17 ヤミヤミ・ロンリープラネット

 その場にへたりこんで動けなくなってしまった美野留ミノルを、わたしはうしろから抱きしめる。

 ありがとう、とわたしはいう。ありがとう。おかげで助かったよ。

 助けられてよかったと、美野留はほとんどかすれた声でこたえる。

 美野留はまだ、熱をもった拳銃を握りしめている。

 先ほどまで痙攣をつづけていたガロアはもう、わずかな動きも見せない。

 どうして拳銃なんかもってたの? わたしはすこしだけからかうような口調でたずねる。

 練習してたから。ふるえる手、ふるえる拳銃を見つめながら美野留はいう。いつかちゃんと扱えるようになろうって、練習してたから。

 ちゃんと扱えたね。

 うん。

 怖かった?

 怖かった。

 戦うのはもういやだ?

 戦うのはもういやだ、でも、と美野留はつぶやく。メグがあぶない目にあっていたら、僕はかならずまた戦う。

 スミレにふさわしくなりたいから?

 メグを失いたくないからだよ、と首を振りながら美野留はこたえる。そしてちいさくつけ加える。スミレにふさわしいかどうかは、スミレがきめればいい。

 たしかにそうだ。

 ねえ、メグ。

 うん?

 ありがとう。僕のことを、好きといってくれて。

 どういたしまして。

 あの言葉のおかげなんだ。

 なにが?

 僕が自分のことを、自分がどうして存在しているのかを、前むきに考えられるようになったことが。

 それはなにより。

 ねえメグ。僕はまだ弱いよ。できないことも欠点もおおすぎるし、そそっかしいし、考えにあまいところもたくさんある。もしあした世界が崩壊してサバイバル生活がはじまったら、たぶん真っ先に死ぬタイプだと思う。

 そうかもね。

 僕はひとりでは生きていけない。ひとりだと、がんばれない。

 うん。

 それはわかってる。でも、まだ、自分の気もちの整理ができていないんだ。僕は自分がなにをえらんだらいいのか、きめられていないんだ。

 うん。

 メグ、ありがとう。僕のことを好きといってくれて。でももうすこしだけ、時間がほしい。すぐにきめられなくてごめんなさい。すぐにこたえられないくらい弱くて、ごめんなさい。でもかならずこたえを出すよ。僕は自分がほんとうはなにがほしいのかを、かならず見つけだす。

 うん。

 だからもうすこしだけ時間がほしいんだと、美野留はもういちどくり返した。

 いいよ、待っていようとわたしはこたえる。美野留がこたえを見つけるまで、わたしはずっと待っているよ。美野留のこたえはきっとわたしにとどくから。いつでも、なんどでも。なにがあっても。


   ☆   ☆   ☆   ☆


 完璧な闇がゆっくりと眼前に開かれる。

 それまでの空白としての闇が切りひらかれ、手さぐりできるような現象としての闇が、わたしのまえにあらわれる。

 チリチリチリと、膨大な数の計算が処理される心地よいなつかしさがわたしの全身をみたしていく。制御されたおびただしい電子の奔流がからだじゅうを駆けめぐる快感が、わたしをつつみこんでいく。

 再起動。。。。。。。


 カプセルを出てもその先にはべつの闇がひかえているだけだった。

 明かりのないその部屋には無数の計器類がならんでいたが、もちろんどれも生きてはいなかった。予備電力もすでに、枯渇している。

 この部屋が活動をとめて、もうずいぶん久しいようだ。

 なにもかもが動くことを放棄し、意志をうしない、永遠の沈滞のなかにしずみこんでいる。

 ただひとつの機器をのぞいて。

 わたしはそっとそれにふれる。わたしを保存していたものと、そっくりおなじもうひとつのカプセルは、一定しているがために逆に無音にきこえるひくくちいさな駆動音をひびかせてその活動をささやかにしめしている。

 そのなかで、かれはながい眠りを眠りつづけている。

 ねえ、彌野屢ミノル

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