第19話 先生への気持ち

人混みの中なのに、僕が告白した途端、あたりが静まり返った気がした。

でも、それはただの幻覚で、実際は僕が告白したからって、人混みでザワザワしているのは何も変わらない。


先生は驚いたように立ち止まって、僕は先生を振り返るように立ち止まった。

先生の目が少し迷ったように左右に動いてから、スッと僕を見た。


「タオくん、ありがとう。タオくんのことを、恋愛として見ていなかったから、今すごく驚いている。好きでいてくれてありがとう。

でもね、実は私、今付き合っている人がいるの。だから、タオくんの気持ちには応えられない。ごめんね」


その返事は、僕が想像していたものとは全く違っていた。


僕は、22歳も年下の中学生の告白なんて笑って誤魔化されるか、そんな子どもの恋なんて、という反応をされるんじゃないかと思っていた。

冗談、とはぐらかせることも予想していたし、子どものような年齢の子とは付き合えないとか、あなたはただの生徒、と言われることも覚悟していた。


でも、はるか先生の返事はそんな予想を見事に裏切って、実に理にかなっていた。

子どもだからとか、年が離れているとか、そんな言葉はひとつもなかったし、言葉の端にも感じられない。


「そうですか、やっぱり付き合っている人が…」

「うん」

「そうですよね、はるか先生みたいに綺麗で大人な人に、恋人がいないわけないか」


僕は俯きながらも、晴れ晴れした気持ちも感じていた。

やっぱりな、と腑に落ちたからかもしれない。

でも…


「先生、僕、すぐには先生のこと諦められません。だってずっと…ずっと好きだったんです」

先生の顔を見ながら言った。


「うん、人の気持ちってそんな単純じゃないよね。無理に抑え込む必要なんてないと思う」

「望みがないことは分かってます。でも先生のこと、好きでいていいですか?」

「うん」


はるか先生は優しい笑顔で頷いてくれた。

先生は、やっぱり僕の大好きな先生だった。


「タオくんは、やっぱりオレンジジュース?」

「今日はマンゴージュースにしようかな、珍しいし」

「じゃあ、私はザクロジュース!」


先生がコップを持っていこうとするサーバーの色が毒々しくてビックリする。


「え?それ美味しいんですか?すごい色してるけど」

「美しさを保ってくれるのよ、ザクロって」

「先生は、そんなの飲まなくてもいつでも綺麗ですよ」

「タオくん、いつからそんな悪いオトコになったの?」


ザクロジュースを注いだ先生が僕をちらっと見る。


「まさか!僕は、これからもっといいオトコになりますよ」

「ふふ、期待しておく!」


僕たちは、お互いのジュースを見つめながら笑った。


「これからも、YouTuberとしても先生にたくさん素敵な演奏を届けますからね!それで先生に僕のことを好きになってもらいます!」


「お!男らしいこというね、タオくん!」


「覚悟しておいてください!」


なんだか告白して振られたのに、もっとはるか先生のこと、好きになっちゃったな…。


やっぱりはるか先生は、すごい女性だった。


ユーチューバータオの初恋 完


最後までお読みいただきありがとうございました!

タオの外伝はこれで完結となります。

本編「ピアノ男子の憂鬱」第4部は1週間ほどお休みを頂き、11/14から連載スタート予定です。

引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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