第8話 彼女たち、努力させる!?

 神殿で賢者テミドに遭遇してしまった。

 これ自体は驚くほどでも無かったが、あの男だけで何をしていたのかは気になる所だ。


 Sランクパーティーのあいつらは、常に三人で行動していたはず。


 しかし荷物持ちの時に思ったのは、賢者だけは独断で動いている――そんな感じに見えた。

 それを考えればあがめ恐れられているのは、勇者と聖女の二人だけだろう。


 勇者は短気な賢者とは考え方も違って、冷静冷淡に攻撃を仕掛けて来るはずだ。

 だからこそおれはテミドを泳がした。


 勇者たちがまだラクルの町周辺にいるのなら、やりようはある。

 テミドだけ単独行動をさせ、あの二人だけが町を離れているのであれば、おれとしても確実な強さを身につけておかなければならない。


 ◇◇


 おれたちはラクルに戻って来た。

 テミドのことは置いといて、まずは落ち着こう――そう思っていたが、彼女たちは違うようだ。


「まったく全く~ですよっ! 何なんですかあの男は!! アックさんにあんなことを言って、挙句の果てに攻撃をしようとしていたんですよ! 腹が立って仕方ないです!!」

「いや、何でルティが――」

「本当ですわね。あたしが見逃していたばかりに、アックさまに嫌な思いをさせてしまいましたわ」

「スキュラのせいじゃな――」

「マスターが止めなければ、わらわだけでも動いたのに~!!」

「ご、ごめん!?」


 ――といった感じで、おれ以上に彼女たちの闘争本能に火がついてしまった。


 スキュラはガチャで仲間になったわけではない。

 それなのに、怒りを露わにしてくれているとは何とも頼もしい限りだ。

 スキュラが強そうなのは何となく分かるし、フィーサの剣としての強さもきっとすごいはず。


 そうなると出来ることといえば、彼女たちを成長させつつおれの力を上げまくること。

 勇者たちのレベルとどれくらいの開きがあるのかは、サーチスキルでもない限り調べようがない。


 それを気にするよりも、成長しまくってあいつらに泣きを見せてもらう。

 それが最短かつ、最強のやり方だろう。


「アックさん! わたしに考えがあるのですが、聞いてくれますか?」

「うん? それは?」

「アックさんをわたしの故郷にお連れして、灼熱温泉に浸かってもらうんですよ! そうすれば生まれ変わるんじゃないかと!!」

「故郷って、火山渓谷の……?」

「はいっっ!」


 それは別の意味で生まれ変わりそうなんだが……。

 レアガチャでルティを引いたのはいいが、ロキュンテはラクルと真逆の大陸にある。


 そこに行くのはどうやってとなるだろうし、時間がかかった分、勇者たちあいつらを調子に乗らせる恐れがありそうだ。

 

「ルティの気持ちは嬉しいけど、ロキュンテは遠い。だから、キミの努力は別の形で受け取るよ」

「はふぅぅ……そ、それならっ! もっと即効性のあるドリンクを作らせていただきます! 頑張りますよ~」


 そういうとルティは樽を抱えて、どこかに走って行ってしまった。

 最初の頃よりも愉快な彼女になってしまったが、それはそれで楽しいからいいか。


「マスターは決して弱くないの。だからわらわが選んだんだよ! 怪力だけの小娘だと強さの底が上がらないから、マスターさえよければわらわが剣の特訓をしてあげるっ!」

「具体的にはどうやって?」

「たくさん倒すだけだよ! 剣はそういうものだもん。荷物持ちはよく分からないけど、マスターは決まった形じゃないんだよね?」

「ジョブのことかな?」

「うん、それそれ! それなら何でも覚えられるし、すごく強くなるよ! だから一緒に成長しよ?」

「倒す――そうか。……そうだよな、ルティにつられて拳で何とかしようとしてたけど、魔法とか剣で強くなれるんなら、そうしようかな」


 ガチャで彼女たちを引き、駆け足で上がって来た気がするが、まだその辺の敵と戦ってもいない。 

 戦わないと成長しないなら、そうするしかなさそうだ。


「アックさま。それならば、魔法を覚えてみませんこと?」

「魔法スキルが無くても覚えられるのか?」

「いえ、ガチャスキル……魔石を使いこなしているという時点で、魔力は十分に備わっておりますわ。アックさまはまだ何も知らない赤子のようなもの。可愛がって差し上げ……ではなく、素質は間違いなくありますわ」


 魔石によるガチャスキルは、生まれつきのものだ。

 ただそれ以外のことをして来たことは無かっただけで、属性結晶を使えたことは意外だった。


 聖女からの状態異常に耐えて生き延びたのも、耐性がすでに出来上がったことを意味している。

 そうなれば次の段階は、攻撃的な魔法を使えるようになるだけだ。


 スキュラは属性魔法に長けていそうだし、魔法は彼女に教わるとするか。

 Sランクパーティーだとか関係ないくらい強くなって、必ず這い上がってやる。 


「あぁ、楽しみだ!」

「フフッ、それはあたしもですわ! あなたさまの最期まで、全て面倒を見て差し上げますわ」

「あ、ありがとう……」


 ラクルを離れて別の町、もしくは他国に行ってみるかな。

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