第15話 Sランクパーティー、消滅する。

 グルートの変化を見て思うが、もし自分が魔獣変化を使っていたらどうなっていたのだろうか。

 思わずそう考えてしまいそうになるが、今は限定召喚をすることが最優先だ。


 レアガチャで出した限定召喚の書を魔石に――。

 何故それが条件なのかと疑いたくなるが、おれは魔石を紙に包んだまま地面にほうった。


「…………ん? んんん!?」


 グルートオークが気付いていない状態でガチャをしてみたが、特に何も起きない。

 バヴァルもおかしいと感じたのか、首を傾げたままだ。


「ギョアアォオオゴオオッ……!! アックウゥゥ――!」


 どうすればいいのか分からず立ち尽くしていたが、オークがこちらに気付き呻きだした。


「もしかして今おれの名前を叫んだのか? まさか理性を取り戻したんじゃ……」


 図体を大きくしたグルートオークは、オークそのもので無駄な動きをしていた。

 だがおれの名前を叫び出すようになってからは、目つきが変わったように思う。


 どうやらおれを認識し、確実に気付いたようだ。

 まさか限定召喚ガチャが何も起こらない状態で気付かれるとは。


「ちっぽけな雑魚めぇぇぇ……!! ぐぅぅぉぉおおおお」


 これはまずいことになる。

 隠れる所はワイバーンで殺されかけた時よりはありそうだが、横穴のような場所は、とてもじゃないが探していられない。

 

 こうなれば召喚に頼らずに、魔法を撃つしかなさそうだ。

 フィーサがルティたちのところにいるとなれば、覚えたての強力魔法で倒すしかない。


「でぇいやああああ!!」

「――ゴガァッ!?」


 やけに甲高い声が響いてきたと思ったら、ルティだった。

 予想どおり、拳一つでグルートオークを殴りつけている。


 しかし、早くも泣き言を言い出した。


「むむぅぅ? アックさん、感触は確かなんですけど、倒れてくれません~!」


 ルティの殴り攻撃は、グルートオークの動きを止めるくらい激しかった。

 それなのに倒れる気配が無いということは、拳が軽いかオークが硬いかのどちらかだろう。


 勇者だった時の強さと防御が付与されているとすれば、通常攻撃だけでは不十分だ。

 

「うるさい雑魚が! 邪魔をするなっ!!」

「わわわわわっ――!?」


 奴のでかい手はルティを払いのけて、そのまま壁に衝突させていた。

 それでもルティは何事も無かったように、おれに声を張り上げる。


「はわぁ~! びっくりしました~! わたしは何ともありませんので、後はアックさんにお願いします!」


 あのは一体どれだけ頑丈なのだろう。

 おれにお願いされても困るが、こうなればバヴァルと同時に魔法攻撃を仕掛けるべきか。


「ガーハハハハ!! 踏みつぶしてやる! アック、死ねぇぇぇぇ……!!」


 バヴァルのことを気にする余裕は無く、グルートは容赦なく襲い掛かって来た。

 だが力がついたおかげで、グルートが踏み付ける足を押さえつけることが出来ている。


「アック、貴様ぁぁぁぁ!!」

「――ん?」

「くそぉっ!! 知らない間に何か呼んでいやがったな!?」


 グルートのでかい足を押さえつけているのでよく見えないが、薄暗い壁から見える影がある。

 よくよく見ると、その姿はドラゴンのようだ。三体ほどいるようだが、まさか――。


「なれが盗み、滅されの存在か?」

「――盗んだだぁ? 使えもしないゴミスキルが盗んだうちに入るのか、そこの雑魚に聞いてみたらどうだ、化け物め!!」


 グルートのでかい足が離れたところで、おれの眼前には三体の竜が顔をのぞかせた。

 おれの命令でも待っているのか、ジッと待っているようだ。


 命令を下そう――そう思った瞬間、おれの手の平に魔法文字が浮かぶ。

 浮かんだ魔法文字は、【ファフニール】【ジルニトラ】【バクナウ】という竜の名前だった。


 命令ではなく、奴はおれ自身の手でグルートを――そう思っていたら、一瞬で竜に宿ったような感覚を覚えた。


「勇者グルート、聖女エドラ、賢者テミド……お前たちの存在を、灰と化す!!」

「ハハハッ!! 何を言うかと思えば、雑魚な竜の力を借りた荷物持ちが僕を消す? 役立たずのエドラとテミドなら簡単だったろうが、死ぬのはてめえだ!! 死ねっっ!!」


 自分でも不思議な感じだった。

 三体の竜のどれでもないが、確かに竜としてグルートがよく見えている。


 おれは襲い掛かって来るグルートに向けて、口を大きく開いた。

 そして喉の奥――いや、体の奥底から、燃え盛る炎を吐き出す。


「――!? や、やめっっ! 嫌だぁぁぁぁっっっ!! うあ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


 こうなるとたとえ図体を大きくしたオークでも、爆炎をまともに受けた以上どうにもならない。

 みるみるうちに、グルートオークはその姿を保てず、そのまま炎に巻かれる。


 そして瀕死となっていたはずのエドラ、テミドは隙を見て逃げ出そうとしていたが――。


「ひ、ひぃっっ!? わ、わたくしを助けて頂ければ、この身はあなた様の――」

「か、勘弁してくださいぃぃ……!! お、俺はグルートに言われただけで、俺は何も!」


 何やら命乞いをしながらも、どうにか助かろうとしているようだ。

 それなら、なおさらこいつらをグルートの傍に行かせてやることにする。


「やめて、殺さないでくださ――あっあぁぁぁぁ!!」

「い、嫌ですわ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 竜の突風により、エドラとテミドもグルート同様に、炎の中心に吹き飛んだ。


 ◇


 気付くと三体いた竜はすでになく、おれは未だ消えることのない炎の柱の前で立っていた。

 そんなおれの元に、近くにいたバヴァルが駆け寄って来る。

 

「盗みへの罰を科した。そういうことでしょう」

「あの竜たちが?」

「ええ。そしてその答えは、もうすぐアック様の手元に届きます」

「――え、答え?」


 しばらく炎を眺めていたが、ようやく全てを焼き尽くしたようだ。

 灰と化せば、嫌な姿も見ることは無いだろう。


「アック様。彼らは全て一枚の魔石と化しました。どうされますか?」

「……魔石!?」


 Sランクパーティーである彼らは、確かに消滅した。

 しかし意外な形となって、俺の元に届いた。


 魔石となれば使い道はありそうだが、おれはどうするべきだろうか。

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