第27話 宝剣フィーサの実戦訓練!?

「わらわのマスター! そこのゴブリンを一撃で!!」

「ひぃ、はひっっ」


 おれはフィーサに従って、アグエスタの外に出ている。

 そしてそこから少し離れた場所の茂みには、ルティの姿があった。


 彼女はおれたちの戦いを、うずうずしながら興奮状態で眺めている。

 それはいいとして、彼女の天然は相当なもので何故かその辺を歩く獣に対し、笑顔を振りまいているようだ。


 笑顔はいいとしても、それはあまりにも無防備すぎなのではないだろうか。


 ――というのも、ここはアグエスタの領土ではあるがロキュンテと隣接しているエリアらしく、道を少しでも外れると、一気に魔物が増えるらしい。

 貴族騎士は、そうした魔物を相手にせず、馬車や馬で素通りをすることが多いのだとか。


 しかし街を出てすぐの辺りにいるゴブリンは、比較的弱く初心者レベルでも狩れるらしい。

 そのことを知ったフィーサが、おれを呼びつけて今に至っている。


 もっとも、今までまともに剣を握ったことがないおれにとって、ゴブリン相手にすら苦戦しているのが現実だ。


「マスター。わらわ、今から重くなるから、無理そうなら声をかけて」

「え、重く……? ――ぬおわっ!?」


 剣の姿でおれに剣術指南をしてくれているフィーサは、さっきまで軽量で持ちやすかった。

 しかし本来は重量クラスのようで、一気に重くされてしまった。


 重さに慣れてもらいたいらしく、彼女は急激に重くなった。

 宝剣フィーサは銀に輝くミスリルの剣だが、ミスリルの剣はあまり重くはないらしい。


 その重さを変えることで、早く慣れて欲しいようだ。


「――うぅっ、お、重い……!! ストップ、こ、ここまでで!」

「え~? まだレベル二百くらいの重さなのに~……、イスティさまは腕力が足りてないんだよ」

「それはさすがに鍛えてはいないな」


 倉庫の仕事でも腕力は使っていたが、全身の動きで何とかなっていた。

 それだけに剣を持つ為だけの腕力を鍛えるのには、中々苦労しそうだ。


「そこの間抜けそうな小娘よりも強くなるには、わらわのレベルを超えないと、めっ! なの!!」

「ルティよりも腕力を、か。体力はついて来てるんだけどな」

「でもでも、わらわはイスティさまだけの剣なの! あの小娘には絶対持たせないもん!!」


 おれ専用の宝剣宣言か。

 しかもレベルが九百とか、もしそれを超えることが出来れば、今以上に腕が太くなりそうだ。


「きゃあぁぁぁ~!!」


 苦戦しながらフィーサをぶん回していると、ルティの悲鳴が聞こえて来た。

 あの娘はいつも大げさに騒ぐのであまり驚きは無いが、今回の悲鳴は少し違う気がする。


「イスティさま、あれ!」

「……ん? 馬車の集団!? あれが原因か!」


 茂みで隠れていたわけでもないルティが、謎の男たちに囲まれている。

 前面の馬車をよく見ると、車輪部分が外れていて身動きが取れていないようだ。


「イスティさま。今こそ実戦なの! 数だけの人間に斬りかかるの!!」

「実戦って……。殺さずにやるからね? ルティを助けてフィーサは黙って、おれの――」

「ふーん、だっ! わらわはなんにも助けないもん。重いままで振ってくればいいんだから!」

「え、ちょっと!?」


 ルティのこととなると、すぐにつむじを曲げるのはどうしてなんだ。

 仕方ないが、このまま馬車と男たちの所に割って入ることにする。


 ◇◇


「な、何なんですか!! わたし、ここに座っていただけなんですよ!?」

「座っていただけだぁ?」

「だったら、何で俺らの馬車が大破するってんだ!? おかしいだろうが!」

「ドワーフ崩れがこの辺にまで出張でばって来てんじゃねえよ!」


 ひどい言いがかりをつけられているようだ。


「そ、そんなの知りませんよ!! わたし、何もしていません! ドワーフでも人間でもあるわたしですから、そんなこと言われたくありません!」


 ルティの必死な声と抵抗の訴えが聞こえて来る。

 数人の男たちは身なりだけ見れば、貴族もしくは他国の冒険者のようだがガラが悪い。


 それよりもルティのことを侮辱しているのが、腹立たしい。


「悪ぃな、俺たちゃ人間様……それも、剣闘場で戦える剣士様なんだよ! ドワーフの子供にウロチョロされたら、気が散って仕方ねえ。馬車だってどうしてくれるんだ? あぁ?」

「だから~! 馬車のことなんて知りませんよ! わたしだって剣闘場で戦える方を知っているんですからね!!」

「どこにいやがるんだよ、そんなのはよ?」


 聞こえていることだけ聞けば、大したことは無さそうだ。

 ここは相手にせず、ルティだけに声をかけることにする。


「ルティシア! こっちだ!!」

「――! か、かしこまりました。ご主人様!」


 さすがに外にいる状態で、愛称呼びは避けた。

 それを察したのか、ルティも珍しくおれに敬意呼びをしてくれた。


 数人の男たちの囲みから素早く離れ、ルティが俺の元に駆けて来た。

 強さでいえば間違いなく、ルティの方が強そうだがそこは置いとこう。


「アック様、申し訳ありません!!」

「ルティは悪くない。後ろに下がってていい」

「はい!」


 重いままの宝剣でどこまでやれるのか、試してみるしか無さそうだ。

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