第28話 Aランク剣士たちの挑発
複数を相手にするのは初めてだが、ルティを後ろに下がらせた。
彼女を巻き添えてはいけないのもあるし、今の自分の実力を考えればかなり不利だからだ。
「ああ~ん!? お前か? 随分舐めた真似をしてくれんじゃねえか!!」
リーダー格の男の一人が、おれの所に文句を言いながら近付いて来る。
ルティが作ってくれると言っていた両脚装備は、まだ履いてもいないが何とかなるだろう。
強さの基準は、装備だけで判断出来ないと思っているし大丈夫のはずだ。
リーダー格の男に続いて、おれの前には別の男たちがニヤニヤしながらやって来た。
そして――
「ぶあっはははははは!! おい、見ろよ? コイツの装備が、てんでバラバラだぜ? 冒険者にしても、程があんだろ!」
「うっわ、恥ずかしいな、そりゃあ……。炎属性の防具にミスリルの剣とは、大層な趣味してやがる!」
おれの前にやって来た男たちは、ルティに車輪を大破された馬車に乗っていた連中だ。
他の馬車には数人の騎士が残っているが、降りて来る気配は無い。
それにしても三人の男たち全員とも剣を所持しているが、騎士では無く剣士ということになるのか。
「……何かおれの装備に問題でも?」
「問題ぃ? まさかと思うが、アグエスタの剣闘場に参加する冒険者ってのは、お前じゃねえよなぁ?」
「さぁな。おれだったら問題があるのか?」
わざと挑発して来ているが、強面なだけで強そうには見えない。
「大アリだろ、そりゃあよぉ! 見たところ、ジョブなしの荷物持ちにしか見えねえ」
「残念ながら、荷物持ちではないな」
「――へぇ、そうかよ。こっちとしちゃあどうでもいいが、高価な装備を着ていたって無駄だぜ、そりゃあ」
こいつらの相手をする方が無駄だな。
剣を使う前に、拳で吹き飛ばしてやろうか。
「貴様たち!! いい加減にしとけ! そんなジョブなしのガキを笑ったところで、無意味だ! 問題は、馬車の車輪だ。そこのドワーフの娘を連れて来い!! 街で締め上げるぞ!」
おれとのやり取りを黙って見つめていた大男が、声を張り上げる。
他の男らに比べると、体格に違いがあって分かりやすい男だ。
鋼鉄製の防具一式と、黒鉄……いや、ただの
身長差もあるし、リーチもおれより上といったところだ。
一見すると話の分かる奴そうに思えたが、ルティを捕らえる発言は許せない。
「そういうわけだ、そこをどきな!」
「そうそう、ズボンが貧相な冒険者もどきは引っ込んでろよ」
大男の声に従って、二人の男たちがおれを押し退け、ルティの所に向かおうとしている。
「悪いが、彼女の所に行かせることは認めてない」
「邪魔すんな、ガキ!!」
「どけっ!!」
ルティはすでにかなり後方にある、アグエスタの門の付近にまで下がっている。
こいつらはそれを見ていたらしい。
ルティを押さえつけて、そのまま街に入るつもりなのだろう。
こうなれば、重いままの剣を手に、奴らに斬りかかるか。
出来るかどうか分からないが。
そう思っていたら――。
「イスティさま、今回だけだよ?」
「――え?」
今まで沈黙していたフィーサの声が、耳元に聞こえて来た。
それと同時に、おれの体が操られたかのように軽やかに動き出す。
「何だぁ? Aランクの俺たちとやり合うってのか?」
「そんなミスリルの剣ごときで、何が出来るってんだ?」
重かった剣は信じられない位にまで軽くなっていて、嘘のように体も剣も身軽になった。
おれだけの力では、相手の懐にまで入る素早さはまだ無い。
それだけにフィーサから力添えの動きは、男らの肝を冷やす。
おれを舐め切った二人の剣が振り下ろされる遥か前に、おれの剣先が奴らの頬をかすっていた。
「……な、馬鹿な!」
「ど素人じゃねえのかよ!?」
間違いなくど素人以下だが、操られた動きを見破れないあんたらも素人以下だな。
フィーサにとっては、お遊び感覚な動きを見せている。
目の前の男たちは自分たちのことを、Aランクと言っていた。
――ということは、あの
今のおれはランクが不明だが、こればかりは実戦あるのみだ。
「貴様ぁぁぁ!! どこの国の奴だ? 冒険者もどきじゃないのか?」
リーダー格の大柄の男が怒鳴りながら近付いて来た。
気付くとすでに二人の男たちは、馬車がある位置にまで後退している。
つまり、リーダー格の男に任せる程の人間ということなのだろう。
「どこの国でもない。強いて言えば、大陸の裏側だ」
そもそもここが表か裏か不明だが。
「……なるほどな。名は? そのミスリルは、ただの剣では無いな?」
「アック・イスティ。この剣は、宝剣だ」
「宝剣? ……ふん、そうか」
宝剣フィーサのことは知らないようだ。
「あんたはどこの誰だ?」
「俺はアグエスタ騎士団、副団長であるキニエス・ベッツだ。ランクはSに近いAといったところだ。貴様の強さはあんなもんじゃないだろう?」
何だ、騎士団だったのか。
副団長ということは、団長がいるはずなのだが……。
「さぁ、それは分からないな」
「……その答えは、剣闘場で聞かせてもらう。あそこにいるドワーフの娘にはきつく教育しとくことだ!!」
キニエスとかいう副団長の男と、二人の男たちは残りの馬車を誘導しながら、アグエスタに入って行った。
大破した車輪の馬車だけがこの場に残ったが、後始末はどうするつもりなのか。
それにしても、騎士団の副団長で名前がベッツという男とは。
どこかでこの名を聞いているが、どこだったか。
「ねえねえ、イスティさま! わらわ、どうだった?」
「フィーサのおかげというか、あれでどれくらいの強さなんだ?」
「分かんない。だけど、わらわなら負けないの。でも、今のままじゃイスティさまの強さでは勝てないかも」
「だ、だよねえ」
フィーサに操られっぱなしの動きだと、今後の戦いでは厳しいだろうな。
剣闘場の戦いがいつなのかによるが。
「アック様~!!」
この声はルティの声か。
アグエスタ付近にまで下がっていたはずだが、案外近くにいたようだ。
「ルティ! 大丈夫だった?」
「はいっ! アック様こそ、ご無事でしたか?」
「まぁ、おれは……というか、【様】じゃなくてもいいだぞ?」
これまでは、【アックさん】呼びだった彼女が、一体どういう心変わりなのか。
「いいえ! わたし、これからずっとアック様ってお呼びします! ずっとお傍にいたのに、他人行儀だなぁと思っていたので、もっとずっと近くに感じていたいです。いいですか?」
他人行儀か。初めの内は仕方ないことだと思うが、気にしていたようだ。
「それは構わないけど、おれはそのままでもいいのかな?」
「はいですっ! たまにルティシアと呼ばれるのもドキドキですけど、ルティって呼ばれたいです~!」
ルティの気持ちにも変化が生じたのか。
この間のフィーサの無言にも恐れを感じるが、まずは宿に戻ることにする。
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