第18話 ロキュンテの町、移動する。

「――というわけだから、君にも一緒に来てもらいたい」


 バヴァルに言われた通り、おれはスキュラを説得している。

 もちろん、ここに置き去りにするつもりも無いわけだが。


「あの人間たちを浄化ですって? 封じ込めだとか魔石と化したのかなんて、どっちでもいいですわ。どうして水棲のあたしが熱い所に行ってまで――という点だけが納得行きませんわね」


 スキュラの言うことはもっともなことだ。

 わざわざ苦手な場所に彼女も連れて行くという、はっきりとした理由が無いのだから。


「本当なら今すぐ魔石をたたき割りたいところだ。――でも熱で消えるなら、それはそれでいいと思っている」

「……わ、分かりましたわ」


 魔石を握りしめたまま怒りを露わにしたせいか、彼女は諦めたように頷いた。

 それにスキュラ自身、魔石が危険なものとして理解している。


 それだけに、おれの言葉に理解を示したのだろう。


「ねぇねぇマスター、ロキュンテはいつ行くの?」

「フィーサは行ったことが?」

「五百年くらい前かなぁ? 火口からの眺めが最高だったのっ!」

「ごひゃ……そ、そうか」


 フィーサのレベルは”900”だったが、九百年以上は生きているってことだろう。

 それにしても、ルティの故郷ロキュンテか。

 詳しい場所はルティが分かるだろうが、計り知れない距離のような気もする。


 手がかりはルティだけだし、彼女に聞いてみるしかない。


「アック様」

「バヴァル? どうした?」

「――魔石を、連中を封じた魔石をわたくしにお預け下さいませんか?」


 随分と神妙な表情をしているが、バヴァルは何故こんなことを言い出したのか。


「預ける?」

「アック様はすでにあの魔石を腰袋にお入れになっていると思いますが、他の魔石と混ぜることには警戒を持つのです」


 魔石のことはまだよく分かっていない。

 しかし魔法ギルドマスターのバヴァルは、おれよりも魔石に詳しいはず。


 そうなれば彼女に預けても、何ら不思議は無い。


「もしかして、魔石が悪さをするとでも?」

「……いいえ。魔石そのものに自我はありません。――ですが、わたくしはどうしても気になるのです。アック様も気になっているようですので、わたくしにお任せ頂ければと……」


 魔法の師匠をしてもらっているバヴァルを、どこまで信じていいのか。

 おれ自身も元勇者たちが封じられた魔石を傍に置くのは、気分的に嫌ではある。

 ロキュンテに着くまでの間だけでも、預けておくか。


「――そういうことなら、あなたに任せる」

「ありがとうございます……」


 そういうと、バヴァルはおれから預かった魔石を、懐にしまい込んだ。

 魔石のことはどうにかなった。そうなると、後はルティ次第か。


「ルティ!」

 

 彼女は手持ち無沙汰になると、おれから離れて何かを作る動きを見せている。

 そう考えれば、案外誰よりも強くあろうとしているのかもしれない。


「はいっ! お呼びですか~?」


 おれに呼ばれたルティは、やりかけていたことを止めてすぐに駆け付けた。


「火山渓谷――キミの故郷であるロキュンテまでは、どれくらいかかる?」

「すぐですよ、すぐすぐ!」

「いや、ルティの感覚ではそうかもしれないが、火山渓谷は世界の裏側だぞ」


 今いる場所は、レザンスからほど近い。

 どの辺りから行くかも分からないのに、すぐと言われてもな。


「それなら簡単じゃないですか~! アックさんは、魔石ガチャでわたしを呼びましたよね?」

「呼んだというか、引いていたというか……」


 ワイバーンと崩落の岩から隠れていたら、無意識にレア確定ガチャを引いていた。

 気付いたらルティがいたというのが正しい。


「そこでっ! 移動魔法の出番ですよっ!!」

「……移動魔法というと、高スキル魔法士が使える転移魔法のことか?」

「ですですよっ! それなら、すぐに行けちゃいますよ~」


 今のおれは、恐らくSランク以上の魔法スキルが備わっている。

 しかし確か転移魔法には、面倒な条件があったはずだ。


「アック様、ルティシアさんと何の話をされているのです?」

「バヴァルは転移魔法が使える?」

「いいえ。わたくしはレザンス以外の町へはしばらく訪れておりませんので……」


 やはりそうか。一度訪れでもしないと、そこに行くことなど不可能な厄介な条件魔法だ。


「う~ん……」

「スキルだけあってもそう使える魔法では――あ! もしかすれば……」


 妙齢な魔女のことだ。何か思い出したか。


「バヴァル? 何か――」

「確かアック様がガチャで引いたのは、ルティシアさんと宝剣でしたか?」

「ああ」

「それでしたら、やってみる価値はあるかもしれませんね」

「うん……?」

「いずれにしましても、ここから外に出ましょう。そして外の山、出来れば広大な場所に」


 話がまるで見えないが、バヴァルは何かの可能性を見つけたようだ。

 おれたちは森のダンジョン捜索を諦め、外に出ることにした。

 グルートオークが暴れたことで、先への道が塞がれたというのもある。


 ルティは殴って外に出ましょうと言っていたが。

 外の森に出てすぐに、なるべく障害とならない広い場所を探し回った。


 そしてバヴァルは、ルティと手を繋げと言って来た。 

 何の為なのか分からないままだが、言われた通りにするしかない。


 まずはルティを魔石に触れさせ、それから彼女と手を繋ぐ。


「な、何だかドキドキですよ~!」


 そしてその手を繋いだまま、おれはガチャを引いた。


 【Uレア ルティの記憶】

 【Uレア 剛力のルティ Lv.23】

 【Uレア 火山渓谷ロキュンテ 残2】


「――こ、これは!?」

「アックさん! ロキュンテの方から来てくれました!! わたしの故郷ですっ!!」


 ガチャを引いたら色々見えたが、まさかルティのレベルが上がっていたとは驚きだ。

 

 それよりも問題は、彼女の故郷である【ロキュンテ】を町ごと引いてしまったことだ。

 これはもはや、転移魔法どころの話じゃない。

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