第26話 ガチャスキルの成長
ルティの強さに驚いていると、彼女はおれの服をすっかり綺麗に洗ってくれていた。
「よしっ……と。ところでアックさん。気になっていたんですけど、ガチャでご自分の装備とかはお出しにならないのですか?」
ガチャで装備品を出す――そこまで頭が回っていなかったな。
それに――
「ん~……、果たしてガチャにそこまで頼ってもいいものかな?」
「悪い目的では無いわけですし、アックさんご自身のスキルなんですから、いいんじゃないでしょうか?」
「そ、そんなものかな」
「はいっ!」
ルティに言われてハッとする。
レアが確定するガチャに覚醒したおれとはいえ、自分の為に使うことにためらっていた。
しかし彼女の言うように、悪いことに使うわけじゃなければガチャをしても良さそうだ。
気付かせてくれたことで気が楽になったので、早速やってみた。
【Sレア イグニスメイル Lv.240】
【Sレア クリムゾンガントレ Lv.300】
「――これは、何というか……見事に炎系の防具ばかりだな」
ロキュンテのことといい、ルティからの影響が思いきり出ている。
「アックさんに炎の拳で攻撃しまくっちゃった影響ですね……ごめんなさいです」
「いや、属性の強さを体が覚えたことに関しては、怒る理由もない。レアガチャは、単なるランダムでないことも分かったからね」
「あっ! この際ですので、脚装備! ズボンはわたしがお作りしますよ! 赤い装備に身を包むアックさんにぴったりかと!」
彼女は何でも作れるのか。強くなれる料理以外にも、裁縫も出来るとは。
「ルティは万能なんだな」
「え、えへへ……それほどでもぉ」
「焼いて来たパンも頂くよ!」
「どうぞどうぞ! わたし、素材をなめしてきますねっ!」
◇◇
スキュラが宿に戻って来たのは昼過ぎのことだった。
昨晩おれが街中で暴れたことについて、彼女は知っていたらしく呆れられた。
呆れながらも、彼女はきちんと自分の役割をこなして来たようで、その話を聞かせてくれている。
「――そういうわけで、あのベッツなる貴族騎士は、強そうな人間を片っ端から探していましたわね」
どうやら身内から暴れ者が出たらしく、助っ人が欲しいということだった。
敵討ちをして欲しいとは、何とも物騒な話だ。
「身内のゴタゴタなら、自分で行けばいいんじゃ……?」
「いいえ、あたしが見た感じでは、あの男の強さは大したことありませんわ。あたしが水魔法で止めたのは、アックさまの寝不足気味なお体を案じてのことであって、負けるようなことにはならないと思っていましたから」
「面目ない……」
酒場に入った時点で、寝不足気味な状態に気付いていたようだ。
頼りになりすぎるというか何というか。
「……それよりも、その全身熱そうな装備はあの娘が?」
「ルティから相当ダメージを受けたみたいでね。体が炎属性を覚えてしまった結果かなと」
「……その魔石、もしかしてアックさまと共に成長されておられるのでは?」
「成長を?」
魔石から見えた彼女たちの成長と称号は、やはりそういうことなのか。
「その魔石は、人間を狂わせる何かがありますわ」
人間じゃないというと失礼になるが、スキュラも狂わされた一人だ。
彼女自身も魔石に思うところがあるのだろう。
「それじゃあおれは、魔石に気に入られたのかな?」
「……覚醒をされてからはそうだと思いますわ。それまでは失敗続きだったのですよね?」
「いいものなんか一つも出なかったな……」
「それが今や、アックさまの成長と共に学習している……そんな気がしますわ」
果たしておれ自身のステータスは、どう表わされるのか。
どうしても気になる――。
「なるほど」
「それはともかく、アックさまはご自身のお強さを確かなものにするまでは、強さを見せつけるべきではありませんわ」
「剣闘場のことを言っている?」
「それだけではなく、転送士のことも含めてですわ!」
その辺の考え方は、ルティの母親とはまるで異なるな。
それはあの人が人間だからだろうし、スキュラは人間を信用していない。
「あぁ、それは」
「あの貴族騎士とは、ここにいる間は接触を避けるべきかと」
「気を付けるよ」
スキュラの話では、話をしただけで特に何も危ない目に遭っていないらしい。
ベッツなる貴族騎士もアグエスタに旅で訪れただけで、この国の騎士では無いのだとか。
◇◇
スキュラとの話が一段落したところで、勢いよく部屋のドアが開かれた。
「イスティさま!! 外! 外に行くのっっ! 早く、はやくっ!!」
「フィーサ?」
部屋を出て行ったきり戻って来なかったが、慌てておれを呼びに来た。
何かあっただろうか。
「あたしはこの部屋にいますわ。どうぞ、行ってらっしゃいませ」
「ああ、よろしく頼むよ」
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