第1話 不思議な交換日記

 昼休みのチャイムが鳴って、昼食のお弁当を食べて終わるとすぐに図書館へと向かう。

 わたしは図書委員ですぐに昼休みのカウンターの当番が待っていた。

 図書館は高校と附属中学の共用のもので、昼休みは中学の図書委員と一緒にカウンター当番をするの。

「よろしくお願いします」

 カウンターで高校の日誌と返却された本を戻すことがメインで、貸出と返却の手続きは司書の先生がしている。

「上野さん、ここに積んでる本をお願いします」

「はい。わかりました」

 図書館は大きくて、普通に一日いても飽きることはない。

 本を棚に戻し終えると、ふと一冊のノートがあって名前はなかったの。

 それは紺色の表紙で普通に100均とかで見るようなデザインのもの。

 ページをめくると、最初のページにはこう書かれてあった。

『このノートを見つけてくれた人へ。このノートを使って会話をしませんか? 名前は零です』

 きれいな字で書かれた文章の下に、わたしは持っていたペンで返事を書いた。

『わたしで良ければ良いですよ? 上野ひかりです、一年二組です』

 わたしはそのノートを元の場所に置いた。




 次の日は仕事がないので、昼休みは普通に本を借りに来ただけ。

 でも、あのノートに返事が書かれているのかが気になったので、ふとノートをしまった本棚の方にやって来たんだ。

 ノートを開く。

「え……うそ」

 ノートには返事が書かれてあったんだ。

『上野さん。返事をありがとう。ここにはよく来るの?』

 わたしはそれを教室に持っていった。

『はい。図書委員で、毎週月曜日に来てます』

 それから零くんとのノートを通しての会話が始まった。

『このシリーズって最新刊がある?』

『あるよ。でも人気で予約待ちになってる。いま予約したら、夏休みまでには借りられないかも』

 人気シリーズものの小説の話とか、自分のおすすめの本とかを紹介したりもしている。

「そうなんだ。へぇ……」

 交換日記って感じだけど、やりとりのなかで零くんのことがわかってきた。

 彼は地元が同じ。わたしの卒業した中学の隣の学区の中学を卒業して、家も近所であることを知った。

 読書が好きで、昼休みはほぼ毎日図書館で本を借りてるみたいだった。

「ひかり! こんなところに来たんだね」

「あれ? 菜月、今日はカウンター当番」

 零くんとの交換日記が続い三度目の月曜日の当番、菜月が推薦図書を探しに来たみたい。

 わたしは本の整理をするためノートのある棚を見た。

 ノートにはこう書かれてあった。

『おすすめの本、読んだよ。この話、最後で涙腺が崩壊した』

 おすすめしたのはラストシーンで涙腺崩壊するので話題の本で、学校でもかなり人気のある本なんだ。

『わたしも読んだんだけど、部屋で泣いてたもん。序盤から泣いてたし……』

 翌日、返事が書かれてあった。

『いじめのシーンとかも多かったからね。人によっては辛いかも』

 そのノートを見て、ずっと抱えていたものを書いた。

 それはいままで人となじめずにいた理由を書いた。


『人となじめずにいたのは幼稚園にあったできごとがきっかけ。男の子たちにいじめられていたの。

「髪の毛や目の色が変」って。

 小さな頃は金色に近い髪色、目の色もいまよりも青かったから外国人だって言われて、日本から出ていけとか言われたの。

 いまも栗色の髪にブルーグレーの瞳をしている。日本人離れした容姿を持っているの、たぶん目立つからわかると思う。

 その理由は父方のひいおじいちゃんがソ連、ロシアのモスクワから日本に来たから。ひいおじいちゃんもわたしみたいな髪と瞳の色をしてた。

 親戚のなかでは意外と髪や瞳の色が明るい人が多くて、特にそれを色濃く受け継いだのはわたしだけだったの。

 言われたときはショックだった。日本人なのに、ひいおじいちゃんが外国人のだけなのにって。

 ずっと小学校に入学してからまた言われるんじゃないかって思って人の輪に入れなかったの』

 わたしは書いたり、消したりを繰り返して、ノートを元の場所に置いた。



 翌日。

 わたしは書き直そうと思って、あのノートを取りに行った。

「え……」

 あのノートがなくなっていたんだ。

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