第6話 魔石と導き
海底に何かがあると言っているようなものだが、どうやら侵入して来た者を止める魔物らしい。
ここを戦わずして進むには、光輝くものを彼女に渡せばいいようだ。
「うおお~! ここはわたしの出番ですよ~。何が来たって拳で!」
ルティだけは戦う気力が十分で、握りこぶしを何度もぶつけながら戦闘態勢に入っている。
戦いに来たわけでも無く、あくまで依頼をこなすだけなのでここは大人しく引き下がるか。
「分かった。キラキラしたものを差し出す。そうしたら、この先に行っても何もしないんだな?」
「何もしないどころか、案内をして差し上げるわ! 見た感じあなた、頼りがいが無さそうですもの。欲しいものを頂けるのなら、最期まで面倒を見てあげる」
「……それでいい。それで、必要なものは何だ?」
「キラキラしたもの――そう言えば人間なら分かりそうなものだけど?」
高価な品でキラキラしたものといえば、宝石が思い浮かぶ。
この洞門には貝殻をあちこちで見かけるが、探せば真珠くらいは出て来るだろうか。
そうなると、単なる宝石では満足しないはず。
レア確定ガチャなら、それらしいものも出てくれそうではあるが――。
とにかく引いてみるか。
「――って、駄目だルティ! 戦うとは言ってないぞ。そのぶんぶんと振り回した拳を引っ込めて!」
「えええ~? 何でですか!? だってどう見てもやる気じゃないですか! これは拳で黙らせて……」
「ルティシア・テクス。おれの言葉を聞けないなら――」
「はうぅっ!? 嫌です嫌です~! アックさんに逆らいたくないです。ごめんなさぁぁい!!」
言うことを聞けないなら、後でいくらでも愚痴を聞く――そう言おうとしたのだが。
恐ろしいことを言われると思ったのか、ルティはしょんぼりとおとなしくなってしまった。
気を取り直してガチャを引くと、
【藍石の宝珠】【緋石の宝珠】【白石の宝珠】
【氷晶石の宝珠】【精霊結晶の欠片】
など、4種類の宝珠と精霊結晶の欠片が出て来た。
今回はアイテム系だからなのか、魔石から特に熱さを感じない。
気にすることもなく腰袋に魔石をしまおうとすると、突然誰かにその手を押さえつけられた。
「あーー! 何をしているんですか!!」
ルティが声を張り上げている。
おれの手を押さえつけ、腰袋にしまうのを止めたのは魔物の彼女だった。
「その魔石を頂けない? それがあれば、全てに満足出来る気がするんだよね」
「……これはあげられない。悪いが、そこに置かれている宝珠をもらってくれ」
彼女の様子が何かおかしい。
まるで何かに憑りつかれているような、そんな感じがする。
「見ていたわ。その魔石から出て来たのよね? それさえあれば、宝珠であろうといつでも出せるはずだわ」
元々はワイバーンからドロップした魔石ではあるが、色んな属性と混ざり合って出来た魔石だ。
特別な何かが魔石に封じられている可能性は、決して否定出来ない。
敵意を感じさせない彼女だったが、魔石が気になって仕方が無いようだ。
そのせいか、おれの手を押さえつける力がかなり強い。
眠っているフィーサを鞘から出して、斬りつけてみることも出来るが――。
「このぉぉぉ!! アックさんから離れなさいっっ!」
迷っていると、ルティの拳が彼女にヒットしていた。
ルティの力は相当なもので、水棲の彼女は吹き飛び、壁に叩きつけられている。
攻撃をするなと言っていたが、これは怒りようが無い。
「う~んん……あれっ? 何で壁に張り付いていたのかしら?」
頭を打ったことで、彼女は正気を取り戻したようだ。
レア確定を覚醒させた魔石からは、少なくともおれに悪さを引き起こすことにはなっていない。
しかし魔石は本来、ガチャをする以外では見かけないレアなものでもある。
何らかの原因で魔物の彼女に影響を与えたと考えるべきか。
まぁ、何とかなるよな。
「わあっ!! キラキラ~! ねえねえ、これ全部頂いていいの?」
完全に正気に戻っているみたいで、地面に転がる宝珠に夢中のようだ。
「構わないよ。全部キミのものだ」
「やったぁ~! それじゃあ約束通り、人生の最期まで傍にいてあげますわ! あなたさまっ」
「――今、なんて?」
「聞こえなかった? あたし、スキュラ・ミルシェは、あなたさまのお傍でずっとお仕えしますわ!」
「い、いつからそんな約束を!?」
「キラキラしたものをくれるとおっしゃられた時からですわ。あなたさまのお名前が知りたいです」
「ア、アック・イスティ……」
「アックさま! それではこの先の古代種神殿へご案内差し上げますわ!」
「神殿か。そこに物があるということか」
「それでは参りましょう、アックさま」
そういうと、スキュラは先の方で手招きをしている。
よりにもよってフィーサが眠っている間に魔物の子が味方になるなんて。
ルティの拳には聖なる力でも含まれて……あぁ、回復魔道士だった。
「どうしてそうなるんですか~!! あれっ? アックさん、こっちの結晶の欠片はいらないんですか?」
「うん? そうか、光ってないからか。それならルティ。きみが持っていていいよ。精霊結晶の欠片だし、何かに使えるかもしれないよ」
今回はガチャの力で得られた仲間では無かった。
必ずレアガチャで味方を得るとは、限らないわけなのだが。
間接的に仲間になったという意味では間違っていないので、良しとする。
ルティの拳の効果も分かったし、おれの力もまた上がった。
さらには魔力の強そうな味方も増えたことだし、よほどの相手じゃなければ戦える気がする。
とにかく今は神殿に行って、依頼を終わらせることにしよう。
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