第2話

 "世界はせまい 世界は同じ


 世界はまるい ただひとつ"


 それは、童謡の中でしか歌われない、しかもそれを歌う子供達ですら単なる綺麗事と気づいているような、取り留めない幻想の類––––そうある筈だった。少なくとも、幼き日の思い出の中では。



 かつて東西を二分し、世界じゅうに血と弾薬の雨を振りまいた巨大権力が、共に融和へと歩み始めたのがおよそ半世紀前の話。その後、地上に存在した百九十六の「くに」たちは、その数を徐々に減らしていき、ついには唯ひとつに繋がった。


 ≪連邦≫––––それが、かつての「くに」に取って代わった、新たな統治単位の名前。自身の隣人やその隣人、またその隣人までをも愛すことのできる博愛主義者たちで構成された≪連邦≫政府は、ワシントンからサハラに至るまで、遍く包み込む善政を敷いたのだ。



 今や世界に、独裁者はいない。なぜならば、この世のまつりごとは全て、年齢・人種・性別・出身のどれも多様な≪連邦≫政府の構成員たちが、公明正大に話し合って決めることだから。


 今や世界に、飢えに喘ぐ子供はいない。なぜならば、全世界三十億人の全てに、幸福で文化的な最低限度の生活が約束されているから。


 今や世界に、戦争はない。なぜならば、独裁や飢餓のなきこのご時世、暴力に訴えかけてまで為すべき大義名分など、有り得ないのだから。



 僕たちの目の前にあるのは、かつて著されたSF小説の中に描かれたような、それはそれはすばらしき新世界。人類は今、その歴史が始まって以来の平穏と、幸福の只中にある。


 僕の父は。そんな世界が、戦争をやめる為に起こした最後の戦争で、兵士として死んだ。

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