第2話 参考書に、ゼニが詰まっとる!

 2000年でしたか、元南海ホークス監督の鶴岡一人氏の訃報を聞きました。

 ちょうどその頃、「高校中退者短歌 その後」ということで、岡山県玉野市の真鍋照雄氏が約10年経った後の高校中退者たちの心境を短歌で詠んで語ってもらおうという企画をされました。

 残念ながら、うちにその現物が見当たらないので、私の書いた文章が出てこないのですけれど、この短歌を詠んだのだけは、覚えています。


 ~元南海ホークス監督 鶴岡一人氏の訃報を聞いて

 参考書にゼニが詰まっているのだと言い聞かせていたあの日あの頃


 それは後になってそう思ったのではなく、当時から、そう思っていたことは言うまでもありません。そんな短歌を作ったのは、他でもない、プロ野球関連の本を「高校時代」に散々読んだからです。


 「グラウンドに、ゼニが埋まっとる」


 鶴岡親分の大名言のひとつですが、養護施設に6歳から入れられ、高校入試に失敗して定時制高校に一応籍だけおいて大検から大学受験へと駒を進めるという手段を編み出した私は、鶴岡一人氏のこのセリフを、どなたの本かは忘れましたけれども、知るところとなりました。

 要するに、プロはグラウンドに活躍することで、そこから銭をもらえるのだ。グラウンドで活躍せずして、どこで活躍するというのか。

 そういう、親分の「ハッパ」ですな、若い選手諸氏に対する、ね。


 そうか、わしの場合は、参考書や問題集が、グラウンドに相当するものやないか。

 そう気づいた私の当時の本音を、この歌に託して詠みました。


 正直、このころのことは思い出したくもない。

 時がたてばいい思い出とか笑い話になるとか、おめでたいことをホザく大人(中身は単なる~以下略)が多かったあの頃。今思い出してみても、いい思い出とか笑い話だろうなどと私の前でホザく奴がいたら、ぶっちゃけ、そいつをゲバ棒で半殺しにしてやりたいとさえ思っておる、今も。

 まあ、これ以上は罵倒になるから、先に話を進めましょう。


 そういえば、これまたプロ野球関係者の本ですが、元巨人の千葉茂さんが、お若い頃の話で、時がたてばいい思い出になるなどと言っている奴がいるが、こちとら、今思い出しても不愉快なものは不愉快だ、という趣旨のことをおっしゃっていた。

 へえ、そういう大人もいるのだな、そんなことを思って、読んだ。

 千葉さんの書かれていたようなことも、やっぱりあったな、今思うと。

 だからこそ、こうして小説やらなにやらを書いて身を立てようとしているわけではあるがね。


 ベースボールマガジン社が出していた、野球殿堂シリーズ。

 「御堂筋の凱歌」

 「猛牛一代の譜」

 他にもたくさん、この手の本を読みました。

 それと同時に、プロ野球の歴史もしっかりと資料にあたって読んでいきました。


 私が高校に入学したのは、1985年。

 当時はまだ、南海ホークスがあった。本拠地も、相変わらず大阪球場だった。

 しかしながら、栄光の時期はすでに過ぎ去り、この年も最下位だった。

 西鉄ライオンズはすでになく、福岡を去って久しい。日本シリーズで阪神と対戦して負け、当時の広岡達郎監督はそれを機に、辞任された。

 阪神は、21年ぶりの優勝(1リーグ時代を入れて38年ぶりの日本一)。

 その日本シリーズ第6戦が終えたとき、私は、岡山大学の学生会館にいました。小5の年に「スカウト」されて、鉄道研究会というサークルにずっと通っていました。

 カープファンで当時1回生の先輩が、簡単に、阪神のいわゆる「お家騒動」の歴史を語ってくれました。

 このころまで私は、特定球団のファンではなかったのですが、このころを境に、阪神ファンになっていました。関西圏の文化と親和性の高い場所で生まれていたことも、そのことに影響しているのだと思われます。


 ともあれ、その先輩がポロリと阪神の歴史について語った時、ふと、思いました。


 そうやな、プロ野球やがな。

 ここに、何かのヒントがあるかもしれない。

 この世界のことを知ることで、ひょっと、何か得られるものがあるかもしれない。

 プロ野球のことを知れば、何かが得られるかもしれない。

 そこから私は、図書館や本屋に行っては、プロ野球の本を読むようになりました。

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