第18話 立食パーティ

表彰が終わって立食パーティが始まると、一気に和やかな空気が包まれる。

来賓のはずの圭吾さんも、なぜか僕たちのテーブルに顔を出していた。


「2人ともおめでとう!すごいですよ、兄弟そろって」

「もう、腰が抜けてる感じで」

お母さんは、2人の結果に驚いている様子だ。


保木先生が、はるか先生に話しかける。


「はるか先生、よくノクターンをあそこまで仕上げたわね」

「タオくん、本当に頑張って」

「いえ、はるか先生、大したものよ。ノクターンは私は勧めなかったのよ、だけど、タオくんがどうしても弾きたいっていうから…でも、ここまで仕上げるのだったら、選んで正解だったのよね。今後の選曲も変わってくるわ」

「最後の2日間でノクターンが驚くほど良くなったんです、本番も本当にいい演奏で」

「そうよね、2人の指導者を泣かせたものね」

保木先生とはるか先生が僕を覗いてくる。


「ノクターン、苦しかったけど、何か分かった気がします。レッスンしてくださってありがとうございます」


最初選曲した時には、ただただ「タケルくんに負けないため」のノクターンだったけど、結果的に僕を大きく飛躍させる曲になった。


「あの…はるか先生…一緒に飲み物取りにいきませんか?」

僕はこそっと先生に話しかけた。

「うん、何か欲しいなら取ってくるよ?」

「ううん、一緒に…」


人混みを歩いていく。

隣には、先生。


「あの…先生、僕、今回のコンクールで金賞が取れたら伝えたいと思っていたことがありました」

「うん?なあに?」


ゆったりとした先生の返答に、僕はきっぱりと言った。


「僕、先生のことが好きです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る