第87話 冒険者砦の攻防戦 4

「ひぃえっ!? アック様、矢が~剣が~!!」

「分かってる! ルティはそのままセリナを守ってくれ! おれは突っ込んで連中を何とかする」

「は、はいい~」


 予想はしていた。

 遠目から見ただけでは分からなかった砦周辺。


 辺りが薄暗くなっていたことも関係しているが、冒険者同士の争いが起こっていた。

 連中が好き好んで砦に召集されたのかは、不明だ。


 冒険者が砦に来るということは、戦うことを目的として来ている。

 そうなると気に入らない奴同士で揉め事が起きても、何ら不思議はない。


 気配を探った感じでは、支援系ジョブはほとんどいないようだ。

 攻撃魔法を使う者も見当たらない。


 それならおれが出来る戦法は、魔法による弱体攻撃。

 流れ矢が飛んで来ているということは、離れた所にもいるということだ。


 夜になると魔物が出没するらしいが、砦周辺には見当たらない。

 それなら遠慮なく、魔法を使わせてもらう。

 

「低ランクが来てんじゃねえ、邪魔だ!!」

「うるせえ! 脳筋だけで来るな、暑苦しいんだよてめえら!」

 ……などなど、言い争いの方がメインのようだ。


 ――とはいえ、こちらには余裕が無い。


『悪いが、その砦に用がある。そこを空けてくれ』


 さすがに自分ひとりだけだと、すぐに目を付けられるほど目立つ。

 殺すつもりも無いので、無詠唱で発動させてもらう。


「はぁぁ? 何だてめえは! ソロで来てる奴が生意気――へっ? か、体に力が……」

「な、何……だ、これ……は」

「くそぅ、まだ何もしてないの……に……ぐぅぅ」


 冒険者の中には、剣同士、拳同士を交えている連中も見える。

 しかし面倒なことに変わりはない。


 手っ取り早く片付けさせてもらう。

 ――ということで、砦周辺の連中全てに麻痺と睡眠の魔法を同時にかけた。


 元々ここに集まって来た連中に魔法耐性が無いのか、あっさり終えてしまった。

 地面には、剣や弓が無造作に散らかっている。


 砦が目の前にあるし、魔物に襲われることは無いはずだ。

 目を覚ました後の目的を失くさせるためにも、砦を沈めておくか。


 ルティとアクセリナには、一定の距離を取ってもらっている。

 広範囲魔法でも、彼女たちに被害が及ぶことは無い。


「よし、やるか」


 ◇


「ウゥゥ……! 外に何かいるのだ!! 何か危険な魔力を感じるのだ!」

わらわも感じるなの! たくさん感じた気配が一瞬で消えたのに、感じるのは膨大な魔力なの……!」

「外に? 砦の中じゃなくて? そ、それならオレが止めて来るよ。キミたちはここで待ってて欲しい!」

「お前大丈夫なのか? デミリスは、そんなに強くないのだ。強い魔力を持つ何かに、どうやって挑むのだ?」

「……大丈夫。こう見えて、オレの剣は魔法に耐えられるんだ。相手が魔法を連発して来ても、この剣ならきっと……」

「ウニャ、分かったのだ。強くないお前を、シーニャが守るのだ!」

「妾もシーニャと一緒に助けてあげるなの!」

「よし、それじゃあ行くよ!」


 砦の中にいたシーニャたちを下がらせ、謎の剣士デミリスは砦の外に向かった。


 ◇


「範囲は砦のみでいいか。【水属性魔法 タイダルウェーブ】を砦の――むっ!?」

 

 片手剣の軌跡のようなものが、一瞬見えた。

 どうやらおれめがけて、垂直に剣を振り下ろそうとしているようだ。


 見えるということは、手練れの剣士。

 錆びた片手剣しか無いが、戦ってみるか。


「ま、待てっ! 砦を沈めようとしているのはお前か?」

「……あんたは?」

「オレは砦の中にいた者だ。何の確認もせずに、砦を魔法で沈めるお前を許すわけにはいかない!」

「――ということは、あんたは別の目的で来た冒険者?」


 何やら緊張で全身震わせているみたいだが、もしや悪人扱いされてるのか。

 話せば分かってくれそうだが、剣で戦おうとしているしどうしよう。


「そ、そうだ! ここに倒れている冒険者たちも、お前がやったんだな? 何てことだ……」

「やってはいないんだが……何やら興奮しているみたいだし、戦いますか」

「望むところだ! オレは剣士デミリス。お前は何者だ?」

「……デミリス? 何か聞いたことあるな。おれはアック・イスティ、ジョブなしだ」

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