第4話 はるか先生とのレッスン開始

「じゃあ、一度2曲通しで聴かせてね」


隣のグランドピアノの椅子に座る、はるか先生が楽譜を見ながら言う。


ああ…懐かしいこの感じ。

本当に、はるか先生のレッスンが始まるんだ…!



全国大会で演奏する曲は4曲。

その中から、今日は予選で演奏した2曲のレッスンをしてもらうことになっていた。


ハンガリーの作曲家、バルトークのトランシルヴァニアの夕べは、春休みにはるか先生に聴いてもらっていた曲だ。


またもう一曲のスカルラッティのソナタ、Kカークパトリック380、Lロンゴ23は、小学5年の時に受けた全日本コンクールで演奏した曲。この時もはるか先生に指導してもらっていたけど、今回、中学2年になったもう一度演奏するからと、装飾音も少し入れ直したりしていた。


僕はバッハも好きだけど、スカルラッティの軽やかなバロック感がすごく好きで、今回はバッハの曲集でなくスカルラッティを選んだ。


はるか先生の横で奏でるピアノは、格別の響きだ。

自分が奏でているのに、こんなことを思うのは可笑しい気がするけど、本当にそう感じるのだから仕方ない。


なにかワクワクして、今にも飛んでいってしまいそうな音色。


2曲を弾き終え、先生の様子を見ると、まだ楽譜に何か書き込んでいる。


「…うん、スカルラッティ、随分大人っぽい印象になっててビックリした。この曲一緒に練習したの、4年前なんだもんね」

「はい」

「スカルラッティは、もっと揺らしていいかな、ちょっと真っすぐすぎる印象を受けたんだよね、で、バルトークは、春休みよりもYouTubeよりも良くなってる。この曲、テクニック的に、タオくんにしては易しいのよね、だけどどれくらいセンス良く歌えるか、繊細さももう少し欲しいかな」


しばらく考えて、先生はスカルラッティの最初の部分をさらっと弾く。


「演奏順、だいたい決めてあるんだよね」

「はい、時代順でいいかなって」


「バルトーク…最後にするの?」

「おかしいですか?」


先生は、4曲の楽譜を見ながら悩んでいるようだ。


「明日、本選2曲を聴いてから決めよう。保木先生にも相談してみるからね」

「はい」

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