第7話 魔法の街

「それじゃあ、コルフォー通りを紹介するよ」

「コルフォー通り?」

「街の中央広場までの通りで色々な商店が並んでいるんだよ」


 二人は正門を出て、東へと伸びる道を歩き始める。ロゼが案内するように少し前を歩く。


「あの突然のことですみません」

「いいよ。リネットさんはお得意様だし、私も世話になったからね。それとタメ口でいいから」

「うん」


 丁字路でロゼが右に曲がり、シャルも後に続く。


「何か気になるとこある?」

「えっと、え~、普通の学校と魔法の学校ってどう違うの」


 ロゼとしては通りで気になる点を聞いたつもりであった。右折した時にコルフォー通りに入っていた。下校中の生徒や観光客、地元の人間が通りを歩いている。


「魔法の授業があるくらいだよ。それ以外は普通だよ授業は」

「授業は?」


 引っ掛かったことをシャルは鸚鵡返しした。


「派閥があるのよ」


 ロゼは肩を竦めて答えた。


「ああ! 貴族とかお嬢様とか多そうだもんね」

「それ以外にもあるのよね、これがさ」


 とロゼは苦笑する。


「で、通りのお店で気になるところある?」

「お店ですか?」

「そ、ここがコルフォー通り。お店がいっぱい並んでいるでしょ。で、ここをまっすぐ進むと中央広場に着くの。まあ、公園みたいなものね。その公園の向こうに駅があるの」

「そうなんだ。それじゃあ、ええと、あそこのお店とか気になります。アクセサリー店かな」


 少し離れたお店をシャルは指差す。ウインドウからは店内の様子が見える。小物類の綺麗なものから可愛らしいものまでのアクセサリーが並んでいる。


「あれは魔法アイテムの店だよ」

「あれ全部魔法アイテムなんだ!? 魔法アイテムって普通に売ってるんだ?」

「いやいや、普通に売ってないから。学院の生徒は大丈夫だけど。一般の人は許可がないと入れないし購入も出来ないんだ」


 お店に近付き、ドアを窺う。

 ドアには『許可証お持ちの方のみ入店可』と札が掛けられている。


「ここは諦めて他に気になるとこある?」

「えっ、ううんと。あ……魔法のパンケーキかな」


 シャルがちらりと目を向けた先には喫茶店があった。

 その喫茶店の前には『絶品魔法のパンケーキ』と書かれたのぼりがあった。


「じゃあ、ここにしよっか」


 実のところロゼもコルフォー通りのお店に詳しいわけではない。今年の春から島に来ていること、さらに実家が魔法アイテムや雑貨店を経営していることから、どこか入り難いためそう詳しくないのだ。

 ただ、この喫茶店は友人と来たことがあった。


 二人は喫茶店に入り、窓際に座る。シャルはアイスコーヒーつきの魔法のパンケーキセット。ロゼはチョコドーナツとコーク。


「魔法のパンケーキって何が入ってるのかな?」


 シャルはナイフとフォークを構えながら目の前のパンケーキを見て疑問を呈した。


「たぶん魔法由来の植物を使ってるんでしょ」

「魔法由来? 何それ? マンドラゴラとか?」

「いや、普通のだよ。さすがにやばいのは使わないから。魔法耐性のない一般人にやばめのところは規制があるから。さっきの店みたいに」


 ナイフでパンケーキを切り分け、そしてフォークで刺して口へと運ぶ。ミルク風味のパンとハチミツが絶妙であった。しかし、魔法由来の植物の味は分からなく、シャルはただの美味しいパンケーキと感じた。


「そっか。それにしてもさっきの魔法アイテムの店は残念だったな。魔法のアイテムって興味あったんだけど」

「魔法アイテムならリネットさんの家でくさるほど見てるでしょ?」


 ロゼはチョコドーナツをナイフで小分けに切り分けながら聞く。


「ううん。私、ラボには講義以外は入ったことないの」

「講義を受けるってことは魔女見習いなの?」

「魔女見習い?」

「お弟子さんじゃないの?」

「弟子!? 違うよ。そんなんじゃないよ。リネットさんとは遠縁にあたるだけだよ。それと私、魔法について何も知らないから教えてもらってるだけだよ」


 チョコドーナツを口へと運ぼうとした手を止める。


「……弟子ではなく遠縁か。でも編入するってことはテンペストなんでしょ?」


 シャルはテンペストと名乗るべきか逡巡して、


「……うん。そうだけど。この時期に編入するってことはテンペストが多いのかな?」

「さあ、そういうのは分からないけど」


 ロゼは首を傾げ、コークを一口飲む。

 

「ねえ、シャルって……」


 そこで邪魔するかのように着信音が鳴った。


「あわ、私だ!」


 着信音量を大きく設定してしまっていたのか店内にアイドル曲の着信音が鳴り響く。

 シャルは慌てて通話ボタンを押した。


「もしもし」

『シャル、今どこだ? もう家に帰ってるとか?』

「いえ、今はロゼと喫茶店にいます」

『どこの喫茶店だ?』


 シャルは店内を見渡し、店名が分かるものを探すも何もなく、代わりにロゼに、


「ここのお店の名前ってなんだっけ?」

「ブランシュだよ」

「ブランシュだそうです」

『ああ! あそこか。それじゃあ、食い終わったら電話したまえ』

「わかりました」


  ◇ ◇ ◇


 食べ終わった後、店を出てリネットに携帯で連絡をとるとリネットはすぐに車に乗ってやってきた。運転席側から乗れと合図をされ、シャルは後部座席に乗り込んだ。ロゼが乗り込まないのでリネットは窓を開けて、


「ロゼ、乗りたまえ」

「いえ、自分は別に」

「ほら、いいから早く」


 と言われロゼは後部座席に乗った。


  ◇ ◇ ◇


 先にリネットの家に着き、シャルを降ろし、リネットは車でマルス商店へと向かった。


 マルス商店に着き、ロゼが礼を言って降りようとした時、リネットに止められた。


「ちょっと待ちたまえ。喫茶店代だ」


 リネットは財布から紙幣を出そうとする。それをロゼは止めた。


「いやいや、いいですよ」

「そんなこと言うな。大分迷惑をかけただろう」


 許否するロゼにリネットは無理に紙幣を握らせる。


「じゃあ、遠慮なく」


  ◇ ◇ ◇


 ロゼはマルス商店には入らず母屋に向かった。

 鍵をドアの鍵口に差し込んだところで鍵が掛かっていないことに気付いた。

 ドアを開けて「ただいま」と言うとリビングの方から「おかえり」と返事がきた。

 2階の自室に着くと鞄を置き、服を着替え、ベッドに横になった。そこで耳に祖母からの呼び声を聞いた。

 どうやら1階のリビングから呼んでいるらしい。

 ロゼはベッドから起き上がり、部屋を出た。

 廊下で返事をするも祖母は何も返さなかった。

 ロゼは溜め息を吐き、リビングに向かった。


「何?」

「今日は遅かったね。どうしたんだい?」

「リネットさんとこの同居人に街を案内してたの」

「その同居人はお弟子さんではないのかい?」

「弟子ではないらしいよ」

「そうかい」

「それで、ばあちゃんこそどうしたのさ? 仕事は?」

「今日は早めに終わったのさ」

「?」


 ここに来て1年経つがこんなに早く店じまいするのは初めてだ。


「ここ最近、港の方が物騒だろ。それで商品が入んないのさ」

「それ大丈夫なの?」

「なあに、ほんの少しの間さ」

「ふうん」

「で、その同居人はどういう子だい」

「前に言ってた子だよ。あんまり魔法について詳しくはなさそうだったよ」

「でも何か持ってるんじゃないのかい?」

「テンペストらしいね」


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