第3話 再会
大学病院は新しい建物でエントランスが吹き抜けで、とてもきれいな感じがしている。
「こっちだよ。零は高校生になってから小児科から一般病棟に移って、こっちなんだよ」
エレベーターは五階で降りて、その廊下にある零くんの名前が書かれたネームプレートを探す。
「あったよ。ひかり、ここだね」
「ほんとだ……」
個室の病室らしくて、そこには『藤野零』と書かれたネームプレートがあった。
それを見て少しだけ不安になって、ドアの前に立っている。
「ノックしてほしい、菜月」
「うん。いいよ」
菜月がドアをノックして、ドアの向こう側から反応が返ってきた。
「どうぞ」
「零、入るよ」
わたしはすぐに歩くことにした。
「零、今日はひかりも連れてきたよ」
「ひかりも?」
零くんと会うのは久しぶりで、記憶よりもとても大人に見える。
「久しぶり? ひかり」
「久しぶりじゃないと思う」
わたしが話すと、零くんは笑っていた。
その面影が懐かしくて、胸が複雑な心境だった。
零くんはイスに座るように促されて、すぐに話を始めようとした。
「零くん。元気そうでよかった」
「ここ最近は落ち着いてたんだよ」
わたしの表情がとても明るかったので、ホッとで来た気がする。
菜月はわたしにスマホの写真を見せてくれた。
「おい、菜月。やめろ」
「めちゃくちゃ美人に仕上がってるけど?」
それはきれいな女性が魔女のコスプレをしていて、その嫌そうな表情は目の前の零くんと同じ表情をしている。
「零くんだよね?」
「うるさいな……姉ちゃんに人形にされたんだよ」
確かに零くんのお姉ちゃんはコスプレの衣装とかを作るのが上手くて、たまに着せてもらったこともある。
でも、まさか零くんに着せてたのはびっくりしたけどね。
「ひかり、見せたくなかったんだよ。去年のハロウィンで姉ちゃんに魔女のコスプレをさせられて」
なにかを伝えたがっている表情が伝わってくる。
ノートのわたしが最後に書いた文章を指差した。
「ひかり……、人となじめずにいるの?」
「うん。菜月がうらやましい」
わたしは菜月がずっとうらやましかった。
人の輪のなかに入っていけるのが、とてもすごいと思ってしまった。
「言われたことを引きずってる。自分がみんなと違うって……」
「でも、それはひかりを作り出したもの、ルーツとなる姿だと思う。ひかりはいまのままでも輝ける」
その言葉で涙が溢れて、止まらない。
心のなかで叫んでいたことを受け止めてくれたように思えた。
「……いままで辛かったな。ひかり」
ずっと髪や瞳の色を好奇心で話しかけてくることが多かった。
父方の親戚のなかでは珍しくはない。茶髪だったり、グレーの瞳の人だっていたんだ。
「昔に俺が病気で入院したことがあって、ひかりはずっと見舞いに来てくれた」
「うん」
「それが俺は嬉しかった。ひかりと一緒に話せるのが楽しかったんだよ」
まだ涙が止まらなくて、ずっと涙を拭っていた。
「うん。嬉しかった……わたしも」
菜月は家の用事があるらしくて、もう帰るみたいだった。
「アイツ、予定なんて……あったのかよ?」
「わからない。でも話したいことって?」
零くんは悲しそうにわたしの方を向いた。
「俺、今度から休学することにした」
「え」
まだ高校生になって二ヶ月ほどしか経っていないのにと思ったけど、それには理由があったんだ。
「また病気が悪化したんだ。本格的に治療をするために休学することにした。病気が小さくなれば、学校に行ける」
「うん。同じ高校で勉強できるかと思ってたけど、少しだけ楽しみにしてたんだけどな~」
零くんは笑いながらベッドに座っている。
その表情を見て、昔の記憶が重なる。
ずっとその笑顔を見たいって思ったことが何回あったのかわからない。
「零くん」
「どうした?」
視界がクリアになった。
わたしがずっと伝えたかったこと。
やっと言えることができて、ホッとできるかもしれない。
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