第3話 写真

レッスンスタジオに入ると、先生が廊下で写真の入れ替えをしていた。

「先生…!これお土産です!」


僕は、新幹線の駅で買っておいた、めんたいこ味のせんべいとプリッツを渡す。

「タオくん、それ私の大好物…」

「うん、だから買ってきたんだ!写真、整理してるんですか?」


その写真入れは壁に掛けるタイプで、12枚がはめ込めるもの。

このコンクールの予選、本選の記念に撮った写真を飾るのが、先生の毎年の習慣だ。


「あ!あの写真、まだ飾ってくれてるんですね」


僕は、ドアの上に飾られた少し大きめの写真を指さす。

「当たり前じゃない、あの写真は永久的に飾るわよ」


それは、僕は年長の時に全国大会で金賞をもらって、大きなトロフィーを抱えている写真だった。


僕はあの時から、先生がずっと好きで片思い。


「よし!これで本選までの写真は完了!」


写真を入れて後ろの押さえと固定させて、えいっと写真入れを持ち上げる。

「わっ!先生!危ない!!」


僕は慌てて、写真入れを持ち上げる先生の手の横に、自分の手を入れて支えた。

「うわ!ありがとう!結構重いでしょ、この写真入れ」

「危ないですよ、1人で。どこに掛けるんですか?」

「その…右側の開いてるところ。あのフックに引っ掛けて…」

「分かりました。一緒に、そ~っと…」


ゆっくりとフックに引っ掛けて、少し斜めになっているのを真っすぐに修正して出来上がり。

よく知っている顔が、笑顔でメダルや賞状を持って映っていた。


「あ、望美ちゃん優秀賞だったんだ!」

「そうよ、今年でコンクールは最後のつもりだから、ホッとしたわ~」

「でも…これどこ?ホールじゃないよね?」

「分かる?実はね、ホールで写真撮り忘れて、そのあと行ったファミレスで撮ったの」


ちょっとガヤガヤしている雰囲気が写真に表れていた。それで服装もドレスじゃないのか。


「じゃあ、このタケルくんも?」

「そ、望美ちゃんとタケルくんの級、一緒の時間に発表だったから、そのあと皆で祝勝会に行ったの」


僕は、先生と目を合わせてクスっと笑った。


「ね、タオくんも思う?おかしいよね」

「タケルくん、なんでこんななんだろう?」


他の写真は皆、カメラに向かって笑顔で、賞状を持って映っている。


なのにタケルくんときたら…


嫌々持たされたであろう賞状を見ている姿が映り出されていたのだ。


「私も望美ちゃんも、望美ちゃんのお母さんも、正面見た方がいいよってしつこく言ったのよ」

「昔から、タケルくんってそういうところあるよね、しかも、この賞状、持ちたくないのに、って表情が…」

「そうなの!すっごい顔に出ちゃってるの!ちゃんと映ればかっこいいのに…あ、美央ちゃんはここよ」


美央は、気合を入れて誂えたドレスを着て笑顔で写真に映っている。


「うん、美央も全国大会行けて良かった!」

「さ、レッスン始めようか」


「はい!」


僕は、タケルくんの微妙な表情の写真を横目に見ながら、レッスン室に入った。

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