第5話 秋の始め
聖橋学院は中高で同日開催のため、十月の半ばは文化祭の準備一色に染まっていた。
わたしのクラスは演劇をすることになっている。
演目は明治時代を舞台にした恋愛もので、簡単に言うと明治時代の『ロミオとジュリエット』。
「上野さん、アレクセイ役をお願い! ちょうどいなくて」
アレクセイというのは主役のリチャードの友人でありライバルのロシア人なんだ。
実は男子の人数が少なくて、女子の中からそのアレクセイ役をすることになったの。
「ぴったりだよ、上野さんが」
「え……いいけど、大丈夫? わたしでも」
ちょっと戸惑いもあったけど、みんなが賛成してくれているので引き受けることにした。
もう劇は衣装合わせを行っていた。
わたしが着ているのはクラシカルなデザインの黒のジャケットにズボン、白いシャツと緑色の石が留め具についたループタイ。
そして髪は同じ色の短髪のウィッグをつけて、帽子を被ったときに菜月に写真を撮ってもらった。
「え……?」
他クラスにいる双子の弟の
光輝はわたしよりは暗いけど黒に近い茶髪に暗いグレーの瞳をしていたけど、めちゃくちゃびっくりしている。
「ひいじいちゃん……に見える。マジで鏡を見た方がいい」
「そうだよね。写真をスマホで撮ってモノクロにしたとき、ひいおじいちゃんにそっくりでびっくりした」
たぶんひいおじいちゃんにひ孫のなかではそっくりで、ひいおじいちゃんには双子の妹がいたこともあとで聞いた。
その妹の名前はスヴェトラーナ、ロシア語で光という意味でわたしが生まれる直前に亡くなって、生まれ変わりだと思ったらしい。
それでロシア語でスヴェトラーナと同じ意味を持つ名前のひかりを名づけたという。
「上野さん。めちゃくちゃかっこいい! 外国人みたい」
「ありがとう……」
「親のどっちかが外国人なの? 上野さんって」
隣にいた衣装製作をしてくれた立野さんに聞かれた。
「あ、父方のひいおじいちゃんがロシア人なの。八分の一しかその血を引いてないけど、隔世遺伝が出ちゃったみたい」
「そうなんだ。でも、衣装、似合ってるよ」
教室で衣装を着てのリハーサルは本番と同じ形で行われる。セリフと立ち回りを一から覚えてないといけない。
でも一応覚えたことを話すのでセリフや身ぶりとかを覚えたのは先週の休日。
それと役であるアレクセイはひいおじいちゃんの名前で、偶然にもほどがあると思ってしまうくらいだった。
わたしはロシア語の簡単なフレーズを話すところがあった。
でもそれからはほとんどが日本語になるので、結構楽だったように思える。
そのあとに練習を終えると、窓の外はもう暗くなっている。日が短くなってきて、帰るのは菜月と一緒に行くことにした。
帰っているときに菜月がスマホを見て、少し不安そうな表情でこっちを見た。
「零の復学、少し延びるって。体調が悪いみたい」
「うん。無理はしてほしくないし」
零くんはすでに退院してはいるんだけど、まだ体調が落ち着かないということで休学する期間を少し延長している。
わたしは一応連絡はしているけど、体調を崩しているのに遠慮してしまう。
「まぁ。舞台の映像はクラスで用意してくれるし、メイキング映像も撮ってるから……文化祭が終わってからDVDにしてくれるから、最悪それを見せればいいと思う」
「そうだね。あとはロシア語とかを覚え直そうかな? 結構大変だしね」
ロシア語はひいおじいちゃんに教わってからは、通信教育でロシア語を学んでいるけど結構実践するのは少ない。
発音とかはネイティブには話せてるつもりなんだけど……実際はどうなのかはわからなかった。
「父さん。ロシア語で話してくれない?」
「いいよ?」
家に帰ってからロシア語の通訳をしている父さんとロシア語で会話をしてみたけど、問題はないみたいだった。
でも片言の日本語は難しいので、直前までロシア語で話してることにした。
それで夕飯を食べて、色々してから寝ることにした。
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