第5話 立ち聞き

その日は日直だったこともあり、放課後に体育館の横を通りながら職員室に向かっていた。


「ねえ、それじゃあ、あんまりにも…」

「付き合ってるんでしょ?」

「うん、花火大会誘ってくれたし」


女子3名が体育館のドアのあたりで話しているのが聞こえた。

部活の人たちかな?


「もっと積極的にいったほうがいいよ」

「でも…幼馴染みだと思うと、なかなかね」

「あ~タケルくん、一体何考えてるんだろ!」


タケルくん、というキーワードに胸が跳ね上がる。


「ピアノピアノってさ、ほたるのことほったらかしじゃん」

「でも、いつまでもピアノって言ってられなくなるだろうし」

「そりゃそうだけどさ、それまでじっと待ってるってこと?」

「どうせ時間の問題かなって」


私は立ち止まってしまっていた。

女子3名の顔を見る勇気はない。だけど、納得がいかない言葉をたくさん聞いてしまった気がする。


「あ…あなた中学校の時の…」


立ち止まって下を向いている私に気付いたのは、ほたるさんだった。

中学の時タケルくんに話しかけていた女子、ということで覚えていたのだろう。


「つ…付き合っているなら尚のこと、タケルくんのピアノも大切にしてほしい」


普段はあまり感情的にならないはずなのに、この時ばかりは自分が抑えられなかった。


「ちょっと、あんた関係ないくせに話に入ってこないでよ」

「立ち聞きなんて…」


ほたるさんの友人2人が、私を責めてくる。

でも、これだけは言わなくちゃ!!


「タケルくんのピアノは本当に素敵だから!」


タケルくんがほたるさんと付き合っていることはショックだったけど、大事な人にタケルくんのピアノが認められていないことの方がショックは大きかった。


「タケルのピアノなんて、絶対に聴きにいかない。いつもピアノ、ピアノ、ピアノ!あなたに私の気持ちなんて分かるわけない!」


ほたるさんは、走っていってしまった。


「ちょっと、ほたる…」


友人2人は、立ち止まっている私を置いて、ほたるさんを追いかけていき、私は1人取り残された格好になった。


そんな…ひどい…どうして…


私は耐えきれず、その場にしゃがみ込んで泣いた。

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