第88話 冒険者砦の攻防戦 5

「くううう!! バ、バカな……!? どうして……」

「その片手剣は魔法耐性剣……?」

「ち、違う! そうじゃないはずなんだ」


 剣士を名乗るデミリスと、剣を交え始めた。

 ただし、おれの片手剣は錆びているので、相手の”優しさ”に甘えて軽めの魔法も撃っている。


 炎属性を相手の望み通り、剣に向けて発動。


 お互い手にしているのが片手剣だったので、当初は剣同士で戦うつもりだった。

 だがデミリスは自信を持っていた。


 自分の剣に魔法をぶつけて来いと言い放って来たのが、数分前である。


 ◇


「……お前が手にしている剣は錆びている。ジョブなしと言ったが、魔法を得意としているはずだ! その錆びた剣はおまけ程度で持てばいい。その代わり、オレに対し魔法を放って来い!」

「剣では交えないと? それにおれの魔法をあんたに放てば、一瞬で終えるがいいのか?」

「そうじゃない……、オレの片手剣に向けて魔法を放て。悪いけど、オレの片手剣にはお前の魔法は一切効かないぞ! 砦の中から感じていたお前の魔力が尽きた時、勝負はあっさりつくだろう」


 相当な自信を持っているようで、デミリスは剣と剣の戦いから、剣と魔法の勝負を挑んで来た。

 これを断る理由は無い。


 おれは発動予定の水属性魔法をやめ、炎属性魔法を手元から連続的に発動させる。

 デミリスの言うように、魔力は無限でもない。


 そのつもりもあって、威力を最小に抑えた炎属性で相手の剣にぶつけていたが……。


 ◇


「な、何で……そんなはずないのに、魔法に耐えきれないなんて……そんな、そんな」

「どうやらその剣は、魔法剣でも無ければ魔法耐性剣でもないみたいだな。どうする? あんたさえよければ、錆びた剣で相手するが?」

「……分かった。それでいい」


 デミリスが手にしている片手剣からは、特に何も感じられない。

 それでも魔法には耐えていたので、潜在的に何かありそうな剣だ。

 

 剣士らしいがしばらく剣を振っていなかったとすれば、使いこなしていないと思われる。

 果たして剣のスキルはどれくらいだろうか。


 もちろんこれは、おれ自身にも言える。


「錆びた剣だろうと手加減しない! アックだったか。構えろ!」

「……あんたこそな」


 両手剣の宝剣フィーサを扱って、少しは剣を握って来たつもりだ。

 それでも錆びた剣を手にするまでは、拳と魔法だけで戦って来ている。


 剣士とどこまで戦えるのか、これは楽しみだ。

 剣の名前までは分からないが、直線に伸びた長い両刃の刀身をしている。


「ぬぅうあああ!!」


 間合いは広く取ってもらった。

 これは相手が剣士だからに他ならないが、剣の実力は勝てると思わせる作戦だからだ。


「く、うっ……」


 デミリスの剣先が、おれの鼻先を僅かな距離で軽くかすめる。

 本来なら、姿勢を低く屈めて相手の出方を待つのだが、


「シュッ! はぁっ!! どうした? 剣士相手では手も足も出ないのか?」

「……片手剣は使い勝手がまだ掴めないんでね」

「どうせその錆びた剣は、冒険者を殺して得たものなんだろ? 剣を使う気が無いなら、大人しくするべきだ!」

「使う気はあるが……」

「悪いが剣でも実力でも差がありすぎる。殺しはしないが、決着をつけさせてもらう」

「……」


 錆びた剣を言い訳にしても仕方がない。

 ソードスキルを使わせてもらう。


 両手、片手に関係なく、スキル発動と同時に相手の喉元に剣先が届く。

 デミリスの言う通り、おれも殺しはしない。


 剣士相手にムキになるわけではない。

 だが、圧倒的実力の差を示して大人しくさせる必要がある。


 デミリスは、剣先をおれに見せながら腰を低く落とす。

 対するおれは剣を両手剣のように構え、顔の前で構えを見せる。


「――終わりだ、アック・イスティ!」


 すり寄るデミリスの間合いを感じながら、口中に溜めていた息を大きく吐く。

 ほんの一瞬、両眼をつむって大きく目を見開き、相手の喉元を目がけて突っ込む。


 そう思っていた次の瞬間だ。


『駄目なのっ! イスティさま!!』


 うっ……この声は。

 声と同時に目に飛び込んで来たのは、宝剣フィーサが間に割って入って来た姿だった。


「えっ、フィーサちゃん?」

「フィーサ……!? どうしてここにいるんだ?」


 何だ、知っているのか。

 ここにフィーサがいるということは……。


『フニャァァ~!! アック、アックがいるのだ~!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る