第5話 魔法講義
「も、持ってきました~」
シャルはダンボールを抱えてラボに入った。
魔女の
だが実際は普通の科学実験室と地学準備室を合わせたかのような部屋だった。
「それをそこに」
リネットは今、木製の杖を紙ヤスリでこすっているので顎を使ってテーブルを差す。
「は、はい~」
シャルはテーブルにダンボールを置く。
「それじゃあ、朝食にするか。朝食の後に講義をするぞ」
「講義?」
「魔法のだ」
そしてリネットはダンボールを指差し、
「中に魔石が入ってる。それを使って魔法の講義だ」
「魔法を使うんですか私?」
「さわり程度だけどな。朝食はもう出来てるか?」
「すみません。起きたばっかで」
リネットからの叱りはなかった。シャルは急いでキッチンに向かい朝食を作り始める。
◇ ◇ ◇
朝食の後、ラボで講義が始まった。
「魔法は魔石に魔力を注いで反応させて、そしてアイテムを使って発生する」
そう言ってリネットは今朝のダンボールから赤、青、緑、黄、白、黒の魔石をテーブルの上に置く。
「ん? あのそれじゃあ私の……」
「まあ、待て。人の話は最後まで聞くように」
「はい」
「では続けよう。人の体には魔力が存在する。その魔力を魔石に注入することによってまず反応が起こる」
リネットが赤色の魔石を持ち、魔力を注ぐと赤い光が生まれる。
「それが魔法!」
シャルは感嘆の声を上げた。
「いいや。それだけでは魔法とは言い切れない。あくまで反応だ」
「そう、ですか」
子供みたいにはしゃいだ自分か恥ずかしいと感じたシャル。
そんなシャルを見てリネットはくすり笑い、
「後は杖、札等のアイテムで整えてから術者が発動させる。それが一般的な魔法だ」
「魔法には魔力と魔石、アイテムが必要ということですね」
「それと術者の実力だ」
「あの、それで……私のあの時の魔法は?」
「魔法を扱える人間はどれくらいか知ってるか?」
「へ? えっと、確か0.005%ですよね。2万人に1人の才能とか」
「そうだ。魔力というものは全てのものに存在する。しかし、余分な魔力を扱える人間は少ない。そんな中、才能のあるものだけが魔力を魔石に注入することができる。だがごく稀に魔石なしで魔法を扱えるが生まれる。そういったものをギフトと呼ぶ」
「私のもギフトなんですね?」
リネットは違うと首を振る。
「ギフトの他にサタノティア、テンペストが存在する」
「……サタノティア」
「聞いたことあるか。……ってあるよな。歴史の教科書にも出てくるんだし」
「魔王や圧政者、独裁者が使う力ですよね」
歴史上、聖戦や反乱の多くで討伐される多くの魔王、圧政者と呼ばれる者がサタノティアだと謂われている。
「ギフトとは反対の負の力だ」
「じゃあ私も?」
「君が魔法を使ったときどういうときだった」
「悔しくて、腹が立って、相手が憎たらしくって。……これって負の力なんですか?」
「では魔王やその他のヤバイ奴らは皆、魔法を使うときそんな状態か?」
「違うのですか?」
「君のはテンペストだ。テンペストは精神状態が不安定、もしくは極限に達したときに発動するものだ。サタノティアではない」
そう言われてシャルはほっとした。
「じゃあ、テンペストなら私は魔法を使うときいつも精神が不安定にならないといけないのですか?」
「魔石やアイテムを使わないならな」
それはつまり魔石やアイテムを使えば普通に魔法が使えるということ。
「試しに反応させてみるか」
「はい!」
リネットは赤色に光る魔石をシャルに手渡す。シャルの手に渡ると魔石は光が消えた。
「光らせてみな」
「は、はい」
シャルは唾を飲み込み、赤色の魔石を光らせようとする。
「んんんんん!」
しかし、全く光らない。
「ぐぬぬぬぬぬ!」
シャルは声を踏ん張るも魔石を光らせることができない。
「…………あの、魔力ってどうやって注入するんですか?」
「……そこからか」
リネットはやれやれと首を振る。
◇ ◇ ◇
ラボの奥にドアがあり、隣の瞑想室に続いている。
瞑想室は8畳の部屋で天井のライトを除きそれ以外は何もない。ドアを閉じられると息苦しさが生まれた。
「そこに立て」
シャルはリネットに部屋の真ん中に立つよう言われた。
「ここですか?」
「そう。目を閉じて一度深呼吸。そして力を抜いて気を楽にしろ」
シャルは腕を広げ息を吸い、腕を下ろしつつ息を吐く。真上から差す光を頭頂部に感じる。
「肩の力を落とせ。……よし」
とリネットは言い、右手をシャルの額へと伸ばす。
「私の魔力を注入する」
すると、
「あ、頭の中が何か膨らんで」
「感じるか?」
「はい。わかります」
「抵抗はするな」
リネットは指先を鼻へと動かす。それと同時に魔力も下へと動く。
指を止めずゆっくりと下へ動かし続ける。喉を通る時、ついシャルは息を止めた。
「楽にしろ。呼吸はそのまま」
と言われても呼吸したら魔力も吐いちゃうのでないかと心配である。
「呼吸しろ」
シャルは言われた通り、呼吸をする。
魔力は影響もなく喉に止まる。
そしてリネットは指先を動かし、首の下で止める。
「今、塊はどこにある?」
「首の下です」
リネットは左手を右手と同じ首元に。そして両手をそれぞれ横に動かし、離れさす。目を瞑っているシャルにはそれは分からない。
「どうなった?」
「2つに別れました?」
「そうだ」
二つの手は両肩へ移動。
「腕を水平に伸ばせ」
シャルは言われた通り腕を水平に伸ばす。
リネットは後ろに下がりつつ、自身の手をシャルの肩から腕、そして手に移動する。
「今、2つの塊はどこだ?」
「左右の手に」
「よし。目を開けろ」
次にリネットは魔石を握らせる。そしてシャルの手の中にある魔力を使い、魔石を光らせる。
「お、おおお!」
シャルは歓喜の声を上げる。
リネットは魔力をシャルの手に戻す。すると光も消えた。
「自分で魔力を動かし、魔力を光らせろ。私も補助をするかから」
シャルは魔力を動かそうと力む。
「体、筋肉で動かすな。意識を魔力に集中させ、それを穴から出すようイメージしろ」
シャルは魔力をイメージで出すように試みる。すると魔石が光った。でもそれはシャル個人ではなくリネットの補助によるものであった。また光は消えて魔力は手の中に戻る。ただし、魔力は小さくなっている。
「イメージ。イメージ」
リネットは補助をせずシャルに任す。
しかし、魔力は小さくなり、そして消えた。
「あの、魔力が……」
「もう一回始めからやるぞ」
「はい」
◇ ◇ ◇
しかし、この日は昼休憩を挟んで一日中どれ程挑戦してもシャル一人では魔石を光らせることはできなかった。
「私やっぱり才能ないのでは……」
「初日だから気にするな」
と言ってリネットはシャルの肩を優しく叩く。
「今日はこのくらいしよう」
「でもまだ時間が……」
今の時刻は16時17分。
「朝からずっとやってるんだろ。それに君の仕事は魔石を光らせることだけではないんだ。家事をきちんとしてもらわないとな」
「はい」
シャルは小さく答えた。
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