第37話 この遥か遠い、空の上へと

「何から何まで、お世話になりっぱなしでごめんね、ニクス」



私はニクスに修繕してもらった洋服に身を通してそう告げる。



「大丈夫だよ……。私は、編み物、大好きだから……」



そういう問題じゃないんだけどなぁと思いながらも、ニクスとソリスに頭を下げる。

その足元には小さな猫が一匹。

可愛いなぁ……。


雪はこの春の陽気でほとんどが溶け出していた。

この先、この世界からは雪は失われてしまうのかもしれない。


あれから少年も程なくして、目を覚ましたけれど。

少年は記憶を失っていた。

それが<夢>を奪われた結果なのか分からない。

分からない。


けれど。

この春の陽気は名もなき少年が願ったものだ。

少年は何か一番の<夢>を奪われたのだとおもう。

それでも。



「あのがきんちょの事は、私達が面倒見るから心配しなくていいよ」



ソリスはそう言って微笑んでくれた。

少年の事はニクスやソリスに任せておけば大丈夫だろう。

きっと二人は暖かく迎え入れてくれる。


少年も新しい<夢>を持つことができるはずだ。

だから……。

大丈夫。

この春の訪れた世界でも、きっと大丈夫だ。

そう思うことができた。



「それじゃ、とりあえず私はもう行くね」


「何処か行く当てでもあるの……?」


「まったくもって。でも<小さな星>リトル・スターのことは放っておけないから……。だから絶対に探し出すよ」



ニクスの問いに私はそう力強く二人に応える。

そう考えててもしょうがない。

為せば成る、為さねばならぬ、何事も。

母の口癖を胸に私は笑顔で二人と一匹に微笑みかける。



「まぁ、私達はがんばれ。としかいえないけど」


「そうだね……。頑張って……」


「うん。頑張るよ。二人もお幸せにね」



私は意味深にそう告げて背中の羽を羽ばたかせる。

私の言葉を聞いた二人は顔を真っ赤にしてそっぽを向き。



「もう二度とくんなーーーっ、馬鹿天使ーーーっ」


「またね、翼希……」



二人はそう大きな声で私の事を見送ってくれる。

私はこの春の訪れた世界から、白い羽を羽ばたかせ飛び立っていく。

<小さな星>リトル・スターを求めて。

この『暖かな場所』から、私は羽ばたく。

『願いを叶える"魔法使い"』の元へと。

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