第14話 演奏終了

演奏を終え、舞台袖からホワイエを歩く。


終わった…


ホールの客席で、他の人の演奏を聴きたいと思いながらも、弾き終わった安堵感と達成感で、ホワイエの壁に寄りかかったまま動けない。


今できる、最高の演奏――


「タオくん」


僕を呼ぶ男性の声…


「いい演奏だった、タオくん!」

「圭吾さん…」

「大丈夫?あの椅子まで頑張って」

「いえ、歩けるんですけど、なんか…」

「フワフワ浮いてる感じだろう?分かるよ」


圭吾さんに肩を持ってもらって、少し先の長椅子まで歩く。


「はるかがね、感動しちゃって立ち上がれないから、タオくんの様子見てきてってね」

「先生が?」

「うん、最後のノクターンなんて、涙流しながら聴き入ってたよ」

「ほんとに…?」


椅子に座って、一息吐く。


「僕、ちゃんと演奏できてましたか?」


圭吾さんは、横に座って笑う。


「いい演奏だったよ、花火大会の日からよくここまで頑張ったね」

「…良かった…」


圭吾さんが、あの花火大会の演奏と比べて評価してくれているのであれば、自分の感覚は間違いないだろう。


「どうする?ここで一息つく?飲み物買ってこようか?」

「ううん、はるか先生の顔が見たい」

「そうか、よし、この演奏が終わったら客席に入ろう、あっちの扉からが近いよ」

「はい」

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