第14話 邪悪な獣

「あっああああぁぁぁ……!! グルート様っっ!」

「な、何だありゃあ……? あれがグルートだと!?」


 動きをそれぞれ封じられているエドラとテミドの二人は、勇者グルートの変化に理解出来ず、驚きの声を上げている。

 彼らの殺気がおれから消え失せたことで、バヴァルとルティたちを呼び戻した。


 彼女たちから解放されたエドラたちは、慌ててグルートの下へと駆け出している。

 しかしグルートの姿は、すでに人間の姿を成さない図体の大きいオークと化していた。


 通常のオークはせいぜい人間よりもやや大きいだけで、脅威と感じる程でも無い。

 だが、目の前にいるグルートオークは、天井にぶつかるほどの大きさにまでなっている。


「アック様。あの者は――魔獣変化スキルを使ったのですね?」

「そのはずだけど……」

「――恐らくですが、アック様から強引に奪ったことによって、スキルの悪い部分を吸い取ったのでは?」

「悪い部分?」

「ええ、そうです。アック様のガチャスキルには負の流れがあったのです。覚えがありませんか?」


 あまりに運が悪かったが、もしかしてそのことだろうか。

 

「いいアイテムが出なかった……それのこと?」

「はい。その流れのまま、本来スキルを持たない者が強引にガチャを使用した。その反動が邪悪な力を引き寄せたのです」


 勇者の仲間になる前後は、全く役立つものが出たことは無かった。

 その流れでガチャをしたとすれば、納得が出来る。


「お、おいっ! グルート!! 目ぇ覚ませ! 俺だ、テミドだ!!」

「グルート様はおっしゃって下さいましたわ! わたくしたちの光となって下さると! どうか、お鎮まりになって、今一度わたくしのお傍に……!」


 エドラとテミドは、グルートオークに対し必死になって説得の声を呼び掛けている。

 しかし図体が大きくなり理性も失われたことで、声が全く届いていない。


「ガアアアアア……!!」


 それどころか彼らを邪魔者と見たのか、突然暴れだした。


「キャアァァァッ!! お、おやめになってくだ――」

「ひ、ひぃっ!? た、助けてくれぇっっ!! お、俺はまだ、こんな半端なところで――」


 見るもみじめな姿とはこのことか。

 おれに散々偉ぶっていた賢者テミドが、あそこまで弱い部分を見せるなんて。


 きっと今まで、痛い目に遭ったことが無いのだろう。

 そしてあろうことかテミドはおれを見つけ、泣きながら戻って来る。


「――何の真似を?」

「ひぃっ、ひぃぃ!! お、お願いします! 俺を、俺を!! あの化け物からお救い下さいっっ! このとおり、何でもしますっ! しますから!!」


 まさか足にしがみついて来るとは。


「……面倒みきれないし、もう遅い。それに賢者というのが本物なら、自分の防御魔法で何とかするべきだと思うが?」


 自分より強い奴、それこそ勇者に対してテミド自身はどう思っていたのか。

 しかし荷物持ちの人間に取って来た行動の報いが、今になって返って来るとは――奴自身は思ってもみなかったに違いない。


 この男には、もはや擁護も保護もする必要は無いだろう。


「ち、ちきしょう!! く、くそぉぉ――! なめやがって!! 物理防御魔法、プ――ぐげっ!?」


 オークとなったグルートは、凄まじい怪力で見境なく暴れている。

 テミドが防御系魔法をかけようとしたが、すぐに吹き飛ばして壁に激突させていた。


 最初に駆け寄ったエドラは、瀕死状態に近い。

 どうやらSランクパーティーは、破滅と壊滅に向かっているらしい。


 もはや言葉も通じそうにないが、この戦いもそろそろ終わらせることにする。

 グルートの死に際には、一瞬でも人間としての謝罪が聞けるといいのだが。


「――バヴァル・リブレイ! おれは今から限定召喚を使う。そのすべを知っているのなら見せてくれ!」


 エドラの近くに立っていたバヴァルに対し、限定召喚の見本を示すように声を張り上げた。

 彼女もまた、その場で声を張り上げ、見えるように動きを表した。


「限定召喚の書で魔石を包むのです! それを手の平に乗せ、すぐにガチャを!」

「分かった!」

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