第89話 素直な再会と甘やかし

「やはりシーニャか! おぉ、よしよし……」

 

 おれの胸元に飛び込んで来たのは、シーニャと彼女の耳。

 いつもなら過剰なスキンシップはしないが、ついつい可愛がってしまう。

 

「フニャン~」

 どうやら堂々とした触りなら、怒りは込みあがらないようだ。


「い、一体これはどういう……。獣人のシーニャがそんなに懐いているなんて。もしかして彼女たちが会いたがっていた君が、アック・イスティ?」

「ん? シーニャとフィーサをここまで連れて来たのがあんた……いや、デミリスだな?」

「あぁ、デミリス・ルダンだ」

「そうか、あんただったか。こっちもあんたを探していたところだ」

「え? オレを……?」


 なるほど、お互いに目的を持って動いていたようだ。

 おれはデミリスを、デミリスはシーニャたちの主人であるおれを……といったところか。


 フィーサに割って入られてしまったが、デミリスの剣士としての実力は恐らくSランク。

 だが剣を使いこなしていないどころか、剣の強さに頼りすぎだ。


 魔法に耐える剣なんて、そんなスキルがついていたならもっと自信を持っているはず。

 Sランクパーティーがどれくらいいるかは不明だが、騙されたようだな。


『あ~~!? ズルいですよ~!! シーニャばかり可愛がって! わたしも可愛がって下さい~!』


 ルティたちも来たか。

 それはともかく、シーニャの甘えようはいつになく激しい。


「ウニャ! ドワーフなんかに、渡さないのだ!」


 そういえばふたりは相性が悪かったな。

 再会しても、素直に喜んでいるようには見えない。

  

「イスティさま! わらわも~!」

「フィーサもか。まぁとにかくだ、再会して嬉しいぞ!」

「ウニャッ!」

「嬉しすぎるなの~!!」

「アック様に会えて、わたしも嬉しいですよ~!」


 お前おれとずっと一緒にいただろ、ルティ……。

 それはともかく、


「デミリス……! 良かった、無事だったのね!」

「アクセリナ!? ど、どうしてここに? 兄きは?」

「彼は町であなたを待っている。帰るために来たんでしょう?」

「……う、うん。でもオレは盗賊になんかならない……」

「あの人なら、それならそれでも構わないって言うと思う。でも故郷なのは変わらないでしょ?」

「そ、そうだね」


 どうやらあちらも再会を果たしたようだ。

 砦で再会するとは、何かの因果でもあるのか。


「あれ? イスティさま、その腰衣はガチャで出したなの?」

「まぁ、そうかな。途中の湖でこれを”再生”したカエルをテイムしたんだが、どこかに行ってしまったんだよ」

「そ、それってもしかして、ラーナじゃなかったなの?」

「――! 知っているのか、フィーサ」

「いなくなるはずないなの! きっとイスティさまの魔石にいるはずなの」

「魔石に?」


 そういや、魔石に何かを刻んでいたような。

 ちょっと見てみよう。


 フィーサが知っているということは、フィーサと似た存在なのか。

 そういえば、アクアトラウザーもEXレアだな。


「あっ……!」

「ほらほら、やっぱりなの~」


 魔石自体は驚く変化を遂げていない。

 しかし手の平から見えた魔法文字には、しっかりと”ラーナ”の文字がある。


 【EXレア アクアトラウザー 潜在:ラーナ】


「テイムした彼女が突然消えたと思っていたけど、身に着けているトラウザーに宿っている?」

「妾も元々は忘れ去られた宝剣。でもでも、イスティさまのガチャですぐに出会うことが出来たなの。だから、他の子たちとは違うなの~!」

「なるほど」


 よく分からないが、宝剣フィーサだけは確定な存在だったようだ。

 テイムと装備再生の関係ということか。


 揃えれば、おれのツギハギ装備もしっかりとしたものになればいいが。

 そうなると、この錆びた片手剣は一体……。


 悩むおれに近づいて来たのは、


「アックさん、おかげさまで弟と再会することが出来ました。本当にありがとうございました」

「すみません、兄きの依頼でオレを探しに来てくれたのに危うく――」

「問題ないですよ。おれもあんたのおかげで、シーニャたちに会えた。それに、フィーサが止めてくれなければ、デミリスさん。あんたを消すところだった」

「――えっ……? ま、まさか、剣士のスキルも……?」


 いくら慣れていない片手剣でもソードスキルを得ている以上、負けることは無い。

 たとえSランク剣士だろうと、何の問題も無かった。


「決まったジョブはありませんが……まぁ」

「はぁぁぁ~……、よ、良かった~」


 隠していた実力に気付いたのか、デミリスは腰を抜かしてへたり込んだ。

 デミリスの片手剣にも興味はあるが、今は砦をどうするべきか。


「ゼーハーゼーハー……ア、アック様、砦に突入したいです~」

「ウ、ウニャ……シーニャ、負けたくないのだ」


 何を競っているのやら。

 ルティとシーニャは、相変わらずケンカしていたらしい。


 沈めるつもりの砦だったが、内部を探ってみるか。

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