第3話 江夏豊から、夏目漱石へ

 なんといっても、高校時代に読んだ本の著者で、かなりの影響を受けたのは、江夏豊さんです。

 なぜだろうか?

 その答えは、簡単。「一匹狼」と自他ともに認められている人だったから。

 それに加えて、私の父親が1948年生まれで、江夏氏と同学年になります。母は、それより1学年上になりますがね。

 その割には、1969年生まれで、両親ともかなり早いうちの子、ってことになります。だけど今に至るまで、1948年前後の生まれの人とのつながり、存外多い。


 さてさて、江夏さんの本をまずは現在の岡山県立図書館、当時の岡山県総合文化センターの図書室で何冊も読み、初めて買ったのが、

 「これが、言いたいことのありったけ」

という題の本でした。

 江夏さんは、阪神から南海にトレードに出されたとき、当時監督だった吉田義男さんと確執ができてしまったことは、皆さんご存知の通り。

 江夏さんは吉田さんのことを、「口をきくのも億劫なつまらん男だ」という趣旨のことを書かれていました。


 ある時、中3の時の担任だった音楽のM先生のことを、中1の時担任だった恩師の牧野先生(阪神ファンで、岡山に戻る前、10年近く神戸の中学校で教えられていました)という国語の先生に、電話で、そのように表現したことがありました。ここまで言えば、さすがにどやしつけられるの、覚悟しましたよ。この先生、怒ると怖いのよ。卓球部の顧問をされていて、これがまた激しい指導をされるので、私が、「名物キチガイ部」と評したところ、怒るどころか、「おお、中途半端はあかんのじゃ」とやり返すほどのお方。

 そんな牧野先生のおっしゃるところが、こうでした。


 「おまえ、それ、夏目漱石の表現やないか」


 さすがの私も、出典は言えませんでしたよ、ここまで言われると(苦笑)。

 で、どこが夏目漱石なのか、気にかかって、読みましたよ、改めてね、夏目漱石の作品を。

 そこで「こころ」とか読んでいれば、???だったところでしょうが、このときはじめて、ドンピシャで「坊ちゃん」を読んだ次第。

 なるほど。

 坊ちゃんが野だいこ氏を評した言葉が、まさに、これやないか!

 

 江夏さんの表現をまねたはずが、夏目漱石の言葉に至るとは・・・。

 

 ひょっとしてこのエピソード、私が後に小説を書こうという気になって本当に書き出す伏線になっていたのかもしれませんな。


 だけど、当時は、江夏さんの本を読んでも、そんなことなんか思わず、ひたすら、私が幼少の頃、父と同じ年のプロ野球の投手が、世界の王さんと全力で勝負していたことに、ひたすらしびれていました。


 私が群れずに自らの足で立って歩くことができるようになったのは、なんと申しましても、江夏さんの本のおかげなのです。

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