第5章 2

 小走りに廊下を進む優子は気になっていた事をティアーネに聞いてみる事にした。


 「なんだかSFに出てくる宇宙船の廊下みたいですね」

 「それはある意味で当たっておるな。このギルド本部は異空間に浮かぶ船のような物じゃからな」

 「確かエデン、えっとティアの故郷の船を改造したんだよね」

 「うむ。元々古代に作られた異空間を渡るための船だったそうじゃな。実のところ、我もその辺の事情はあまり詳しくないのじゃがな」



 ティアーネの知っている範囲では、本格的に勇者ギルドを設立する運びになった際に問題となったのは本拠地の設営だった。

 都合よくポンと地球の土地を用意できるトンデモ財力を持つ仲間がいるはずもなく、例えそんな都合の良い話があったとしても隠蔽しつづける労力とそのための設備の用意は喰らうモノの侵略に喘ぐエデンには難しい注文だった。

 そこで目を付けたのが、大昔に廃棄された『移民船』だった。


 「材質が輝石……、いや特殊でな。色々都合が良いという事で、その船を異空間に固定。少しずつ増築改築を繰り返して今に至るというわけじゃな」

 「今も少しずつ拡張しているんだよ!その内、本部が移動できるようになるかも?」

 「一応、研究はしているが動力の問題がな。果たして我らの祖はどこでコレの作り方を学んだのか……」


 そんな異世界の古代ロマンに想いを馳せているうちに目的の食堂が見えてきた。

 なぜ、初めて来た優子が食堂があると判断できたかと言うと、「食」と刺繍された暖簾が目に入った事。そしてドアの横には「今日のおすすめ!」とかわいいイラスト付きのメニューの紹介がチョークで描かれた黒板があった事が理由である。



 (どんな人たちがいるんだろう。うう、部外者が入ったりしたら怒られないかな)


 茶々とティアーネは気にしなくていいと言ってくれたが、これから始まるのはきっと戦いに向けての真剣な話し合いだ。決意して来たつもりだが、やはり場違いな所に飛び込むのは勇気がいる。


 だが、そんな優子の葛藤を知る由もない茶々がさっさと食堂に入っていき、当然の成り行きとして手を握られている優子もまた本人の意志とは関係なく食堂の中へと引きずり込まれた。




 「飲み物、要る人~!!」

 「あっ、オレンジジュース二つお願いしま~す!」


 「でさ、ラストがな、そりゃもうかっこいいんだよ!」

 「へ~、買おうか迷ってたけど買ってみるかな~」



 作戦会議と聞いて優子のイメージでは、迷彩服に身を包んだ厳つい男たちが居並ぶイメージを思い描いていた。

 だが、そこに広がっていた光景はまるで『ファミレスで放課後を過ごす学生たち』と言った光景であった。

 そう、この場にいるのは、ほとんどが優子や茶々と歳が変わらなそうな少年少女ばかりが十人ほどが無秩序にお喋りに夢中になっている。

 話している内容も、映画やゲーム、オシャレに関する事と他愛もない事ばかり。

 加えて食堂のテーブルも椅子も、どこかのファミレスから持ってきたのではないかと思うほど本物に酷似しファミレス感を強くしている。

 席と席の間に置かれた観葉植物や造花も意図したものか、中々に陳腐であまり流行っていないファミレス感を醸し出している。



 「ん~、とりあえずここに座ろうか」

 「は、はい」


 よく見れば布地が継ぎ接ぎされている中々に使い古されている感じの長椅子に優子が腰を落ち着けると茶々もその隣にちょこんと座る。そして、もはや定位置と言える茶々の斜め上にティアーネが待機する。


 優子たちが座った席は食堂の隅で、食堂を見渡すのに適していた。


 六人から八人ほどが座れるテーブルが八つ、等間隔に部屋の中央に置かれ優子たちはその一つを占有している。

 

 それとは別に一段高い場所に畳が敷かれた和風スペース、大型のモニターに色々なゲーム機が繋いである遊び場、更に静かに食べたい人用の個室も四つあると茶々が身振り手振りで教えてくれた。

 もっとも現在は、それらの席は使われておらず八つのテーブルの内、優子たちも含め六つのテーブルに数人の少年少女が座っている。

 外を見る窓がない代わりに壁に大型のスクリーンがどこか外国の風景を延々と流し殺風景な風景に少しの色どりを与えている。


 「ん~、あまり人数集まっていないね」

 「転移装置が、また故障してエデンから帰ってこれない者が多いのじゃよ。この週末に準備を終わらせようと人数を割いたのが仇になった形じゃな。それに地球に残っている者でも予定がある者が多いからの。むしろこの時間帯にこれだけ揃っておるのも奇跡じゃろう」

 「夕方くらいになればもう少し増えるわよ。もっともそんな悠長に構えている時間はないでしょうけど」

 「あっ、さおりん!」

 「さおりん言うな!」


 優子たちの会話にエプロンをつけた沙織が加わってきた。


 「あら、竹内さん……でいいのよね?もうギルドに参加するって決めたの?」

 「え!?」

 「ああ、違うのじゃ。まだ説明は済んでおらんが状況を知るには会議に出た方が早いかと思ってな」

 「ああ、そういうことね。ろくに考えもしないでギルドに入りたいなんて、どこの茶々かと思ったわ。とりあえず何か飲む?」


 慣れた手つきでテーブルの隅に置いてあったメニュー表を沙織から手渡された優子はドリンクの項目に目をやる。並んでいるのは、ごくありふれたジュースやお茶ばかりで値段もそれなりだ。


 「基本的に業務用スーパーでまとめ買いした物だから味は保証できるわよ。水がいいなら、そこに給水機があるからセルフサービスでお願いね」

 「じゃあ、オレンジジュースを二つ、お願い。支払いは茶々のポイントで!」

 「はいはい。それじゃ、すぐに持ってこさせるから。それじゃ竹内さん、悔いのない選択をしなさいね」

 「え?」


 意味ありげな言葉を残して沙織は去って行ってしまった。

 その言葉の真意をティアーネと茶々に求めようとしたが、その前に食堂の喧騒がピタリと止んだので優子も口をつぐんだ。

 

 今までの弛緩した雰囲気がなくなり、食堂にいた全員が新たに食堂に入ってきた二人に注目している。


 「今入ってきた人が十塚陽太郎さん、ギルドマスターだよ」

 「え、あの若い人が?」


 はっきり言って、こんな謎の組織の長には見えない、どこにでも居そうな大学生くらいの若者にしか見えない。

 一方の右目に眼帯をつけたエデン人の体は小さいが威厳、威圧感は上の様な気がする。

 



 「よっし、んじゃ作戦会議始めるぞ!」


 優子の席から丁度対称の位置にある壇上に立った陽太郎の朗々とした声が食堂に響く。

 それを合図に食堂の明かりが少し暗くなり陽太郎の背後に様々な映像が映った映像が空中に投影されていく。

 

 「まずは状況を説明するぞ」


 

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