第22話 資金稼ぎは転送で!?

「呆れましたわ! まさかあたしが思った通りのことが起きただなんて!」


 スキュラと合流したおれたちは、真っ先に叱られてしまった。

 彼女は初めから疑いにかかっていたようで、何度も顔を左右に振っている。


「ご、ごめん」

「人間もどきのオークと一緒に戦ったのはいいとしても、得体のしれない魔女であったことには変わりなかったですわ! それを全く全く!!」 

「……そ、それはその」

「別にアックさまを責め立てているわけではありませんわ。ですけれど、これからは味方にする者の素性を、よくお調べになることを進言いたしますわ!」

「そうする」


 スキュラただ一人だけが状況を把握していないので、起きた出来事を話した。


「行方をくらまされたうえ、時間経過でロキュンテごと本来の場所に取り残されるだなんて! 問題が山積みですわ。ただでさえドワーフの町を目指そうとした時から、嫌な予感がしましたのに……」

「まぁまぁ、スキュラさん。落ち着いてください! お婆さんには驚きましたけど、わたしを含めてそんなに危なくなかったですよ~!」

「呑気なものですのね、全く……」


 白いローブを脱いだバヴァルは、妙齢の女性に戻っていたが、魔石をどうするつもりがあるのか。

 いずれにしてもおれたちは、火山渓谷に残されてしまった。


 そう簡単にレザンスには戻れないだろう。

 途方に暮れそうになっていると、ルシナさんが声をかけて来た。


「アックさん。ちょっとよろしいですか?」

「あっはい。どうしました?」

「魔石によるガチャで町を移動させたと言いましたね?」

「そうです。その節は申し訳なく――」


 もしかしてルシナさんにも説教されてしまうのか。


「いいえ、そうではなく。町移動は、あなたの魔力をかなり必要とします。――ですので、そのようなことは今後おすすめしません。それよりも気分を変えて、ここから旅立ってはいかがですか?」

「え? 魔力を?」


 ガチャで移動を試みようとしていたのを見透かされたか。

 今までラクルの町に長く暮らしていたおれにとって、歩いてどこかへ旅に出るといったことはしたことが無い。


 それこそ勇者たちに連れて行かれるまで、そこから長く離れたことが無かったのだ。

 しかし諦めも含めて、世界の裏側に残されてしまった以上、気分転換で旅立つのも悪くない。


「――ですので、アックさん。これからも娘のルティシアを、よろしくお願いしますね!」

「わ、分かりました」


 ルティのことを言われたら、何も言えなくなる。

 彼女をこの町から強制的に呼んでしまったのは、確かだからだ。


 そのせいか、ルティをちらりと見てしまう。


「はい? 何ですか、アックさん」

「な、何でもない……」


 ガチャで運良くレザンスの町を引いたとしても、バヴァルがそこにいるとは限らない。

 そうなると今は、ここから旅立つ方がいいとも言える。


 ルシナさんにお礼を言って、みんなで町から出ようとした時だ。

 息を切らせながら、何かを伝えようと彼女が駆け寄って来る。


「ハァハァ……、い、言い忘れていました! アックさん、この際ですので転送士のスキルを上げてみてはいかがですか?」

「――転送士ですか?」

「その名の通り、人を他の町や国に転送テレポートさせることが可能なジョブのことです。こちらの大陸では、昔結構いたんですよ」

「え? 本当ですか!?」

「はい。今は需要が無くなって、スキルを持つ者がいなくなったんですけど、アックさんなら可能かと思いますよ」


 転送士のスキルなんてあっただろうか。町は移動させられるのだが――。


「あれ、でもさっき、町移動には反対を」

「町ごと転送させるのは大変なことです。ですけど、誰かを移動させるだけなら大したことはありません」


 転送士か。実のところ、旅をするには資金が必要だとここに来て不安に感じていた。

 正確には転送士でも何でも無いが、ガチャで移動させられるなら稼いでみたい。


 ルティがいる以上食べ物調達には困らないのだが、この先は馬車を借りなければ厳しくなる。

 

「そういうことなら、やってみます。それじゃあ、ここから近い国か町はありますか?」

「それならルティが詳しいので、あの子に聞いて下さい。では、アックさん頑張ってくださいね!」

「ど、どうも」


 ルティのお母さんは、何とも不思議な女性だった。


 ◇◇


「ねぇねぇ、イスティさま。どこへ行くの? 何でもいいけど、どこかで休みたい~!」

「えぇ? フィーサは剣の時に眠っていたんじゃ……」

「違うもん! 人の姿でも眠りたいの!」


 フィーサは、未だに剣として何かしたわけではないのだが。

 しかし一所懸命にバヴァルを制止しようとしていたから、細かく言うまい。


「どこへ行かれますか? アックさま」

「ああ、えっと……ルティ――」

「はいはいっ! アックさん、ここから歩いてすぐの所に、ノーブルナイト貴族騎士の国があります! そこに行きませんか?」


 早速聞いたことのない国名が出て来た。そういう意味では期待出来そうだ。


「近くって、どれくらい?」

「歩いてたったの三時間くらいで着きますよ~」

「さ、三時間!?」

「えぇぇっ!? と、遠いですわ!!」

「わらわ、歩きたくない~!」


 思わずおれとフィーサ、スキュラで一斉に驚きの声を上げた。

 ドワーフの血を継いでいるルティの感覚では近いのかもしれないが、とんでもない距離だ。


「あれれ、みなさん、どうかしたんですか?」


 どうもこうもしないが、まだ日が落ちる時間でもなさそうだし、歩くしかない。

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