第4話 想いと夢

「零くんのこと、好きでした」

「え……ひかり」

 わたしはその言葉を言って、顔が熱くなってうつむいて目を閉じていたの。

 心臓がバクバクと激しく波打って、めちゃくちゃ恥ずかしくなってくる。

 そっとスカートをぎゅっと握っていた手に温もりが伝わる。

 目を開けると零くんの手が重なっている。

「え……零くん?」

「こっち向いてくれた」

 零くんの顔が少しだけ赤くなっている。

「先を越されたな……ひかりに」

「え、先を越された……って、えぇ!?」

 小さな声で驚いて、零くんは笑っている。

「俺も、好きだ」

 零くんはそう話すと、少し泣きそうにしていた。

「ひかりに病気のことを伝えようか、迷ってたんだよ。あのときは受験だし……菜月には黙っておいてほしいって言ったんだよ」

 わたしはそのときに手を重ねて、零くんの方を向いた。

「小さな頃は零くんに支えてもらった。これからはわたしが支える」

 零くんは泣き笑いの表情でうなずいた。







 それから、零くんは高校を三ヶ月ほど休学することにした。

 体調が良いときは同じ高校の通信制で勉強をしたりしているので、復学したときに勉強の遅れを取らないようにと考えているみたい。

 わたしはお見舞いはたまにしか行ってない。

 そのときは交換日記を続けている。

 ノートはもう二冊目になっているんだ。

 クラスメイトとは不思議と仲が良くなっていくんだ。

 普段と変わらない生活をしているのに……って、思ってたけど菜月や母さんたちからはこんなことを言われた。

「ひかり、明るくなった」

「表情はいまの方がとても好きだよ」

「これからもこの笑顔でいてほしいな」

 そんなことを言われて気づいたの。

 写真のなかでクラスのみんなと笑っている自分がいた。

 入学式の写真では上手く笑えなかったけど、体育祭で撮ったクラスでの写真撮影ではトロフィーを持つ千鶴ちずるの隣で笑っていた。

「本当に零くんのおかげだよ……」

 真夏の空を見上げると、青空と白い雲がすごくきれいに見える。

「なんか言った? ひかり」

「何でもないよ。学校に行くのがとても楽しくなったの。零くんがこのノートをくれたおかげでね」

 零くんの病気は治りつつあって、順調に行けば十月の文化祭が始まる頃には戻れるかもしれないらしい。

「順調に行けばね。まだ病状が悪化して、長引くかもしれないし……菜月はまだ来ないのか?」

「文化祭の展示を仕上げたいらしくて、遅くまで残ってるの。わたしはクラス準備で残ってるし……」

 今日は菜月も来るはずだけど、文化祭の展示の締め切りが近いらしい。

「菜月。美術部でも上手いもんな、一度だけ見たことがある」

「うん、菜月は美術の先生を目指してるの。小学生の頃に亡くなった先生がいてね、その先生みたいに生徒から慕われる先生になりたいって」

 先生が亡くなったことを聞いて、菜月はショックで泣いていた。

 お葬式のあとも帰るときもずっと泣いていた。それくらい好きな先生だったんだと思ったの。

「そうか……その先生みたいになりたいんだろうな、俺も夢はあるんだよ」

 零くんは教科書を読みながら、夢を語ってくれた。

「いつか父さんと母さんがやってる食堂を継ぐこと。まだ叶うのは遅いかもしれないけど、父さんの味を次の世代に伝えたいんだ」

 零くんの両親は地元の商店街で大衆食堂を開いている。

 いつか店を継ぐことを決めていて、いまは手伝いをしたりもしている。

「零くんが料理してる姿、かっこいいと思うよ? 楽しみにしてる」

「そうだな。ひかりは?」

「わたしはロシア語と関係ある仕事をしたい。翻訳とか」

 父方のおじいちゃんはひいおじいちゃんから継いだ商店と同時に、ロシア語の翻訳とかの仕事をしていた。

 父方の実家に行くとその翻訳された書類と本とかがあるのを見て、それを読んでみたいと思ったのがきっかけだった。

 夢を叶えるために勉強をがんばりたいのは、自分だけじゃなくて零くんと菜月も一緒だと感じる。

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