第19話 ドワーフの町:ロキュンテ

「こ、こんなのってあり得ますの!? とてもおかしなことが起きていますわ!! ――行く手間が省けたのはいいことですけれど……」

「すご~い!! さすがイスティさまなのっ!」


 冷静なスキュラが動揺しっぱなしだ。フィーサは大喜びだが。

 動揺しながらもいつのまにかスキュラは姿を変えて、より人間に近くなっている。


 それにしても、まさか町ごと移動して来るなんて。これもルティだけの特別な力なのか。

 気になる数字もちらりと見えたが、今は気にしなくても良さそうだ。


「アック様、上手くいきましたね」

「バヴァルは半信半疑だった?」

「――ええ、まぁ。やってみないと分からないものだなと、実感を。今回のことは、きっと最初から決まっていた運命だったのでしょう。それだけルティシアさんとの繋がりが強かったのではないかと」


 魔石とガチャ、そして繋がりの力か。

 バヴァルのことだから何か確信めいていたと思っていたが、そうでは無かったようだ。


「あぁ、そう言えば彼女から温泉回復水を体に流されたことがあるけど、関係があるかな?」

「ロキュンテの温泉水ですか?」

「彼女が持って来た水で、おれは救われたんだ」

「――なるほど」


 それにしても町が移動して来たとはいえ、完璧では無かったようだ。

 その証拠に、ロキュンテ火山がどこにも見当たらない。


「バヴァル。火山だけが来ていないようだけど、何故かな?」

「火山? 言われてみればそうですね、転移魔法とはいえ、山をまるごととなれば生態系も変わりますから、今回は無理だったのでは?」


 今回が無理でも、次回はまるごと移動させられるだろうか。

 そうなると気になるのは、おれ自身の強さだ。


「――もしかして、おれのレベルが低いから?」

「町の転移魔法はどうなのでしょうね。レベルが関わっているのであれば、宝剣のレベルに乗じてになりそうですが」


 宝剣フィーサのレベルまで関係しているとなると、使い手であるおれのレベル次第か。


「アックさ~ん!! こっちに来てくださ~い!」

 

 しばらくルティの姿が見えないと思っていたが、すでに町の中に入っていたようだ。

 真っ先に話をつけに行っていたようで、満面の笑顔を見せている。故郷に戻れたのだから無理も無いが。


 やはりルティはドワーフ族のようで、彼女の周りには沢山のドワーフが立っている。

 まともにドワーフ族を見るのは初めてだが、向こうも同様のようだ。


 ――しばらくして、いかにも族長らしきドワーフがおれの所に近づいて来た。

 ドワーフが立っていた家の前には、ルティとルティの母親らしき人の姿が見えている。


「あれ? あの人は人間か?」


 母親らしき人の見た目は、どう見ても人間に見える。


「オマエが、古代のガチャスキル使用者か?」

「古代?」

「……何も知らずに娘を呼んだか。ふん、まぁいい。そのことについては悪く言わん。娘が気に入り、嫁ぐ者ならそれでもいい」

「とつ……嫁ぐ!? え、いや、ちょっ――」


 ガチャを引いて呼んだのは事実だが、その時点で嫁入りが確定されたのだろうか。


「どういうわけか、火山の姿が見えない。だが温泉なら我が家にもある! オマエはそこで休め! 後のことはアレに任せてある。楽しんで来い、将来の息子!」


 ドワーフの族長かどうかは不明だが、彼は町が移動して来たことに全く動じていない。

 他のドワーフたちも同じで、無言のままぞろぞろと小屋の中に戻って行った。


 噂通りの身長差だったが、見た目だけは人間とあまり変わらないみたいだ。

 しかし口数は少なめで、他の人間とは深く関わらない種族にも思える。


 彼らの特性は理解したが、あの娘はドワーフを強く引き継いでいないみたいだ。

 ――さっきからぶんぶんと手を振りまくっているし、明るい性格すぎる。

 

 遠くでよく聞こえないが、「家に来て下さい!!」と言っているようだ。

 スキュラたちはどうするのかと思ったが、協調性のない彼女たちはすでにいなかった。


「あ、わたくしのことはお構いなく!」


 一応魔法の師匠でもあるバヴァルは、興味があるとかでおれについて来るらしい。

 ルティのいる所に着くと、ルティに似た顔つきの女性がおれとバヴァルを出迎えた。

 


「ではどうぞ、中へ」

「あ、ど、どうも」


 透き通った声の女性は、ドワーフでは無くどう見ても同じ人間だ。

 ドワーフには到底見えない。


 間近に迫るまでは顔の見えない外套を着ていたが、近づくとすぐに顔を見せてくれた。


 ◇◇


 ルティの家の中に入ると、すぐ真横に錬金術工房があった。

 ――どうやら母親が錬金術師ということのようだ。


「初めまして。私はルティシア・テクスの母、ルシナ・アウリーンです。話は聞いておりますよ、アックさま」

「は、はい。おれはラクル出身の、アック・イスティと言います。ど、どうも」

「わたくしは、レザンス魔法ギルドマスター、バヴァル・リブレイ。アックの先生をしております」

「まぁ! そうでしたのね」


 何とも不思議な気配のする女性だ。錬金術で若返りでもしているのだろうか。


「すでにご承知の通り、ルティシアの父はドワーフ族です。名前はテクスと言います」

「……そうすると、ルティは人間とドワーフの混血ですか?」

「そうなりますね。ドワーフの力と私の錬金術を、全て引き継いだ娘。それがルティシアなのです」

「いや、それにしたって……」


 性格はどっちに似たのだろうか。錬金術は確かに末恐ろしいものがあるが。


「あの子には不思議なスキルが備わっております。性格も、私の姉によく似ています……ですので、幸せになってもらいたいものです」

「な、なるほど、お姉さんに……」

「――ここには何か目的があっての転移魔法ですよね? でしたら、お済ませ下さい」


 何やらルシナさんからは、とてつもなく威圧的なものを感じる。

 決して怒られているわけでもないのに、実は内心怒っているのか。


 怒らせたら怖そうだし、魔石を沈める所を探しに行った方が良さそうだ。

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