第7話 神殿と予期せぬ遭遇
スキュラに案内されるがまま、海底の古代種神殿にたどり着いた。
神殿というからには、厳かな雰囲気で迂闊に近づいてはいけない像が出迎える――と思っていた。
だが着いてみたら拍子抜けで、古代人が残した居住跡が広がっていただけだった。
空間こそだだっ広いが、海からの水が漏れ出しているなど、忘れ去られた場所といっていい。
ギルドからの依頼になっている時点で、一度は誰かが来ている。
それを考えると、目新しさは無い。
「スキュラ。ここに倉庫……いや、宝物庫か何かあるかな?」
「それでしたら、四本の柱が立っている辺りの通路から、奥に突き当たった所に部屋がありますわ!」
「そうか、ありがとう」
広さ的には大したことは無いし、迷うことも無い。
それなら一人で行って、お目当ての物を探して荷物袋に入れて来ればいいか。
皮肉だが、荷物持ちのスキルがこういう時に役に立つ。
今思い出しても、おれは荷物持ちとして長く働いたわけでは無かった。
もしおれがいなかったとすれば、勇者たちは違う荷物持ちの人間を連れ歩いたりするのだろうか。
もはや思い出したくも無いが、必ずあいつらに思い知らせてやりたい。
「アックさん、どこへ行くんですか? わたしも行きますよ~」
「あぁ、ギルド依頼の物資の調達にね」
「それなら、なおさらわたしも一緒に!」
どうするか迷うが、同行者が同じ依頼を受けていれば、一人が確保するだけで達成扱いになる。
しかしルティもおれも初めてだし、一緒に行ってみるのも悪くない。
おれの傍を離れないと言っているスキュラも黙ってついて来るだろうし、みんなで行くしか無さそうだ。
◇◇
彼女たちと一緒に宝物庫に入ろうとすると、うっすらと暗い部屋からガサガサと音を立てて、書物か何かを散らかしていた男の姿があった。
「お、お前! 荷物持ちのアック!? 何でここにいやがる……。ワイバーンにやられてくたばっちまったんじゃなかったってのか?」
同じ依頼を受けた冒険者がいないとは限らない――そう思っていたが、まさかこんな所で出遭うとは。忘れるはずも無いが、男は、Sランクパーティーにいた賢者テミドだ。
「あの、アックさん。あの方はどなたですか?」
「アックさまの他にも何かが入っていたのは知っておりましたけれど、つまらなそうな人間に見えましたので放っておいたのですわ」
彼女たちが一緒に来て良かったと考えるべきか、それとも一人で来た方がいらないことに巻き込まれずに済んだと思うべきなのか。
周りを見回した感じとスキュラの言い方では、ここに来ているのは賢者だけらしい。
ギルドの依頼を受けて来たのか、それとも――。
「おれが生きていて、何かテミドに不都合なことでも?」
「――あぁ? おいおい、テミドさまだろぉ? 何かよく分からねえ魔物と、荷物持ちの女を引き連れているようだが、お前ごときが冒険者気取りしてんじゃねえ!!」
態度の悪さと罵声は健在のようだ。
それしかないとも言えるが、威圧で片付けようとしているのが見え見えすぎる。
賢者テミドの強さは、ワイバーンの時に見えた魔法だけで、それ以外は態度がデカいだけだ。
ここで言い争いをしても、魔法あるいは何らかの攻撃を仕掛けられるのは目に見えている。
勇者と聖女がここに来ていないことを考えれば、この男だけでも痛めつけることは出来そうだ。
そんなことを思っていると、傍にいる彼女たちからやる気のある音が聞こえて来る。
「アックさん、今度こそ拳を使っていいんですよね? 何だか唸らせたくて仕方がありません!」
「……あんな野蛮な人間ふぜいは、この神殿に似合いませんわ。貝殻石に混ぜて洞門の壁といたしません?」
ルティはすでに準備万端のようで、今すぐにでもテミドを沈めたいのか、微笑みの圧が凄い。
鞘に収まって眠っていたはずのフィーサは、剣を抜いて欲しくて小刻みな音を立てだした。
スキュラにいたっては、何かの魔法を手の平に作り出す動きをアピールをしている。
テミドのはっきりとした強さは分からないが、今はまだおれ一人だけでは優位に運べない。
だが彼女たちは強く、すぐにでも吹き飛ばしてくれそうだ。
おれとしては、どうせなら勇者たちを三人まとめて倒したい思いがある。
ここは相手を泳がして、おれが生きていることを知らせてもらおう。
その手土産に、アレでも当ててみるか。
「ルティ。さっきの精霊結晶の欠片をおれにくれないか?」
「どうぞ!」
「すぐに使うことになって、ごめんな」
「いえいえ~」
属性結晶は属性を封じ込めていたが、精霊結晶の欠片はすでに何らかの精霊が込められている。
これをテミドに投げつけてみれば、何の精霊なのかすぐに分かりそうだ。
「ちっ……手間を取らせやがって。おい、荷物持ち! 聞いてんのか?」
「――悪いがおれはもう荷物持ちじゃない。テミドがここで何をしているかも興味は無い。ただ、おれたちの邪魔をしてもらいたくない」
「邪魔はお前の方だろうが! 面倒くせえな、レアな書物なんざ知ったことか!! 死ね、荷物持ち!」
これほど余裕のない賢者も珍しい。
テミドとおれたちは、ある程度の距離がある。
魔法を使う者なら関係なく攻撃を仕掛けられることを踏んで、先制攻撃を仕掛けて来た。
だが――
「――これをやるよ、テミド」
「なっ!? 闇精霊……だと!? この野郎……どこでこんなもん――」
精霊結晶の欠片を投げつけ、それがテミドに当たると、中から出て来た闇精霊が黒い霧のようなものを展開した。
闇精霊が攻撃して来ないと思っていたようで、テミドは視界を失っている。
「くそがっ……!! 見えねえ、見えねえぞ! ふざけた真似をしやがって!」
視界を失うと何も出来ないと感じたのか、テミドは手探り状態のまま宝物庫から出て行こうとしている。壁づたいすら怪しい動きで、バランスを崩しながらいなくなったようだ。
「さて、と……物を回収してラクルに戻ろうか、ルティ」
「――は、はいっ!」
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