第12話 奪われたスキル、そして

「ブ、ブリザードッ!」


 バヴァルの言われた通りに、属性魔法を放つ。

 彼女は「いちいち詠唱しなくてもいいです」などと言ってくれたが、味気ないので叫んでみた。


 氷魔法の初級程度らしいが、威力はすでに彼女の実力よりも上なのだとか。

 魔法を受けた獣の状態は、氷で身動きが取れなくなっている。


 おれたちはレザンスから離れた後、しばらく街道沿いを歩いていた。

 魔法の試し打ちは、道からそれた森に何匹か獣がいたので試したに過ぎない。


 歩いての移動なので、どこかダンジョンらしきものがあればそこに入る予定だ。


「ほほぅ~! アックさんは魔法使いになったのですね~! わたしにも何かかけてください!」

「ルティにか……?」

「ですですっ! アックさんの魔法を受けてみたいなぁと」


 ドワーフな彼女は頑丈だと思われるが、魔物でもない相手にかけるのは気が引ける。

 ちらりと助言者改め師匠であるバヴァルを見ると、軽く頷いているようだ。


「え、えーと……≪バ、バーニングウェーブ!!≫」

 

 魔法名はあくまで、師匠に教わったものを使うようにしている。

 その方が事故も少なく、外れる率も下がるのだとか。

 氷では無く火山渓谷から来ているルティには、ぴったりだと思って撃ったが――。


「アチャチャチャチャ……!!? あ、熱いものですね~これは、愛情みたいなものでしょうか!」

 違うんだが、黙っておこう。


 さすがのルティも結構熱さを感じている。

 火力としてはそこそこのはずだ。少なくとも、魔物なら燃え尽きてもおかしくない。


「彼女……ルティシアさんは、ドワーフですか?」

「そ、そうだと思いますが」

「それにしては――。いえ、アック様が引き当てた彼女はもしかしたら……」

「……え?」


 何だろうか。何か知っていそうな物言いだが。


「いえ、わたくしも長いこと生きておりますが、ガチャで引かれた者の力は、計り知れないものがあるものだなと感じておりまして」

「は、はぁ……」

「それはともかく、わたくしがルティシアさんの火を消して来ます」


 ガチャで引いたルティとフィーサの相性は最悪だ。

 それなのに、二人には底知れぬ力が秘められているということだろうか。


「あれ? アックさま、剣が小刻みに揺れてますけど?」

「ん?」

「もしかして、そろそろ起きるのでは?」

「あぁ、そっか。ありがとう、スキュラ」

「目覚めついでに、あたしの技をお一つお与えしますわ!」

「キミの技を?」


 何かの予感を感じているのか、スキュラは普段あまり見せない触角を出した。

 そしておれに触れるように言って来る。


「どうぞ、お好きなように。それに触れてくれると、嬉しさも増しますわ」

「そ、それじゃあ――」


 何か気まずいし、イケないことをしている気がしてならない。

 彼女の触角は自在に変化をさせていて、まるで獣の耳のような形になっている。


 しばらく触り続けたが、おれ自身に何かが起きた感じは受けない。


「ふぅ……。これでアックさまも、あたしと同じ守りを受けられますわね。どんなものが来ても、この子達が守ってくれますわ!」

「同じ守り? それ、その腰の狼たちのことを言っているのか」


 水棲怪物であるスキュラは、下半身に狼に似た守護獣を数匹ほど飼っている。

 そしてその守りがあれば、とっさのことでも何とかなるということのようだ。

 

 森をどんどん突き進んでいると、ようやく奥にダンジョンらしき入り口が見えて来た。

 タイミングを見計らっていたように、フィーサがようやく目を覚ます。


「むにゃ……マスター、この先は嫌な気配がするなの。素直に行っちゃうの?」

「嫌な? 危険な魔物でもいるのかな?」

「分からないけど、変なのがいそう」

「フィーサの強さでもそう思うのか。でも負ける感じでは無いんだね?」

「うん。マスターの強さなら平気なの」


 嫌な気配だけにフィーサが目を覚ましたということになるが、何が待ち構えているのか。

 しかしここでフィーサの強さも確かめられそうだし、迷う必要は無い。


「みんな、いいかな?」

「マスターの言うとおりにするの!」

「あたしがアックさまのお傍にずっとつきますわ」

「そ、そういうことならっ! アックさん! ささっ、グイっと!」

「ん、あ、あぁ――」


 そんなつもりは無かったが、ルティを魔法で燃やしてしまったので逆らえなかった。

 彼女が熱冷ましに飲み干していたものと同じものなので、おれも一緒に回復ドリンクを飲んだ。


 ――うおっ!?

 こ、これは体力増強、増進……加えてこれは、防御力アップか何かか。


「なるほど。ルティシアさんの錬金術ですね。作製者本人ももちろんですが、アック様の方がより高まっている。急激な強さの変化にも耐えられるような飲み物ですね……恐ろしい」

「何だか防御力も上がってるようなんですが、分かりますか?」

「恐らくそれはダメージ軽減のファランクス。ルティシアさんは気付いていませんが、その飲み物には色んなものが混ざり合っている……それも、アック様向けに」


 不味くも無ければ美味しく頂いているが、中身は結構危険なものだったか。

 おれは気を取り直して、ダンジョンに入った。

 

 森のダンジョンということもあり、しばらくは大きめの木に囲まれながら進む。

 天井部分からは、吹き抜けの陽射しがおれたちを照らしている。


 木々の姿が無くなり、薄暗い所に差し掛かり始めた。バヴァルが灯り魔法を照らそうとした時だ。


「――あぁ、遅かったじゃないか。出来た仲間と戯れるのも悪くないことだけど、荷物持ちの癖が抜け切れていないのかな?」


 忘れるはずも無いが、勇者グルートの声だろうか。

 薄暗さの中でよく見えないが、かなり間近にいる。


「容易いことをしたくなかったけど、明るくなる前に奪わせてもらうよ、アックくん……」

「な、何っ!? うっ――!?」


 痛みなどは感じられない。しかし何かが無くなった気がしている。

 まさか――。


 灯り魔法を放ったバヴァルとおれは、目の前にいたグルートに驚く。

 それと同時におれの手の平から見えたのは、スキルを示す魔法文字ルーンだった。


「悪いね、アックくんのスキルを奪った。何を盗めたかな? 役に立つものかな、あぁ楽しみだ」

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