魔女のお弟子さんなんですか?」
「編入試験はまだだ。だから今は何とも言えん」
担任のその言葉に教室はざわつく。あちこちであれこれと推測が飛び交う。担任は手を叩き、
「ほらホームルーム始めるぞ」
◇ ◇ ◇
6限目のあと、リリィがすぐにロゼの下にやってきた。
「ノート返すね」
とロゼの机にノートを置く。
「え?」
ノートなんて貸した覚えはない。それにこのノートはどう見てもリリィのだ。
リリィはノートを捲り、指差す。
そこには、『お願い。今日、放課後時間ある? あるなら放課後の手伝い任せてと言って。そしてホームルーム後、すぐに教室を出て』と書かれている。
「放課後の手伝い任せて」
「うん。ありがと」
そしてノートを持ってリリィは席に戻った。
担任が教室に入ってきてホームルームが始まった。
報告も何もないのでホームルームはすぐに終わった。担任からしたらいちいち教室に行くのは面倒らしい。よく「6限終わったら、即帰れるようになればいいのにな」なんてぼやく。
担任が出ていった後、ロゼは教室をすぐ出た。廊下でリリィを待っていると、教室からでなく廊下の奥からリリィと瓜二つの人物がやって来た。その後ろにはお付きの者達が。
「今日は手伝いありがとうね」
瓜二つの人物が言った。
「……えーと、リアだっけ? 双子の姉の」
「ええ。名前を覚えてくれてありがと」
リアはフフフと怪しげに笑った。顔立ちは同じでも纏っている雰囲気は全然違う。妹のリリィは良く言えばおしとやか、悪く言えば周囲に溶け込む空気で小動物系。それに対して姉のリアは意思という我の強いお嬢様系である。
「ロゼ、お待たせ」
「あ、リリィこれって?」
「さあ、行きましょ」
と言ってリアは歩く。
リリィは何も言わず、ロゼに手を合わせて謝る。
「わかったよ」
ロゼはなんとなく察して、リアの後を歩く。
◇ ◇ ◇
向かった先は校内のとある一室。奥の壁はガラス戸で、その向こうにはベランダが。
ここはリアが所有権を持つ部屋。
校内には色々な派閥がある。基本的にその派閥を作っているのが貴族、政治家、魔法一族である。
その魔法一族の派閥の一つがリアの派閥である。
リアとリリィはコルデア島の魔法一族で南のミルニア町に住んでいる。ミルニア町の人ははるか昔から島に住んでいて、町外からは島民一族と呼ばれいる。ミルニア町とコルデア島中央の市町との間の山があり、その山頂には神社がある。リアはその神社の巫女を務めている。ゆえ、リアの派閥にはミルニア町の者で構成されている。といっても数はリアを含めて三人。派閥というよりも地元倶楽部みたいなもの。そしてその派閥にはなぜかリリィは含まれていない。けれど何かとリアはリリィを扱き使うために呼ぶ。
「で、リリィを使ってまで私に何用で?」
「編入生のことよ」
「メイザー家のお嬢様?」
「そっちではないわ。魔女の弟子よ」
「なんで皆、そっちなのさ。あんたら派閥だのと言ってるやつは政治家の娘アヴィーでしょ。父親は現大臣よ。普通気になるのはそこでしょ」
「そっちはそっちで調べはついてるの。問題は魔女の弟子よ」
ロゼは息を吐き、そして出された紅茶を飲んだ。
「本人はいわく、魔女の弟子ではないそうよ」
リアは形の良い眉を動かす。
「弟子ではないなら何なのかしら?」
「さあ、知らない。遠縁らしいわよ。あとテンペストだそうよ」
「テンペストで遠縁ねえ」
「別に普通でしょ。ただの遠縁だったということよ」
「でもテンペストなんでしょ?」
「テンペストなんてここいらでは普通でしょ。ギフトだっているんでし」
ギフトとテンペストどちらが注目を浴びるかといえば、断然にギフトだ。
ギフトは祝福。周りから羨望を受ける。将来に対して人よりアドバンテージがある。
それに対してテンペストは暴走。周りから厄介と煙たがれる。テンペストを制御できているか、上手く扱えているかでプラスにもマイナスにもなる。
「普通ねえ」
リアのその発言にロゼ以外は緊張した。
「でも今になって入学するということは、テンペストを発露したのはつい最近ということでしょ」
それはリリィも言っていたことだ。普通は幼少期に発露すると。
「興味ある?」
ロゼのその問いにリアは間を置いて、
「ええ。すっごく」
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