第13話 偽りの涙と邪悪な気配
グルートに何を盗まれたのか、今の時点で見当がつかない。
彼の傍らには聖女エドラと賢者テミドの姿があるが、知らされていなかったのかテミドだけが動揺を見せている。
おれから何かを盗んだとされるグルートは、その場で膝をつくという意外な行動に出た。
「うっ……うぅっ……アック。ぼ、僕は、間違っていたよ」
「――間違い?」
「そう、そうなんだよ。僕は君の才能、スキルに嫉妬していたんだ……だから、ガチャで落胆をしてしまった。それは僕のミスであり、完全な見誤りでもあったんだ」
「……つまり、謝るからもう一度パーティーに戻って欲しいと?」
今さら謝ったところでもう遅いのに、何なんだこの態度は。
「うううっ、そ、そうなんだ。さっき君から盗んだのは、君にとってさほど気にするスキルでもなく、いらないもの……ゴミのようなスキルだよ。僕の罪滅ぼしとして……許してくれ、アック」
ゴミスキルと思ったスキルは、おれには無いのだが。
それにしても滑稽な姿をさらけ出している。
まさかSランクの勇者が、人前で土下座をして涙を見せるなんて。
見たことの無い光景なのか、ルティとスキュラは驚いて目を丸くしている。
そこに、隣にいた彼女が耳打ちをして来た。
「(アック様。わたくしは聖女を封じましょう。あなた様は、いつでもご準備を……)」
何を盗まれたのかバヴァルには分かっていて、小細工も見破っているようだ。
とにかくここは、おれも一芝居を打ってみるか。
「……盗んだものを返してくれさえすれば、おれはあんたを許す。だが今すぐここから去ってくれ」
「返す! 返します。だ、だから、僕たちにもう一度チャンスを――」
「チャンスなんて無いな。それにおれにはもう、ここにいる最高の仲間である彼女たちがいる! 何度言われても、どんなに言われても、Sランクパーティーに戻るつもりはない!」
グルートに話をしている最中だが、盗まれたスキルが分かった。
まず一つは、魔獣変化スキルで、もう一つはガチャスキルだ。もちろん、レア確定の方では無い。
生まれた時から備えていた、ノーマルガチャスキルを盗まれているようだ。
いわばおれにとっての固有スキルにもなり得るが、【レア確定】ガチャスキルが覚醒したので何も問題は無い。
「おいおいおい、何だぁてめぇのその態度はよ!! それが涙流して謝ってる者への態度か? あ?」
「フフッ、全くその通りですわね。グルート様にあそこまで言わせて、それでも許さないなどと……思い上がりもはなはだしいことですわ!」
やはりテミドとエドラの二人からは、そういう態度を見せて来るか。
そして勇者グルートからは、早くも笑いが漏れ聞こえて来る。
「あはははっ! そうだろうね。ドワーフメイド服に子供、それと魔物を連れ歩いている君のことだ。そう言うだろうと思っていたよ。まぁいい。君が得意にしていたスキル……それを盗ませてもらったよ」
「ま、まさか……!?」
「そのまさかさ! 見たまえ、僕の手の平に浮かぶガチャスキルの証を!!」
なるほど、そういうことか。
――ということは、グルートのガチャで魔物か何かを出して、おれに向かわせるつもりのようだ。
そう予想していると、案の定聖女エドラの弱体魔法が発動を見せている。
恐らく麻痺系統だと思われるが、すでに耐性が出来ているのは幸いなことだった。
「うっうぅぅぅ……、ど、どうして」
ここはあえてかかったフリをしつつ、グルートがやるガチャを見守ることにする。
グルートは、油断してそのままおれに近づいて来る。
「はっはっは! エドラの状態異常魔法はどうだい? 苦しいだろう? そんな君に、絶望というガチャを見せてあげるよ! そこで黙って見ておくといい」
グルートは、どうやらどこかで魔石を何個か手に入れて来たようだ。
機嫌よく、そのままおれの目の前でガチャを始めた。
しかし――
「くそっ、くそぉっ!! 何でだ、何で雑魚しか出ないんだ! やはりゴミスキルなのか? アックではなく、勇者である僕でも使えないスキルだというのか!?」
一応魔物を出したようだが、そのほとんどは低級な魔物ばかり。
少なくとも勇者の意思でいうことを聞くような魔物では無かった。
アイテムに関しても同じで、どういうわけか使えそうにない素材ばかり出まくって、地面に転がっている。
芝居をしていても仕方が無いので、起き上がって決着をつけることにする。
「……何か出すつもりでは無かったのか? グルート」
「――お、お前!? 動けたのか?」
「それはそうだろ。あんたの仲間がかけた弱体魔法に耐えたからこそ、生きてここにいるんだけどな」
「くそっっ!! エドラッ! 何をして――!?」
聖女エドラは、バヴァルによって動きを封じられている。
そして賢者テミドもルティの拳とスキュラの触手によって、身動きが取れなくなったようだ。
「ちぃっ、どいつもこいつも役立たずが……! こうなったら、こっちのどうでもいいスキルを使ってやる! 魔石は全てお前にくれてやる!」
「それはどうも」
グルートはガチャに使った魔石を、全ておれの所に投げつけて来た。
おれは戦わずして、魔石を難なく手に入れてしまう。
「――が……がぁぁぁぁっ!! な、何だ……こ――」
グルートがどうでもいいとされていたスキルを使った直後のことだ。
奴は突然苦しみ出し、正気を失い始めていた。
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